実生(種まき)の技術を本気で磨き、失敗させたくない方は、必ず最後までお読みください。
日頃からFMGを精読頂いている方であれば、ピンときているかもしれませんが、一年草はもちろんのこと、発芽しづらい宿根草でさえも発芽させることができ、しかも、発芽率も実際に得られる苗の本数も飛躍的に増やすことのできる播種技術のキーワードがあります。春化処理です。
春化処理で発芽する農芸化学的原理
実は、春化処理という播種技術は、農芸化学的原理に基づくものです。
冬に種子の状態で休眠し、春になって発芽するという生態を有する植物の種子は、乾燥保存時や冬季には、生育に適さない状態であることを察知し、アブシジン酸という休眠に関わる植物ホルモンの作用や品種に特有な発芽抑制物質の作用により、生育反応を停止させた仮死状態で休眠しています。実は、このような発芽が化学的に抑制されるしくみは、植物の生き残り戦略としてきわめて重要なのです。低温や旱魃など、生育に適切ではない状態で覚醒状態になってしまうと、明らかに生育に適さない状態ですので、生育が停止したままになるか、とくに発芽したての種子は、植物体としての体力が非常に弱い状態ですので、そのまま枯死してしまう残念な結果になるだけです。春の地温上昇を反復的に感知すると、種子内では、ジベレリンの生成が促されることにより、休眠覚醒が誘導されます。ジベレリンは種子の休眠覚醒や植物の生長促進・調節(とくに花芽分化や結実、種子形成といった生殖に作用)に作用する植物ホルモンで、アブシジン酸とは拮抗的に作用する関係にあります。このジベレリンの作用の影響がアブシジン酸のそれに優先すると、ジベレリンによる植物ホルモンとしての作用が起こります。湿潤下で冷蔵状態の種子は、冬季の土表面に相当する状態ですが、少なくともその状態になる前か途中に、冷蔵状態よりも十分に高い温度にあうと、それを、三寒四温を繰り返す春だと錯覚することにより、種子内でのジベレリンの生成が促されて、その作用が優位となり、その結果、発芽しやすい状態になるというわけです。その現象を、園芸農業技術として応用したのが、春化処理です。
宿根草の種子の発芽が難しく、発芽に時間がかかるのには、それなりの理由があります。それは、あまりにも簡単に覚醒してしまうと、春先の三寒四温を繰り返している間に、一度でも適さない条件に遭遇すると、生き残れないリスクが高いからです。時間をかけて何度か覚醒を誘導する条件にさらされることにより、正しい発芽に備え、活着しやすい条件を狙っているのです。発芽に1ヶ月前後を要する種子があるのは、そのためなのです。そのような種子であっても、種子の生態を理解して、丁寧に春化処理を行うと、そのまま播種しただけで発芽しない品種の種子であっても、発芽率を飛躍的に高めることが可能になることがあります。
春化処理が有効な植物
冬の間種子の状態で休眠し、春の温度上昇を感知して発芽する生態を持つ植物、すなわち、温帯や亜寒帯地域を原産地とする植物で、そのような生態を持つ植物は、春化処理による発芽率向上効果が期待できることになります。
温帯産であっても、春の温度上昇を感知して発芽する生態がない植物であったり、そもそも低温にあう機会そのものがない熱帯産の植物の種子に関しては、春化処理による発芽率向上効果は期待できません。とくに、熱帯産の植物に同様の処理を行ってしまうと、種子が低温障害によりそのまま枯死してしまうことになりますので、植物の原産地や生育特性を理解しておくことは非常に大切になります。
この記事は、春化処理による発芽率向上のヒントを提供する記事になります。うまくいけば、園芸や農業で新たな品種を導入するコストが大幅に削減できたりもします。実際に成功させるためには、資材や道具の扱いなど、実技的なスキルも必要になります。実生の成功率を高め、園芸や農業の質を向上させたい方は、ぜひ、銀鮒の里アカウントを取得いただき、能勢・ぎんぶなのうえんにご来園ください。実際に対面して実践するのが、確実に成功させることにつながります。
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