農業における種を守るLinux型ジーンバンク

【訂正】以下のとおり、訂正します。

誤:この仕組みを悪用し、農薬メーカー系の多国籍アグリビジネス勢力は、種子法のもとで公的に保護された品種までも独占するようになってきています。

正:この仕組みを悪用し、農薬メーカー系の多国籍アグリビジネス勢力は、種苗法のもとで公的に保護された品種までも独占するようになってきています。

農業者がLinux運動を理解すべき理由

意外に思われるかもしれませんが、自家採種しつつ、遺伝子レベルでの変異を利用して、地域の風土に合った選抜育種をする伝統的な農業は、Linux運動やCC(Creative Commons)ライセンスなどといったオープンソースの考え方と多くの共通点があります。実は、昭和の頃の農村であたりまえに行われていた農業そのものがオープンソースなのです。例えば、Linuxでは、

コミュニティに公開されたソースコードは公有の権利(みんなのもの)であって、特定の人や団体等がその権利の独占を主張し、その権利そのものを売買することは認められない。(オープンソースの大原則)但し、ソフトウェアに付随する技術的役務等に関して、その対価を得ることは、それを妨げない

というのがありますが、このことは、伝統的な固定種の野菜(PVP品種等一部の例外を除く)でもあてはまります。誰しも、UbuntuやDebianといったソフトウェア本体そのものに、独占的対価を付して第三者に販売することは、禁止行為です。なぜなら、ソフトウェアそのものは、実質的な公有物であり、誰でも無償でのダウンロードができる権利が保障されているからです。これは、農作物の品種では、育種権に相当します。伝統的な品種や原種(野生種)そのものには、独占的な育種権というものが存在しません。そのため、伝統的な品種そのものは、誰でも自由に作付けし、自家増殖も認められています。もちろん、伝統的な品種の収穫物や、自家増殖した種苗を第三者に販売することも自由です。それは、Linuxにおける「ソフトウェアに付随する技術的役務等に関して、その対価を得ることはそれを妨げない」ということに対応します。しかし、育種権の主張がある品種については、自家増殖した種苗を自家使用して、その生産物で収益を上げる行為や、自家増殖した種苗そのものを第三者に販売する行為(または、無償配布を含む、権利者からの正規購入を妨害する行為)は、種苗法で禁止されています。これは、Windowsなどの有償クローズドソースのコピー(海賊版)を配布したり販売する行為に相当します。

固定種(伝統品種)では、栽培地独特の特性に適応した変異株が生じる可能性がありますが、世代ごとにこのような株を選抜していくことを繰り返していくと、実質的な(自然発生的な)品種改良になります。これは、Linuxでは、ソースコードの改変に相当します。Linuxはソースコードを編集し、その成果物を公有財産として公開することも自由です。野菜などの固定種も、認知されているものだけでも1,000種を超えるともいわれるLinuxディストリビューションも、このようなことの繰り返しで、多様性を実現してきたのです。

さらに、近年の種子法廃止と種苗法改正で、国や地方公共団体によって開発された品種やそれらに付随する知見の保護は行われなくなり、それら一切の権利が、民間企業に移譲されるようになりました。この仕組みを悪用し、農薬メーカー系の多国籍アグリビジネス勢力は、種苗法のもとで公的に保護された品種までも独占するようになってきています。これは、さまざまな方向から、オープンソースの普及や活用を阻み、多くの人は諦めてWindowsを使わせるようなこととよく似ています。しかも、そのWindowsの発明者のひとりであるビル・ゲイツは、遺伝子組み換え技術や化学合成農薬の積極活用などといった、多国籍アグリビジネス勢力に加担する立場にあるという重なりようです。

種苗法の改正で、育種権の侵害の疑いがあり、訴訟を起こす場合、改正前は、厳密な客観的証拠資料の収集と提示が必要でしたが、改正後は、ただ「疑わしい」とするような簡単な手続きだけで訴訟を起こせるようになったことも問題となっています。いいかえれば、いつ、どこから言いがかりをつけられるか、育種者の立場でも怯えずにはいられない状況になっているといいます。もし、多国籍アグリビジネス勢力から巧妙に訴えられたら、勝ち目はないともいわれています。固定種であれば、独特のクセ味が強く、無難な水っぽい味に育種する近年のF1のような問題は起こりえないかもしれませんが、全く関係がないわけでもありません。そのため、ジーンバンクを実際に立ち上げ、運営するにあたっては、万一、訴えられても、異質性が明確に立証できるよう、正確な品種名(例:トマト ポンデローザ)と保存する種の形質の特徴や食味をできるだけ精細に記録し、また、栽培地(環境)や栽培方法の違い等に起因する変異の可能性もあるので、同一の品種であっても、念のために、栽培地(栽培者)別に系統(strain)番号を付し(例:トマト ポンデローザ”能勢1号”)、それらの情報をしっかりと紐づけしてから保存するといった防衛策が必要になるといいます。

昔から、農村の農民というのは、経済的な立場などで弱者の立場にありました。今日、農芸化学の発展やフィールド知見の集積・分析などによって、農業技術は飛躍的に進歩し、農家にとって、これまでにない智の恩恵を受ける機会がもたらされてきました。農芸化学に基づく最先端の市民的農業技術を保有する農家は、その意識次第では、自ら豊かになれるだけではなく、社会全体をも豊かにしていけるだけのポテンシャルを秘めているのです。しかし、そんな矢先に、多国籍アグリビジネス勢力が巧妙な妨害に入り、それに便乗するかのように、マイクロソフトは農業の情報化にWindowsを使わせるように迫り、ゲイツ財団は多国籍アグリビジネス勢力を支援しては、多国籍アグリビジネス勢力とマイクロソフトとが、農家から搾取した甘い蜜をなめ合う関係になったのです。今まさに、日本の農家は、「これではおかしい」と声を大にしていく必要があります。

約30年前に始まったLinux運動は、商業依存により、経済格差の拡大が社会問題になりつつある社会情勢にあって、誰もが公平公正に知的恩恵を得ることができる仕組みづくりの、現代のオープンソース運動では最も成功している例といえます。その恩恵にあやかり、Linuxのオープンソースの仕組みを、農作物品種を保護保存し、伝統品種を再普及させるジーンバンクに移植した、オープンソース農業の普及再興を目指すジーンバンクに活かすことが重要な意味を持ちます。そのような取り組みの基礎づくりが、能勢町のぎんぶなのうえんで始まっています。現在、種苗店経由で種子を入手した大阪府産 田辺大根などの能勢町適応株の継代選抜(第1代目)を行っています。(田辺大根の場合、昼夜の温度差、とくに夜間氷点下にまで下がる能勢特有の冷え込みと土壌の低窒素に適応性があり、根の甘味が強く葉のえぐ味が少ない系統の選抜が目標です。)能勢を味の濃い伝統野菜や花で活気づけたいという意欲をお持ちの方は、ぜひ、コメントをお寄せください。心よりお待ちしております。

※主要な多国籍アグリビジネス勢力には、バイエル(ドイツ;旧 モンサント(アメリカ)を買収)、コルテバ(アメリカ;ダウ・デュポンから経営分離)、シンジェンタ(スイス;親組織は中国の中国化工集団公司)があり、これらの例はすべて農薬を製造・販売する化学会社が一代交配・遺伝子操作種苗等を扱う農業事業に事業拡大した形をとっているのが特徴です。

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