都会からの「自然農法家庭菜園家」が篤農家から激しく嫌われる本当の理由(SDGs2・8)

よく、農村移住系メディアで、都会から農村に移住した人のことで、「いきなり自然農法で自給自足したいという人は、農村では肩身が狭い思いを強いられる」とありますが、IPM(総合防除管理体系)などの農芸化学も学んだ農村の篤農家の立場で見れば当然のことだといえます。その理由は、素人発想の自然農法絶対信奉は無責任の偽善であって、結局は利己的で無責任だということです。

農家は食料安定供給の社会的責任を背負っている

農家に課せられた最大のミッションは、SDGs第2目標の「飢餓をなくそう」にも直結する「消費者に食料を安定供給する」ということです。そのためには、農薬や化学肥料の使用もやむを得ないと考える農家は圧倒的多数であるというのが現状です。そのことをすぐに問題視したくなるのもわからないわけではないですが、その前に考えていただきたいのは、「では、あなたが理想と考える自然農法だけで、現状の食料の安定供給はできますか」ということです。結論からいえば、それは、99%以上の確率で無理です。農家は好きこのんで農薬や化学肥料を使っているわけではありませんし、いわゆる「自然農法家庭菜園家」が力説するように、自然農法が絶対的に優れているのであれば、やらない理由がないので、ほとんどの農家が実践しているはずです。何年も自然農法の可能性に挑戦するものの、病虫害や肥料の効きが悪いために収量が半分以下に減少し、そのうえ、鹿や猪、モグラの獣害も加わり、自然食品に理解がある人にすら売れず、自然農法農家ではとても生計が立てられず、結局、化学肥料を使い、場合によっては、農薬の使用も容認する、有機認証の対象外となる慣行農法に近い農家になったという農家も多くいます。農業は体力も精神力も必要ですから、持続可能な農業を考えるうえで、作業効率はとても重要です。業として割が合わなければ、やっていられないわけですから、耕作放棄も起きるでしょう。これは、SDGs第8目標の「働きがいも経済成長も」と関係します。しかし、「自然農法家庭菜園家」は、こういった、農家の蔭の努力など見向きもせず、無責任な自論を主張するばかり。こうして、「自然農法家庭菜園家」は、無意識のうちに、多くの農家を見下し、敵に回していたというわけです。

成果が出ない自然農法の不都合な現実

植物である農作物は正直です。農家の行いがそのまま収穫結果に現れるのです。多くの場合、自然農法の田畑では、慣行農法と比肩するような結果は得られません。それでも「自然農法家庭菜園家」は、ほんの一握りしかいない「自然農法の成功者」の事例を例に挙げ、何の根拠もなく「絶対にできるはずだ」と主張します。しかし、農業というものはそんなに甘くはありません。自然農法であれ慣行農法であれ、農業は応用科学ですから、成功も失敗も、その一つひとつの原因を科学的に解析し、次の作付けにフィードバックさせることでPDCAを回すことが欠かせません。しかし、「自然農法家庭菜園家」は、根拠の脆弱な勘に頼るので、それがありません。結局は、「自給さえできたらいい」という言い訳をつけて、農業では話にならない出来高の低さに甘んじるから成長しない、それを作付けごとに繰り返すから、自然農法がよりいっそう冷ややかな眼差しで見られるというわけです。

真剣に農業をやるなら農芸化学を勉強しなさい

農薬を使う一般的な慣行農法よりは手間がかかることはありますが、施肥技術の工夫をIPMの主幹に据えることで、病虫害予防と収量増加を両立させる農業技術も考えられます。その養分はなぜ必要であり、植物体内でどのように使われるのか(どのような物質の原材料になるのか)を、生化学的に、かつ、化学哲学的に考えることができれば、植物の状態に応じた柔軟な施肥管理を行うことができますし、とくに農業で生計を立てていこうというのであれば、農業の現場では、肥料の速効性も重要となってきますので、化学肥料の使用の選択肢も外すわけにはいかないのです。よく、「化学肥料を使うと不味くなる」という方がいますが、これは半分以上誤解を含んでいます。自然農法でも栄養失調状態になれば、不健康な状態なので、当然食味も落ちます。宗教団体等で、あまりにも非現実的な施肥規制をする場合があるようですが、安定供給を前提とした農業ではあり得ない、まさに「道楽趣味の範囲を出ない」ことなのです。知性や主体性に乏しく、化学を毛嫌いし、化学を敵対視するというのも、嘲笑に値する「自然農法家庭菜園家」に多い特徴です。農業で安定供給を実現するには、農芸化学の知見の反映が欠かせません。農芸化学なくして、安定生産なしということです。

「篤農家=自然農法・有機農法実践者」ではない

前にも述べたように、農産物の安定供給のためには、化学肥料の使用は不可欠です。しかし、化学肥料には、有機JASなどの規格で認められていないものも多く、そのような肥料を使用すると、有機栽培農産物としては認められません。篤農家でも、有機農法や自然農法を実践していない農家は多くいます。有機農産物のシェアは日本では0.1%台、スイスやイタリアのような有機農産物シェアが高い国でも10%あるかないかという程度ですが、速効性がある化学肥料に使用制限があるため、多くの農家は実践したがらないわけです。環境に優しく、健康にもよく安全な農産物は自然農法や有機農産物だけだというのは、科学的に誤った認識です。化学肥料でも、硝酸性窒素やそれに変換されやすいアンモニア性窒素を与えず、有機肥料であっても、窒素を控えめにすることが重要なのです。(有機肥料であっても、与えすぎると、その余剰分が、アンモニア性窒素への分解を経て、土壌中の硝酸菌の作用で硝酸性窒素にまで酸化され、それが植物体に取り込まれることで、農作物中の硝酸性窒素が増加する可能性も否定できないわけです。)そういうことを総合的に考慮し、化学肥料も賢く活用して、高品質の農産物を安定供給する農家こそが、農業の現実を見据えた篤農家といえるわけです。自然農法を絶対信奉し、農芸化学の研鑽を怠り、化学肥料を根拠なく否定するようなら、そのやり方を改めないと、日本が食糧不足で飢餓に喘ぐようになっても、農家は誰一人としてあなたを助けないでしょう。

コメント

PAGE TOP
⚠警告:非認証ユーザーのコピー行為はあなたにとって重大な法令リスクを伴います。