責任ある農業とはなにか(SDGs2・3・8・12・13・14・15)

有機農法やさらに厳格な自然農法…一見して崇高な取り組みのように思えます。しかし、SDGsの観点からみると、それだけにこだわることは責任ある取り組みだといえるでしょうか。

よくいわれることですが、有機農法や自然農法では、慣行農法に比べれば、収量の減少や不安定化は不可避ですし、収量安定性を慣行農法と同等の水準に近づけるには、10年以上もの歳月を要する(作物によってはほぼ不可能)ともいわれています。

農産物収量の増加とその安定化は、SDGs第2目標の飢餓の撲滅のための必須課題であり、自給率が30%台と危機的な状況にある日本も、その例外ではありません。もし、輸入先の国や地域が異常気象による旱魃に見舞われたり、政情不安に陥った場合、多くを輸入に依存する日本は、脆くも飢饉に喘ぐことになるおそれもあるわけです。

莫大な労力を要するのも、有機農法や自然農法の問題点です。SDGs第8目標である、やりがいを実感できるディーセントワークの実現は、農業でも例外ではありません。農業に「きつい・汚い・危険・低収入」のいわゆる3K1T労働という印象が持たれていることから、小学生の将来なりたい職業の上位に入らないという問題も厳しい現実として受け止めるべきですし、「有機農法=臭くて汚い、しかも倫理上の問題もある動物性堆肥を使用」という、オーガニックの闇の側面もあることもあることも決して無視してはならないことです。農業従事者を永続的に確保するためには、農芸化学的に理のかなった、無理をしない農業を実現するということ、すなわち、有機農法・自然農法に、最新のIPM(総合防除管理)技術の考え方を折衷するというバランス感覚が大切だということです。

SDGs第13・14・15目標は地球環境・地域環境に関する目標ですが、これでさえも、従来の有機農法では、多くの課題があります。とくに牛・豚・鶏などの家畜糞尿堆肥を使用し続ける場合、牛のゲップに含まれるメタンによる温室効果の問題はどうするのか、豚や鶏の過密飼育のアニマルウェルウェルフェア上の問題をどうするのか、飼料に混入される抗生物質や合成抗菌剤に由来する残留薬物(代謝物を含む)やそれら薬剤に対する多剤耐性菌の問題をどうするのか(→SDGs第3目標にも関連)など、多くの矛盾点があります。以前の記事でも述べたように、化学肥料の問題に関して、とくに問題になるのは、硝酸性窒素のみであり、硝酸性窒素を一切投入せず、窒素の投入量自体も最小限に抑える施肥技術は、水環境の保全はもちろんのこと、IPMの観点でも意義のあることになります。化学肥料だからといって忌み嫌いするという考え方は、責任ある農業という観点では、無責任な考え方であり、天然・合成の別を問わず、その肥料は自然界においてどのような化学的位置づけにあるのかをよく理解したうえで、適切に与えるということが重要な意味を持ちます。

銀鮒の里学校(ふなあん)では、責任ある農業を実現するための、農業における包括的な考え方として、作物が吸収する栄養成分やその動態を化学的に考察することを、実際の農業に反映する化学認識農業(Chemically-Recognitive Agriculture;CRA)を提唱します。クリーンであり、かつ、倫理的な農業であるCRAを銀鮒の里学校の農業実習カリキュラムに取り入れ、農業の楽しさややりがいをこどもの頃から深く実感してもらうことで、将来、農業で社会起業をする人を増やしていきたいと考えています。

コメント

PAGE TOP
⚠警告:非認証ユーザーのコピー行為はあなたにとって重大な法令リスクを伴います。