腐植酸資材に関する技術的考察

バイオスティムラント資材としての腐植酸資材が注目されていることは、農業者の方であればご存知のことと思います。しかしながら、持続可能型農法である化学認識農法、いわゆる銀鮒農法を実践するうえで、気がかりなことがあります。それは、腐植酸資材は、「亜炭を硝酸で酸化分解し、苦土(炭酸マグネシウム)で中和したもの」であることです。この定義からすれば、硝酸性窒素の残留が気になるところです。そこで、銀鮒農法で使用できるかどうかのみきわめをするため、JA(農協)向けの腐植酸資材「アヅミン」を製造しているデンカ株式会社に、技術情報を照会しました。

※バイオスティムラント資材とは、植物や土壌が本来持つ化学的作用を賦活化させることで、農作物の生育を促進させたり、地力を増進させたりする、天然物もしくはその加工物(実質的な天然物)からなる資材(活力資材)を指します。実質的に肥料効果を兼ねたものもありますが、一般的には、肥料に特化した資材とは区別して扱われます。(この腐植酸資材の場合は、肥料取締法に基づき、肥料成分としてのマグネシウム(苦土)含有量が保証されているため、苦土肥料を兼ねた扱いとなっています。)

硝酸性窒素の残存濃度

硝酸性窒素の濃度は0.2〜0.3%と痕跡レベルで、硝酸はほぼ完全に酸化に消費しきっているようです。硝酸の酸化作用を利用することで、亜炭の複雑なC-C結合を切断し、腐植酸として利用可能なかたちにしているということです。さらに、亜炭の硝酸酸化の際に生成する一酸化窒素は回収されて、硝酸に酸化後、再利用されているということです。実際にアヅミンを10aに80kg(4袋)を施用しても、腐植酸資材に由来する硝酸性窒素の総量は200gのみということです。

ぎんぶなのうえんでの使用可能性

結論からいえば、この程度の硝酸性窒素残存であれば、定植後の育成で速やかに消化され、収穫する作物中への残存のおそれが無視できるくらいのレベルですので、使用可能であるといえます。

これは、ただ単に硝酸性窒素の残存が痕跡レベルだからというだけではなく、腐植酸資材の有用性の高さが大きく効いているといえます。アヅミンの場合、1.5〜2袋で堆肥1t分の腐植酸を施用できるということですが、実際の農地で大量の腐植を効果的に補給するということは、いろいろな意味で困難を伴います。それが、少ない施用量で速やかに腐植酸による地力向上効果が得られるというのは、農業実務上、非常に有用性が高いといえます。とくに、ぎんぶなのうえんの場合は、今秋に開墾を始めたばかりで、現在も開墾進行中の新造成の農地ですので、腐植の補給による地力向上は大きな課題です。腐植酸資材を活用すれば、堆肥だけを使用する場合に比べて、速やかに地力向上効果が期待できます。ぎんぶなのうえんの作付有効面積は2〜3aですから、1袋の施用で済みますが、これは、腐植酸含量換算で堆肥500kg以上の量に相当します。来春のトマトなどの作付けでの活用を検討しています。トマトは大量のリン酸肥料を要求するため、土壌の高いCEC(陽イオン交換容量)を要求し、また、作付け後の地力の低下が顕著であるため、連作障害を起こしやすく、余裕のあるCEC向上策による事前の地力低下防止(連作に堪える土作り)が重要な意味を持ちます。腐植酸資材は、育苗用土と定植畝に施用し、生育初期の窒素肥料の施肥を控え、窒素の消化を加速する働きもあるカリウムやマグネシウムを重点的に施肥することで、窒素消化を促す施肥設計をする予定です。

腐植酸資材(アヅミン)を施用した場合、トレーサビリティ情報では、「硝酸性窒素は使用していない」旨の表記ではなくなりますが、硝酸性窒素が幼苗の育成中に完全消化されるように施肥が行われ、腐植酸資材に由来する硝酸性窒素の果実への残存の可能性がないように施肥設計を行っていることがわかるようにリスクコミュニケーションの工夫を行うことになりそうです。(トマトの場合、定植後、実際に果実が収穫できるようになるには時間がかかります。)もちろん、腐植酸資材以外で、硝酸性窒素やアンモニア性窒素を施肥することはありません。念のため、施用後の収穫時期が短くなるような葉物野菜には施用しない予定です。

農業の現場を知らない人からみれば、腐植の補給や土作りといっても、実感がわかないと思います。家庭菜園のようなレベルではなく、プロの農業の世界は、都会人からは想像もつかないほどにシビアなものがあります。ぜひ、銀鮒の里アカウントを取得していただき、実際にぎんぶなのうえんを訪ねてみてください。農業の楽しさだけではなく、美味しい野菜の裏にみえる血のにじむような努力や苦労もおわかりいただけるかと思います。

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