【独自】畜産用陽イオン界面活性剤系消毒薬「パコマ」に関する基本化学情報

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商品名「パコマ」の動物用医薬品消毒薬は、ジデシルジメチルアンモニウム塩化物(商品名:トライキル、クリアキル;毒物及び劇物取締法に基づく劇物(0.4%以上))とともに、畜産(牛・豚・鶏等)分野の動物用医薬品(消毒薬)として大量に使用されている、陽イオン界面活性剤です。

パコマの添付文書では、

〔モノ、ビス(塩化トリメチルアンモニウムメチレン)〕-アルキル(C9-15)トルエン

という成分名表記がありますが、この表記には曖昧さを含んでおり、CAS番号を特定することもできません。これでは、正確なリスクコミュニケーションを行ううえで支障があります。そこで、曖昧さを排除し、構造式を一意に特定できるIUPAC名を示すと、次のようになります。

(5-アルキル(C9-15)-2-メチルフェニル)メチル-トリメチルアザニウムクロリド

{5-アルキル(C9-15)-2-メチル-3-[(トリメチルアザニウミル)メチル]フェニル}メチル-トリメチルアザニウムジクロリド

さらに、それぞれ中長鎖アルキル基の炭素数が異なる類縁体が最大で7種ずつ、合計で最大14種の物質で構成されることになります。

CAS番号は、アルキル基の炭素数が12のドデシル体について、NCBI PubChemのオンラインデータベースで特定できました。しかし、ドデシル体以外の他の類縁体一つひとつについては特定できませんでした。CAS番号は、一つの化学物質として認識されたもの一つひとつに割り振られますので、理論上は含まれる可能性があるものの、一化学物質としては認識されていないのかもしれません。なお、食品安全委員会の動物用医薬品評価書(案)などの省庁等作成の文書では、構造式(一般式)の表示はあったものの、CAS番号は特定されていませんでした。

(5-ドデシル-2-メチルフェニル)メチル-トリメチルアザニウムクロリドのCAS番号は、[84153-95-7]

{5-ドデシル-2-メチル-3-[(トリメチルアザニウミル)メチル]フェニル}メチル-トリメチルアザニウムクロリドのCAS番号は、[90128-65-7]となっています。

構造系では、オスバンの商品名で知られる医薬品(消毒薬)の有効成分であるベンザルコニウム塩化物と同じ四級ベンジルアンモニウム系となりますが、中長鎖アルキル基の位置が、ベンザルコニウム塩化物では四級窒素上に対して、パコマではベンゼン環の5位となっています。

 [84153-95-7](5-ドデシル-2-メチルフェニル)メチル-トリメチルアザニウムクロリド
[90128-65-7]{5-ドデシル-2-メチル-3-[(トリメチルアザニウミル)メチル]フェニル}メチル-トリメチルアザニウムジクロリド

※注:上記の構造式は、NCBI PubChemの登録データに基づき、ドデシル基は直鎖となっていますが、パコマの添付文書において、アルキル基の炭素数の範囲が9から15と、3の倍数となっていることから、実際のアルキル基は、プロピレン重合体に由来する分岐鎖となっている可能性も考えられます。

[139-07-1]ベンジルドデシルジメチルアザニウムクロリド(ベンザルコニウム塩化物の一物質)

界面活性剤の急性毒性などの毒性は、一般的に、芳香族系のもののほうが、非芳香族系のものよりも強くなる傾向があります。ここで注目していただきたいのは、ジデシルジメチルアンモニウム塩化物が非芳香族系であるにもかかわらず、劇物指定されているということです。取扱に特段の注意が必要なくらいに毒性が強いから劇物指定されているわけです。パコマの陽イオン界面活性剤はベンゼン環を持つ芳香族系であることから、さらに強い毒性があってもおかしくないにもかかわらず、劇物指定もPRTR指定もありません。ここにも、化学物質行政がザルといわれる所以をみることができます。畜産動物が対象だから目をつぶればよいとでも考えているのでしょうか。

※主に人用の医薬品等に用いられるベンザルコニウム塩化物は、令和5年度から、PRTR対象化学物質となります。(令和5新PRTR1種44)

※なお、ジデシルジメチルアンモニウム塩化物(クリアキル、トライキル;劇物)は現在、PRTR対象化学物質から消除、改正後も指定なし、パコマの陽イオン界面活性剤は、劇物指定もPRTR指定もない状況です。そのため、環境省などに、陽イオン界面活性剤に関して網羅的にPRTR対象化学物質に指定するなどにより規制を強化するよう、政策提言を行っています。

コメント

  1. […] 問題の消毒薬は、動物用医薬品に指定されている陽イオン界面活性剤系消毒剤のパコマ(Meiji Seikaファルマ)で、LASに類似した長鎖アルキルベンゼン構造(いわゆる「逆性LAS」構造)を持つことから、化学構造論上、他の陽イオン界面活性剤よりも高い環境毒性リスクが疑われること、さらに、病気に罹患した牛等を静脈注射で薬殺するという反倫理的な用途外使用も畜産業界で横行しているほど急性毒性が強いことから、使用に関しては警告を促しています。(パコマの有効成分に関する詳しい化学情報は、2021年12月28日付の記事をご参照ください。) […]

  2. […] 問題の消毒剤は、動物用医薬品に指定されている陽イオン界面活性剤系消毒剤のパコマ(Meiji Seikaファルマ)で、LASに類似した長鎖アルキルベンゼン構造(いわゆる「逆性LAS」構造)を持つことから、化学構造論上、他の陽イオン界面活性剤よりも高い環境毒性リスクが疑われること、さらに、病気に罹患した牛等を静脈注射で薬殺するという反倫理的な用途外使用も畜産業界で横行しているほど急性毒性が強いことから、使用に関しては警告を促しています。(パコマの有効成分に関する詳しい化学情報は、2021年12月28日付の記事をご参照ください。) […]

  3. […] 問題の消毒薬は、動物用医薬品に指定されている陽イオン界面活性剤系消毒剤のパコマ(Meiji Seikaファルマ)で、LASに類似した長鎖アルキルベンゼン構造(いわゆる「逆性LAS」構造)を持つことから、化学構造論上、他の陽イオン界面活性剤よりも高い環境毒性リスクが疑われること、さらに、病気に罹患した牛等を静脈注射で薬殺するという反倫理的な用途外使用も畜産業界で横行しているほど急性毒性が強いことから、使用に関しては警告を促しています。畜舎・器具(対物用途)だけでなく、鶏などの畜体への使用に関しても適用があります。(パコマの有効成分に関する詳しい化学情報は、2021年12月28日配信の記事をご参照ください。) […]

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