能勢・ぎんぶなのうえんだより(2024年1月8日)

今冬は暖冬といわれますが、それでも能勢は夜間の凍結との闘いです。たしかに昼間は温暖な日もありますが、ここは山間、夕方からは気候が急変することも少なくありません。多くの作物種で、夜間の寒冷の影響が何らかの形で現れていますが、そんな中でも、イタリア・トスカーナ地方の非結球黒キャベツ、カーボロネロはそんな能勢の厳しい冷え込みなんてもろともせず、可愛らしくも力強い葉を次々と出して、勢いよく育っています。意外なように思われるかもしれませんが、能勢とイタリア・トスカーナ地方の内陸部とは、気候がよく似ています。能勢は、イタリア野菜、とくに冬野菜では、イタリア北部の品種の栽培には最適なのです。(参考までに、大阪市の伝統品種の田辺大根は、暖地性の特性を持っていることから、トンネルなしの露地栽培で年を越すと、能勢の激しい寒冷の影響をもろに受け、下葉が枯れ上がってしまいます。同じ大阪府でも、ここまで違うのですね。)

化学を活かして高コスパ&サステナビリティ!苦土石灰のほんとうの活用術

これまで、追い込み施肥で硫安を反復施肥してきましたので、土壌中には硫酸根がかなり残留しているかもしれません。追い込み施肥が奏功したのは、硫安によるところも大きいですが、元肥として仕込んでおいた苦土石灰やようりん、珪酸加里の効果もかなりあると思います。というのも、土壌中に硫酸根が残り、土壌pHが降下しようとすると、これらのく溶性元肥の緩衝作用によって溶解が促進され、pHの降下変動が緩やかになりながら、効きがよくなるわけです。効きがよくなるということは、当然、これらのく溶性元肥が消費されるということになり、その分だけ、pHの降下変動も起こりやすくなります。そこで、そろそろ元肥の苦土が少なくなってきているのでは、という化学的な読みで、苦土石灰の追肥を行いました。

「えっ、苦土石灰を追肥?」と思われた方も多いかもしれません。ちょっと待ってください!苦土石灰は、非常に優秀な苦土カルシウム(石灰)肥料です。一度、苦土石灰の袋をよく見てみてください。ちゃんと肥料と書いてあるはずです。

ところが、多くの人は、苦土石灰などの石灰資材を、「なんとなく、植え付け前に言われたままに使う土壌酸度調整剤でしかない」とか、「苦土石灰って何?面倒くさそう!消石灰のほうがアルカリ性が強くて、土壌消毒までできて、しかも安いじゃん!」とか、思っているのではないでしょうか。

何いっているんですか!苦土石灰は、おそらく能勢・ぎんぶなのうえんが知るかぎりでは、最もコストパフォーマンスとサステナビリティ面で優れた、マグネシウムとカルシウムとが同時に補給できる肥料で、しかも、化成肥料のように無駄な不要物が一切なく、理論上は100%利用され、多くの場合、国際情勢の影響を受けにくい純国産です。400円少々で買える20kg袋には、なんと、カルシウムがCaOとして約11kg、マグネシウムがMgOとして約3kgも含まれています。これを、単なる植え付け前の土壌酸度調整剤としてしか使わないというのはもったいない!追肥としても使えるはずですし、そうだったら、使わない手はありません。しかし、苦土石灰の素人追肥は厳禁!苦土石灰もドロマイトという化学物質ですから、正しく効かせるには、化学的に注意すべき条件があります。では、その条件をご説明したいと思います。

硫酸(酸性)根のバランスが大切

適度の硫酸根は、天然の土壌にも含まれており、土壌酸度を、ほとんどの植物にとって最適な弱〜微酸性域(pH5〜6)に維持することで、植物栄養の吸収を促進する大切な役割を担います。また、元素としての硫黄は、正常な代謝に欠かせない酵素やネギ類やアブラナ科植物などに特有の有機硫黄化合物の原料としても欠かせないものです。しかし、硫安など硫酸塩肥料の施肥を続けると、土壌中の硫酸根が余るようになり、その余った硫酸根が、硫酸や酸性硫酸塩として、土壌を酸性化させ、土壌酸性化が顕著になると、生理障害の原因となってしまいます。そこで役立つのが、苦土石灰などのく溶性肥料です。

く溶性肥料は、2%クエン酸酸性よりも強い酸性で溶解する性質がある肥料であり、根から分泌される酸性物質や肥料由来の硫酸根などによる、一定以上の強さの酸を検知すると、自身が自動的に溶解して緩衝効果を示すことによって、硫酸根による極度の土壌酸性化を未然に防ぐ作用を発揮します。く溶性肥料の緩衝作用による溶解は緩やかですので、予防的に施肥することが重要です。

腐植酸苦土石灰の魅力

苦土石灰は、消石灰とは異なり、それ自体が水に溶けて強いアルカリ性を示すことはありませんが、アルカリ緩衝効果による土壌pH上昇効果は高いものがあります。そのまま単独で施肥すると、消石灰ほど作用は激しくはありませんが、急激なpH上昇により、生理障害や肥料の効きが悪くなることによる肥料欠乏症の原因になることがあります。そこで重要な意味を持つのが、腐植酸を多く含む堆肥やピートモスで混和希釈した、腐植酸苦土石灰としての施肥です。

実は、植物性堆肥やピートモスには、腐植酸の官能基として、カルボキシル基やフェノール性水酸基を多く持っています。ピートモスが強い酸性を示すというのも、そのためです。このような腐植酸を含有する資材で苦土石灰を希釈混和すると、苦土石灰のカルシウム分やマグネシウム分が、腐植酸に対する塩基として作用することで、徐々に腐植酸のカルシウム塩やマグネシウム塩を生成します。この腐植酸の作用によって、カルシウムやマグネシウムの保持が促進され、流亡や急激な作用による効きすぎを防いでくれます。苦土石灰としての効果を使い切った後も、腐植質に富んだ土となり、土壌の物理性・化学性の改善に役立ち続けます。腐植酸苦土石灰を施肥し続けることで、良好な化学循環が生まれ、施肥するごとに、地力の向上が実感できるようになります。

腐植酸苦土は、JAで販売されている、アヅミンという高性能の土壌改良資材にも含まれている成分ですが、アヅミンは20kg袋で3,000円以上もする高級資材であり、そのうえ、微量の硝酸性窒素(0.5%程度)も含まれています。腐植酸苦土石灰の施肥ノウハウを知っていれば、安価な資材で、同等かそれ以上の効果を得ることも可能となります。アヅミンは腐植酸としての効率は高い半面で、植物性堆肥の特長のひとつである土壌の物理性の改善は期待できず、堆肥の代わりになるものではありません。その点では、植物性堆肥に劣ると考えられています。植物性堆肥と苦土石灰でつくる腐植酸苦土石灰の場合は、苦土石灰の使いづらさを植物性堆肥でマスキングすることで、それぞれの資材のよさを一挙に享受することができるという意味では、アヅミンを超える優位性を持っているといえます。 

腐植酸苦土石灰は、硫安などの施肥を継続することにより、硫酸根が過度に残存することによる酸性化を是正する効果が期待できる肥料になりますので、硫酸塩肥料を施肥体型に組み込んでいる場合にとくに威力を発揮します。逆に、窒素肥料で尿素や硝酸性窒素肥料を使用したり、加里肥料で植物性燃焼灰を使用するなど、生理的に中性ないしは塩基性の肥料を施肥体系に組み込み、硫酸根などの酸性根が残りにくい施肥を行っている場合には、効果はあまり期待できないと考えられます。そのような場合には、硫酸根が少ない状態になりがちでアルカリ化しやすく、肥効が低下しがちですので、硫酸マグネシウムや硫酸カルシウム(石膏)、硫酸加里の追肥をして、バランスをとるべきといえます。どのような場合でも、腐植酸苦土石灰の施肥が向いているというわけではなく、他の肥料でどのような肥料を施肥しているかによって、判断が分かれることになります。(目安としては、硫安+腐植酸苦土石灰が冬季向け、尿素+硫酸塩複合(K・Mg・Ca)が夏季向けといえます。)

詳しい施肥技術については、銀鮒の里アカウントをご利用の方を対象に、能勢・ぎんぶなのうえん現地にて、直接対面で説明しますので、ご関心をお持ちいただきましたら、銀鮒の里アカウントでログインの上、お気軽にお問い合わせください。

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