【化学哲学の真髄】炭酸とは何か:つながる二酸化炭素とカルボニルの化学

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川西市内の国道173号線沿い、能勢・ぎんぶなのうえんへの行程に、日本国内における炭酸飲料「三ツ矢サイダー」発祥の地があります。これをみて、化学屋の記者はふとモーソーしたのでした。

炭酸をどのように普遍的に説明しようか

二酸化炭素とは実は化学的には非常に個性的な分子です。あの、ありふれた、地球にありすぎて厄介者扱いもされる、あの「シー・オー・ツー」二酸化炭素のことです。

分子模型をイメージしてください。二酸化炭素は、直線状に、炭素を中心に、二つの酸素が結合しています。C-O結合は、炭素から酸素の方向に電子を求引する強い分極構造(双極子モーメントのベクトルはその逆)がありますが、∠O-C-O間の結合角はほぼ180度になるため、ベクトル合成をすればゼロになり、よって、無極性分子ということになります。

また、二酸化炭素のC-O結合は二重結合であることから、一つの炭素を共有するように二つのカルボニル(C=O)が直線状に、かつ、等価に結合した「実にヘンな分子」とみることもいえます。実は、その「実にヘンな分子」に、二酸化炭素・炭酸の化学の本質があります。

これは、ヘンな鮒

カルボニルは電子不足型の化学構造であり、求核反応のアクセプター(受容側)、すなわち、LUMO(最低空軌道)側として作用します。これに何が反応するかといえば、求核反応のドナー(供与側・反応剤)、すなわちHOMO(最高被占軌道)側として作用する何らかの物質ということになりますが、その最も身近な物質は、炭酸水の溶媒を兼ねた水(エイチ・ツー・オー)です。ほかにも、アルカリ性を示す本質の水酸化物イオンなどもありますが、それは後に述べることにしましょう。

二酸化炭素は無極性分子ですから、他の大多数の無極性分子のイメージからは、反応性に乏しいはずだと思うかもしれません。しかし、その期待は裏切られます。二酸化炭素は、ある条件では、非常に反応性が高いのです。その一例が、水との反応です。水への溶解度の高い気体は、たいていの場合、水と何らかの化学反応を起こしています。二酸化炭素もその例外ではありません。しかも、その化学反応が実におもしろい!何ということでしょう!水分子の酸素の非共有電子対のHOMOが、2つの酸素による電子求引の影響で著しい電子不足状態となった炭素のLUMOを求核攻撃!その結果、二酸化炭素の炭素には、水の酸素原子が新たに結合して、一方のカルボニルの二重結合は、π電子を炭素に渡す電子移動で単結合になり、その酸素は水のプロトン1個を受け取って、OHとなるのです。また、炭素に結合した水もOHですから、三叉状の分極構造になり、その結果として、二酸化炭素の水溶解度が高くなるわけです。これで、二塩基酸の炭酸(H2CO3)ができたということになるわけです。

前に、あえて、知的遊び心を込めて「カルボニル」と述べましたが、鋭いあなたはもうおわかりだと思います。有機化合物のカルボニル化合物の、カルボニル基が関与する求核反応と、この二酸化炭素から炭酸の生成反応、本質的には同じ反応ということがわかります。

では、水の代わりに、お約束の水酸化物イオンならどうでしょうか。水酸化物イオンは水よりもさらに求核性が強いHOMOで、二酸化炭素とより劇的に反応します。このことを確認することが、家庭でも簡単にできます。石けん洗濯をされている方であればすっかりおなじみの炭酸ナトリウムと、1〜2分目まで残った、できるだけ気が残っているペットボトル入りの炭酸水を用意します。(炭酸ナトリウムがなければ、炭酸塩入りの粉石けんでもOKです。)この炭酸ナトリウム(または炭酸塩入りの粉石けん)を、炭酸水にすぐさま加えて、すぐにふたを閉めて振ってみてください。二酸化炭素と炭酸塩が水に溶けて生成する水酸化物イオンとの間で激しく化学反応をすることに起因する驚きの現象が起きるはずです。

逆に、炭酸塩にクエン酸のような酸を加えると、二酸化炭素の泡が激しく発生しますが、このときは、まったく逆のことが起こっていて、炭酸塩の炭酸イオンの酸素原子に酸のプロトンが1当量結合して炭酸水素イオン、さらにもう1当量プロトンが結合すると、ーH2O+となり、水分子を脱離させる方向に電子移動が起こります。その結果、炭酸イオンから炭酸水素イオンを経て、水に溶解しきれない量の二酸化炭素を急速に生成し、その結果として、二酸化炭素の泡が激しく発生するというわけです。

炭酸水を口に含むと、ごく弱い酸味を感じますが、これは、ごく弱い酸としての炭酸から電離した水素イオンが水の非共有電子対に結合してできた、ごく低濃度のオキソニウムイオン(H3O+)に由来する酸味を感じていることになります。この炭酸水にレモン果汁を加えると、炭酸の酸味は気にならなくなり、レモン果汁の酸味を優先的に感じるようになります。これは、炭酸よりもクエン酸のほうが酸性が強く、より多くのオキソニウムイオンを生成させるからです。

化学を身近に、哲学的に考えると、日頃の何気ないことも、楽しくなるものです。
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※化学の初学者の方は、図書館でも借りられる化学関連の読み物や、大学の有機化学や分析化学の教科書を手元に用意し、参照しながら読むと、より理解が深まり、より深くお楽しみいただけます。

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