ガソリン200円大台突破でもLAS洗剤が激安販売される理由

石油関連製品の価格高騰が止まりません。とくに顕著なのがガソリンで、大阪府北部や兵庫県北阪神地域でも、ハイオクガソリンですでに200円/Lの大台を突破、地域によっては、レギュラーガソリンでも200円/Lの大台を突破している地域があるといいます。農業資材でも、石油製品の育苗ポットなどで値上がりしています。石油火力発電も行われている関係もあり、電力価格にも影響しています。

一方で、石油製品であるにもかかわらず、価格高騰とは無縁の商品があります。LAS洗剤です。

アリエールなど合成洗剤の主成分LASは石油が主原料

上の写真のように、標準価格が700円程度の超特大サイズの液体LAS洗剤が298円という超破格値でメチャクチャです。では、なぜ、石油(製品)価格や電力価格が高騰しているのに、LAS洗剤は「どこふく風」なのでしょうか。考えてみてください。

ケロシン(灯油)留分は比較的安い

LAS洗剤は、炭素数12前後のケロシン(灯油)留分の長鎖炭化水素を主原料として合成・製造されますが、そのケロシンの価格は、ガソリンや軽油よりも需要量が少ないため、かなり安くなっています。ケロシンの他の用途は、暖房器具やボイラー用の燃料やジェット機用の燃料ですが、暖房器具などの燃料は、需要量の季節変動があるうえ、電気など他のエネルギー源の利用割合が増えるなかで、灯油利用機器そのものがさほど多くないこと、さらに、ジェット燃料も地球温暖化防止の観点から、植物性油脂を原料とするSAF燃料へのシフトが進んでいることから、燃料需要はダブつきの傾向があります。そのダブつきを軽減するのに「一役買う」のが、ケロシン留分を原料とするLAS洗剤というわけです。ケロシンも熱分解して、需要の多い石油ガスなどを得ることも可能ですが、LAS洗剤の原料とすれば、製造コストも手間もかからず手っ取り早いという理由で利用されているのかもしれません。灯油も値上がりしていますが、もともと安いことや、実際の製品は、水や石油由来以外の原料で薄まっていることもあり、石油価格高騰の影響はほとんど受けないというわけです。

「原料原価は実質的にほぼゼロ」商品価格にブレが大きい不都合な真実

末端の消費者からみればイメージがわきにくいかもしれませんが、石油化学工業界からみれば、LAS洗剤の製造者は、あまり使いみちのないケロシンを大量に引き受けてくれる「お片付け屋」のような存在です。しかも、アルキルベンゼンのスルホン化で使う三酸化硫黄も、もとはといえば、石油の脱硫で大量に得られる硫黄から製造されます。ケロシンは、LAS以外にも、ポリオキシエチレン系やアルファオレフィン系などの他の合成界面活性剤の原料としても使われます。このようなことから、石油化学工業界では、他の化学品の合成原料としての利用価値に乏しい原料をすすんで引き受けて製造できることから、実質的な原料原価はほぼゼロと言える価格になるわけです。

もう一つ、気づいてほしいポイントがあります。LAS洗剤は、同じ商品でも、お店や売出しのタイミングなどによって、価格の差異が他に類がないほどに大きいことに気づいたことはありませんか。なぜなら、先ほどの原料原価がきわめて安いことに加えて、商品の原価に占めるマーケティング費用の割合が大きいということがあるからです。合成洗剤は肝心の洗浄性能が劣るため、反復テレビCMや店舗での過剰露出によるマーケティング手法を駆使した洗脳をしないと売れません。逆をいえば、合成洗剤があっという間に売れるほど、マーケティング手法を駆使した洗脳の威力があるということです。メーカー側は、原料原価がタダ同然だからこそ、マーケティング費を潤沢につぎ込むことができるわけですし、それでもってしても、製造・販売数量のスケールも莫大であるために卸売単価はタダ同然といえるくらいに安くできるわけです。販売店は中間マージンを挟んでも、きわめて低廉な価格で仕入れができ、しかも、販売価格の設定は、各店舗の裁量に大きく委ねられるため、セールの目玉商品の設定も非常に有利にできるというわけです。スーパーやドラッグストアのセールチラシに、必ずといってよいほど、合成洗剤の特価がデカデカと掲載されているのは、そのためと考えられます。そして、セール対象ではないときは、「標準価格」といわれる高価な価格設定をすることもしやすいというわけです。LAS洗剤などの合成洗剤の商品価格にブレが大きいのは、そのためなのです。

もうお気づきだと思います。LAS洗剤は、熟考しない知性の低いカモ客層に「お得感」を煽って買わせるためのマーケティングツールとしての要素がほとんどだということです。一方、粉石けんの価格があまり安くならないのも、ちゃんとした理由があります。ご想像のとおり、合成洗剤のまったく逆で、粉石けんは原料原価が高く、正直につくられているために、合成洗剤のようには安くなりにくいのです。粉石けんの洗浄性能が合成洗剤とは比較にならないほどに高いことは、読者のみなさまはすでにご承知のとおりです。

【追撃トーク】

最近、お茶などで、ラベルレスの飲料水をよく見かけませんか?これは、従来の銘柄ラベルありの内容物同一品と同等かそれ以上に売れているようです。

では、アリエールのような合成洗剤やエナジードリンクで同じようなことをしたら、あなたは売れると思いますか?記者の予想では、ほぼ売れないと思います。なぜか、思考が鋭い方なら、もうおわかりですよね。

アリエールのような合成洗剤は、あのCMで見た「アリエール!」と一目でわかるパッケージだから、勝手に安心して買うのです。それが、アリエールのようなモノを買う人の心理です。ざっくり言うなら、そのような人にとっては、中身の本質(成分の内容・スペック)など、考えるだけ面倒くさいから、どうでもよいのです。たとえ中身がアリエールと全く同じものであっても、パッケージのイメージもメーカー名の表示も何もない、アリエールであるかどうかわからないようなブラインドパッケージにすると、感情的にアリエールであるかどうかわからないから、「CMとは違うかもしれない」と勝手に警戒してしまって、買わないのです。ラベルレス飲料のように、文字情報だけ表示していても、買う人は激減するでしょう。アリエールを買うような人は、文字情報を読んだりせず、ただ単に、パッケージのインパクトとCMイメージとが一致することと、実際にお店で安くて手に取りやすいことだけが、購買意思決定の決め手になるからです。

エナジードリンクでも同じことがいえます。中身はほぼ同じでも、そのようなものを買う人は、銘柄名、そして、パッケージとCMなどマーケティング戦略との印象がつながることが、購買意思を決定づけることになるから、ラベルレスのエナジードリンクは、あったとしても、おそらく売れないのではないか、というわけです。

FMGをお読みの方でしたら、当然のこととして、パッケージのイメージなどお構いなしで、文字情報から、内容物の真価をしっかり見極める、賢い買い方をされている方ではないかと思います。しかし、世の中には、購買意思がマーケティングという身近な洗脳に振り回されている人があまりにも多いものです。成分表示や原材料表示などの文字情報から本質を見極めるような、賢い消費者をひとりでも増やすために、あなたにできることを考えていただきたいと思います。

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