施肥技術によるIPM(総合防除管理)を考える

残留除草剤に残留抗菌剤、多剤耐性菌による汚染、そして、工業的畜産による動物の苦しみ…

しかも、2020年の冬は、鳥インフルエンザが大流行…

銀鮒の里学校は、日本の有機農業は、動物性堆肥をあたりまえのように使う有機農業のままでよいのか、激しく自問自答してきました。

その一方で、動物性堆肥を一切使わず、植物性堆肥のみを肥料として活用する自然農法についても、野菜の食味については申し分ないものの、収量が思わしくない現状も目の当たりにしてきました。

農業には、食料の安定供給というミッションも課せられていますので、持続可能な農業を考えるかぎり、農業は「化学肥料も農薬も使わない」という単なる理想論ではできないのです。しかも、このようなミッションは、あの旧モンサントのような多国籍アグリビジネス勢力も掲げていることですので、日本の農業のありかたについて真剣に考える市民運動体としては、建設的な対案を提示し、実践に移行する手がかりをつくらずにはいられないというわけなのです。

動物性堆肥を一切使わないクリーンで食味に優れた農産物を安定供給するという、従来の有機農法を超える安全品質を保証できる持続可能な農法について、銀鮒の里学校は、ひとつの方向性を提案するに至りました。それは、植物性堆肥での土作りを基本とし、作物の特性や地質・水質に合わせた、化学肥料の使用を条件付きで容認する施肥技術を組み合わせたヴィーガン農法によるIPM(総合防除管理)です。

鉢花(プリムリナ・フラビマキュラータ;中国南部原産)での施肥技術検証例 【使用肥料】尿素・リン酸二水素カリウム・硫酸マグネシウム・硫酸カリウム 【施肥方法】葉面散布・土壌潅注を週5回以上 【使用農薬】リン酸第二鉄ベイト剤(ナメクジ駆除)のみ ※複数の花芽を確認(本日現在)
鉢花(シンニンギア・ゲスネリフォリア;ブラジル・リオデジャネイロ州原産 非塊茎性シンニンギア)での施肥技術検証例 【使用肥料】尿素・リン酸二水素カリウム・硫酸マグネシウム・硫酸カリウム 本年4月下旬の時点では、剪定跡より高さわずか数センチ程度の2.5号ポット小苗だった。茎の太さと葉の発色に注目 【施肥方法】葉面散布・土壌潅注を週5回以上 【使用農薬】リン酸第二鉄ベイト剤(ナメクジ駆除)のみ ※複数の花芽を確認(本日現在)

動物性堆肥の使用や窒素過多は病虫害のリスクを高める

窒素(N)はタンパク質や核酸、葉緑素の構成元素であるため、窒素を多く与えると、すぐに青々とした植物体に育ちます。しかし、窒素が他の栄養素に比べて多く偏ると、植物体の細胞や組織が弱いものとなり、害虫に食害されやすくなったり、病気に冒されやすくなります。そこで重要となるのが、他の無機栄養成分です。カリウム(K)は細胞液中のイオンでとくに重要となる元素で、病気や生理障害(暑さ寒さ)に強い植物体に育てる上で重要となります。

他にも重要な無機栄養成分はマグネシウム(Mg;苦土)とカルシウム(Ca;石灰)、ケイ素(Si)です。マグネシウムもカルシウムも、細胞液の成分として重要であるほか、マグネシウムは葉緑素の構成元素として不可欠であったり、カルシウムも不足すると、カルシウム分の少ない農作物に育つだけでなく、病害や生理障害に対する抵抗力が弱くなったりします。カルシウムやマグネシウムを丹念に与えていると、与えない場合に比べて、ガッチリとした植物体に育つことから、細胞同士の結びつきを正常に保つうえでも、これらの金属元素が重要な役割を担っていると考えられています。ケイ素も、細胞に含まれるケイ素含有量に働きかけることで、細胞を堅牢にし、植物体を強くする作用があると考えられています。ガッチリとした植物体に育つことで、害虫による食害や病原菌への感染も抑えられる可能性もあるでしょう。

リン酸(P2O5)は、ATPをはじめとする核酸(ヌクレオチド)の生合成に欠かせない元素であり、とくにATPが集積する花芽の分化や結実に重要となる無機栄養成分です。細胞にもリンを構成元素として含む物質が多く含まれるため、花芽分化や結実以外でも重要となる栄養成分です。そのため、不足すると、花芽分化や結実が思わしくないだけでなく、全体の生育も悪くなりがちです。

動物性堆肥は窒素分が多く、窒素過多を招きやすいだけでなく、植物病原菌が巣食いやすいほ場衛生上の問題を招く原因になります。そのため、有機栽培を難しくする原因のひとつでもあります。

植物性堆肥は全般的に無機栄養成分の換算含量が少ないため、相当大量の投入をしないかぎり、栄養不足になりがちです。そのため、植物性堆肥だけでは、弱々しい生育になり、収量が少なくなることもよくあります。さらに、作物の栄養要求特性が、種によって大きく異なることも、植物性堆肥だけでの自然農法に限界がある理由のひとつです。

アブラナ科野菜や蒜類(アリウム属野菜)には硫黄も計算に入れる

硫酸塩肥料は、多用すると土壌酸性化の原因になることもありますが、硫黄分が肥料成分としてとくに重要となる作物もあります。それは、植物体の成分として硫黄を多く含むアブラナ科野菜や蒜類(にんにく、玉ねぎ、ねぎ、ニラなど)です。硫黄はこれらの野菜特有の食味に密接に関係している元素であるため、硫黄が不足すると、味が劣る出来になる可能性もあります。また、これらの作物がコンパニオン・プランツとしても活用されることもあることからも、このような特有成分そのものが、病原菌や害虫による被害を軽減している可能性もあります。食味の強い野菜をつくることは、病虫害の抵抗力を高めるうえでも重要となっている可能性がありますので、このような野菜を栽培する場合は、硫酸根を含む肥料も意識的に与えることが重要な意味を持ちます。

栄養調整用に使用したい化学肥料の例

化学肥料なら何でもよいというわけではありません。窒素に関しては、その化学形態に注意が必要です。硝酸性窒素は作物への硝酸性窒素の残留や地下水汚染の原因となりますので、使うべきではありませんし、アンモニア性窒素も土壌中の硝酸菌の作用で速やかに硝酸性窒素を生じる原因となるので、好ましくありません。窒素は、人や動物の尿の主成分でもある尿素を使用します。この尿素は化学合成品ですが、尿素として植物表面から速やかに吸収され、有機化合物であるため、アンモニア性窒素と比べて、硝酸性窒素に変換されにくく(変換過程が多くなる分時間を要するように)なっています。やはり窒素は、欠乏状態に近いくらいまで少なめに使用し、完全消化できる量を考慮して与えるようにします。

リン酸源には、第一リン酸カリウム(KH2PO4)、過リン酸石灰、熔成リン肥などが理にかなっているでしょう。酸性根がリン酸根であるため、完全消化され、土壌を酸性化させる心配はありません。過リン酸石灰は、土壌のpHをほとんど変化させることなく、リン酸とカルシウムを同時に補給できます。熔成リン肥のリン酸はく溶性のため、根から分泌される有機酸の作用で少しずつ溶け出すため、欠乏予防には便利です。ケイ素分も多いため、強い植物体に育てるうえで有効です。

カリウム肥料は第一リン酸カリウムのほか、硫酸カリウム、炭酸水素カリウムなどがよいでしょう。とくに、アブラナ科野菜・蒜類には硫酸カリウムを与えると効果的です。硫黄をあまり要求しない作物には、第一リン酸カリウムや炭酸水素カリウムを使うとよいでしょう。(炭酸水素カリウムはうどん粉病の治療薬(農薬成分)にも使われている成分であり、肥料として使用しながら、うどん粉病の予防ができます。重曹のナトリウムがカリウムに置き換わった関係にある物質ですので、安全性は高い物質です。)

マグネシウム肥料は、土壌の酸度調整に用いる苦土石灰のほかにも、追肥用に適したものでは、硫酸マグネシウムやにがり(塩化マグネシウム)、ドロマイトなどがあります。硫酸マグネシウムは、純度の高い合成品のほか、天然鉱物由来の肥料もあり、アブラナ科野菜や蒜類には食味品質向上のために積極的に活用したい肥料です。にがりは天然物で好ましい印象がありますが、土壌中に塩化物イオンが残ることで、酸性化を招く可能性があるので、そのことに注意して使用します。ドロマイトは中性で、カルシウムと同時に補給できる便利な天然鉱物肥料です。鉢花の洋蘭に使用すると好成績が得られるという報告もあります。

有機JASの規格には適合しませんが、ほ場衛生を意識した施肥技術を工夫することで、農薬に頼らない農法を比較的容易に実現できると考えられます。肥料成分のトレーサビリティが明確であり、家畜糞由来の残留薬剤や多剤耐性菌によるコンタミネーションの心配がない分、有機農法よりも安心できるヴィーガン農法。銀鮒の里学校では、今後、検証を進めていく予定です。

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