ガーシーレガシーは日本の市民運動変質の象徴

特定の人を脅迫するために得た地位か

昨年7月に投開票が行われた参議院議員選挙で、岩手県盛岡市の人口(28万5,062人;2023年2月1日現在)をも凌駕する28万7,714票の得票で、NHK党(現在の「政治家女子48党」)の候補として当選したガーシー参議院議員容疑者。任期中は議場で直接的に政治的権限を行使できたり、警察による逮捕を免れる不逮捕特権など、一般人にはない強大な特権が与えられる国会議員の地位。それを獲得したガーシー容疑者の真意は、自身が気に入らない特定の人を脅迫するために得たのではないかという疑惑が、これまでのマスコミ各社の報道から浮上しつつあります。一般人が同様の行為を行えば、即逮捕となりますが、ガーシー容疑者は15日まで、名ばかりながらも国会議員の地位を持っていたため、逮捕を免れていました。そのうえ、日本との犯罪者引渡条約が締結されていないアラブ首長国連邦(UAE)で悠々自適の逃亡生活を送っており、これも、日本の警察当局の権力が海外のUAEには及ばないことを知ったうえでの悪意がある行為であることも、ガーシー容疑者自身の挑発的なSNS投稿で自ら暴露しています。

一見して強気のガーシー容疑者の言動。慎重に行動分析をしてみると、実は、メンタルが強く、高い知性を持つ大人なら絶対にやらないことの集大成ともいえるわけです。

●知性・メンタルを曝け出すガーシー語録

  • 「インターポール(国際刑事警察機構=ICPO)なんて、ルパン三世でしか聞いたことがない。」(低俗な商業アニメを例示している。「実際にインターポールが動くのは、殺人などの凶悪犯罪の場合だけで、たかが脅迫程度の自分は関わるはずがない」という意味の開き直り発言)
  • 「51歳のしょぼくれたオッサンなんで。」(自己肯定感の低さを露呈。そうせざるを得ない状況に自ら追い込んだことも関係)
  • 「国会に行かなかったことに関して、誰かに謝りたいという気持ちは全くないです。(中略)(今後は)やるべきことをやるし、叩くべきことは叩くし」(全く反省の色がなく、今後も同様の犯行を続けるともとれる意思表明)

ウィキペディアによりますと、ガーシー容疑者は、伊丹空港の近くの兵庫県伊丹市出身で、これは、大阪府豊中市のFMG報道局から約5kmくらいの至近距離と推定されます。出身大学は、阪南大学(大阪府松原市)で、出身学部は不明としながらも、文系の学部の出身とされています。大学進学情報サイトの旺文社パスナビの情報によりますと、現在の阪南大学の入学所要偏差値は37.5~42.5で、一般的な大学ランキングでいうところのD・Eランク(最も合格難易度が低い大学)になります。詳しくは各読者のご想像にお任せしますが、議員になるために必要な学歴を得て、特定の指向を持つ人を強力に煽動できるような陰謀論も飛び交う集団に入り、体制転覆を狙う政治家を目指してきたのではないかという、キワキワのキャリアパスが浮き彫りになってきています。このことは、「(ガーシー容疑者自身が国会議員になったことで、)議場で居眠りをしているようなオッサン(議員)を叩き起こしてやる」と豪語していたにもかかわらず、すぐさまUAEに逃亡して一度たりとも登院せず、日本の経営者や著名人をネット(商業SNS)で遠隔脅迫するという矛盾した狡い言動で明らかになっています。これらすべて、ガーシー容疑者自らが蒔いた種、自業自得といえます。また、それを匿い庇護する同志にも、刑事的までとはいかないにしても、道義的責任というものが追及されてまた然りというべきでしょう。少なくとも、政治とは直接的な関係がない、善良な市民運動の場では、何らかの形で門前払いをされるべき層だといえます。ガーシー問題、これは、市民運動家を迎え入れる側の私たちも決して他人事ではなく、あらゆる方法を駆使してニセ市民運動家を見抜く水際の対策を引き締めるべきという、望まざる現代社会の病理を表しているかもしれません。

超特急逮捕状、そして、強制送還へ、警視庁の執念

「(事情聴取を拒否し続けてきたガーシー容疑者に関しては)堪忍袋の緒が切れた」捜査当局はそのように言っていたそうです。15日の除名までの間、ガーシー容疑者は国会議員の身分にあったため、その不逮捕特権により、警察の権限に大きな制約があったもどかしさがありました。そのうえで、UAEへの逃亡が重なりました。ところが15日にガーシー容疑者が参議院本会議で除名宣告を受け、同容疑者は「ただのオッサン」になったことで、国会議員の不逮捕特権は電撃消滅、警視庁はこれまで溜めてきたモヤモヤを一気に爆発させ、執念の逮捕作戦に出ます。その結果、たった1日にして、逮捕状を出すという超特急逮捕状を実現したわけです。そして、次なる作戦は、外務省に旅券(パスポート)返納命令を要請して、UAEでの滞在そのものを違法状態にして、相手国や現地当局から日本に強制送還させ、日本に帰国した時点ですぐさま逮捕という、段階的に違法状態にして、八方塞がりにしようとする作戦です。

真面目な努力が報われない社会の象徴

方法はさておき、一時は参議院議員の座を獲得するという大成功を収めたガーシー容疑者ですが、私たちのような苦労人からみれば、嘲笑するにも笑えず、なにより、これまでのガーシー容疑者のような矛盾を許容してきたような緩んだ社会に対する憤りのほうが勝るというか、なんとも筆舌に尽くし難い状況にあります。少なくともいえることは、これまでの緩すぎる社会は、不真面目でも、方法次第で大きな成功を得る一方で、真面目な努力が実を結ばない、あるいは、一生に近いくらいの途方もなく長い歳月を要するような社会だということです。例えば日本の農業。真面目にやれば、収穫というかたちで、植物は正直に答えてくれますが、人間社会はそれに強引に市場の原理を当てはめ、豊作だから必ず儲かるというものでもなく、「豊作貧乏」というなんとも皮肉な言葉までできているほどです。そのためでしょうか、将来は農家になりたいという小・中学生は少なく、ガーシー容疑者のような一攫千金や一発大成功を狙えるようなユーチューバーなどネットサービス関係職を希望する小・中学生が多くなっているといいます。ネットサービス関係職が一概に問題だとはいいませんが、こどもたちをもっと真面目に、社会のために働きたいという実直な人間に育てる責任が、私たち大人の世代には課せられており、そのことを再認識すべきときがきているのではないでしょうか。

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