農芸化学の理解必須!限定的に使用されるべき植物栄養
結論からいいますと、硝酸性窒素を肥料として与える必要性はほとんどありません。むしろ、安易に与えてしまうと、劇症の肥料やけで致命傷となる場合があります。
硝酸塩肥料は、単一成分としては生理的には中性ないしはアルカリ性に傾く場合が多いです。硝酸性窒素は植物にきわめて吸収されやすい植物栄養で、窒素の形態としては、最も吸収されやすい形態です。そのため、単一かつ高濃度の硝酸塩肥料を施肥すると、陰イオン態の窒素(NO3–)の急激な吸収が起きるため、それに対応するように、水酸化物イオンが一気に生成するようになります。これが、アルカリ化現象です。
KNO3 + H2O – NO3– → K+ + OH– + H+ (但し、OH–> H+)
Ca(NO3)2 + 2 H2O – 2 NO3– → Ca2+ + 2 OH– + 2 H+ (但し、OH–> H+)
※硝酸カリウムのカリウムも多量要求性の栄養素として比較的よく吸収されますが、硝酸イオンの吸収のほうが先行することによる結果として、アルカリ化の原因になり得ます。
ほぼすべての植物は、やや酸性側に傾いた状態に適応しているため、アルカリ性側に傾いた状態は、植物には有害です。そのため、窒素肥料として、硝酸塩肥料のみ、もしくは、硝酸性肥料を多く含む肥料を施肥すると、アルカリ化現象により、まるで除草剤であるかのように、急激に萎れて取り返しがつかなくなることもあります。とくに、肥料成分に敏感な花卉では、含有する窒素の形態には注意が必要です。また、アンモニア性窒素の共存下でアルカリ化が起こると、植物にも有害な遊離態のアンモニアが生じるため、有害作用がより強く現れます。
硝酸性窒素を施肥する場合には、守るべき鉄則があります。それは、どのような状況においても、全体として常に生理的に酸性になるように施肥することです。そのようになるよう、正確に肥料設計を行うためには、化学計算が必要になります。硝酸性窒素は肥料としては与える必要がない成分ですので、心配な場合は、硝酸性窒素を含まない肥料を施肥するのが無難です。硝酸性窒素は陰イオンですので、土壌のCECによる化学的吸着はありませんが、アンモニア性窒素は陽イオンですので、土壌のCECによる化学的吸着の対象となり、植物に対する作用が穏やかで、効くべきときには即効的に効きます。とくに、窒素肥料としての硫安の施肥は、能勢・ぎんぶなのうえんのプロ培養土のSFTとの親和性が非常に優れており、SFTのく溶性肥料成分の肥効を引き出すよう、協調的に作用します。
硝酸性窒素の施肥がとくに有効となる場合は、例えば、根の働きが虚弱で、吸肥力が低い状態下での葉面散布施肥(点滴的施肥)や、微生物の影響を受けにくい着生植物へのスプレー吹付け施肥のような使い方で施肥すると効果的と考えられますが、このように非常に限定的です。そのような場合も、酸性肥料(第一リン酸カリウムなど)による緩衝は必須です。(第一リン酸カリウムは、リン酸含量が非常に高い肥料ですが、それ自体が弱酸性で、弱酸性域での緩衝能に優れた緩衝剤でもあります。)アンモニア性窒素も、一部は土壌の硝化菌の作用によって(亜)硝酸性窒素に変換されますので、それで十分であり、そのほうが安全です。
原因不明の植物の不調でお困りの場合、その原因は肥料やけ(肥料あたり)の可能性も多々ありますので、お使いの肥料の成分を確認し、窒素成分として硝酸性窒素が含まれている場合は、硝酸性窒素を含まない肥料の使用を検討してみてください。これとあわせて、窒素以外の肥料のく溶性施肥への転換(元肥重視の施肥体系・肥料由来電解質の低減)もご検討ください。
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