【緊急特集:イセショック】イセ食品倒産の真の原因はこれだ(その4)

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フードテックへの移行が存亡を分ける鍵

皆様ご察しのとおり、世界的に風当たりが強いバタリーケージ養鶏への固執で、世界の持続可能性(ESG)の潮流の変化に乗れなかったこと、これがイセ食品が倒産した真の原因です。企業倒産に関して一般的にいえることとして、圧倒的なスケールメリットを誇る最大手が最も安泰であり、事業規模が小さく、競争力の面で不利な中小零細企業ほど劣勢を強いられ淘汰の対象となるケースが多いですが、まず最も安泰であるはずの最大手が倒産したということは異例であり、それだけバタリーケージ養鶏という業界そのものが斜陽化が著しく、将来の展望が絶望的であるということがいえます。皮肉にもイセ食品は、勇敢にもその社会的エビデンスを得るための「実験台」になることを買って出たわけです。イセ食品ではガバナンスが機能していなかったなど、イセ食品特有の事情で倒産したかのようにとられる論調が他のメディアでは多くみられますが、たしかに、そのようなことも、ある程度はあるのかもしれません。しかし、最も重要な視点は、バタリーケージ養鶏業全体にとっては、動物愛護や地球温暖化防止などの持続可能性の意識の高まりによる世界の風当たりの強さや「卵は物価の優等生」だという、日本固有の固定観念による(安売りを余儀なくされ、付加価値のつけようがない)買い叩き内圧に加えて、高病原性鳥インフルエンザの脅威もあり、「明日は我が身」といえるくらいに事態は深刻だということです。

もし、採卵養鶏を維持するのであれば、世界の潮流に乗るべく、バタリーケージ養鶏をやめ、まずはケージフリー化、望ましくは放牧、百歩譲ってエイビアリーシステムによる飼養への転換を急ぐべきです。飼養羽数の規模は100分の1から1,000分の1の規模(EUに倣い、1農場あたり数百羽程度、最大でも数千羽程度)に大幅縮小します。すると、その分、1個100円以上の卵というように、鶏卵の価格を高めることを余儀なくされますので、高付加価値化と、「卵は物価の優等生」だという日本特有の時代遅れの歪んだ価値観の打破を図る持続可能性マーケティング戦略を立てることが当然のごとく求められます。もう一刻の猶予もないくらいに事態は深刻です。さらに、平飼いや放牧に転換したところで、東京2020を開催した日本の社会はさらに世界に開かれ、グローバル化に対応した対話責任が課されます。「日本だから(外国のことは関係ない)」という言い訳は通用しないわけです。そのような状況下で国際世論は「オスのひよこはどうするのか」という厳しい追及を容赦なくしてきます。フランスやドイツで、オスひよこの殺処分が法律で禁止された一方で、イセ食品の場合は、「(採卵養鶏で不要なオスひよこは)ごく一部が祭りの露店販売用、ほとんどはガス殺」と答えざるを得ませんでした。このような状況で、はたして国際世論を納得させることができるでしょうか。

「それでも採卵養鶏一筋で、容赦なく淘汰される過酷な血の海(レッド・オーシャン)を戦い抜く覚悟はあるのか。」

まさに採卵養鶏にとって「泣きっ面に蜂」の状況で、採卵養鶏そのものの将来が明るくない状況である以上、飼養方式の転換をもってしてもまだ、持続可能な経営ができる保証はありません。

プラントベースの代替肉・代替鶏卵のフードテックで活路を見出す動きもあります。先日の記事で取り上げたキユーピー(東京都渋谷区)は、これまでシェア首位で圧倒的な知名度を誇るマヨネーズの製造で大量のケージ卵を使用してきましたが、昨年に業務用専売で発売した、動物性食品不使用の鶏卵代替食材「ほぼたま」は、実質的な「フードテック元年」といえる昨年のフードテックへの関心の高まりの潮流に乗ることに成功して大反響を呼び、17日から関東の一部地域から、通販による一般販売を始めています。まだ始まったばかりの取り組みですが、この勢いが続けば、フードテック関連製品はさらに拡大していくとみられ、従来のケージ卵加工から徐々に代替の動きが進んでいくと考えられます。

畜産加工大手の日本ハム(大阪市)とその乳製品子会社のマリンフード(大阪府豊中市)、伊藤ハム(兵庫県西宮市)、食品加工大手の大塚食品(大阪市)などもフードテックの動きに足並みを揃えて乗りはじめていますが、これは、これまで意識的に動物性食品を避けてきたベジタリアンをも顧客に取り込むことで、販売チャンネルを拡大することでリスクヘッジする狙いがあるとみられています。しかし、現状では、各社ともカルボキシメチルセルロース(CMC)などの(半)合成食品添加物への依存や卵・乳などの動物性食品の使用があり、ヴィーガンや高意識者層の要求スペックを満足するものは販売していません。これらの客層は、動物性食品だけの展開では、場合によっては、敵にまわすことにもなり、動物性食品を使用するプラントベースでは、購入したくても購入できません。このような中途半端な状況を打開するために、ヴィーガンや食品添加物を避ける高意識者層の要求スペックを満たす製品を開発し、世に送り出すことが、これらの企業にとっての今後の課題であるといえます。

豆腐や味噌、納豆、豆乳など、これまで大豆やえんどう豆などの植物性タンパク質を扱ってきた食品企業にとっては、フードテックは、空前のビジネスチャンスとなっています。これまでは異業種だった採卵養鶏が植物性タンパク質を活かすフードテックに新規参入することは、最も効果的で、最も実現可能性が高く、最も将来性がある生き残り策といえます。フードテックの開発実務には、食品化学が必要です。持続可能性の意識を研ぎ澄ますため、経営陣自身がヴィーガンに転身するなどの努力も必要になるでしょう。一部にとっては厳しく感じるかもしれませんが、そのような覚悟ができていること、そして、確実に実行に移せることが、今後の生き残りの成否を分けることになるでしょう。

「【緊急特集:イセショック】イセ食品倒産の真の原因はこれだ」の連載ものは、一旦ここで締めることといたします。今後も、イセ食品問題やケージ卵関連の問題で新しい展開や話題がある場合は、随時、別タイトルの新規記事にて配信していく予定です。ぜひご期待下さい。

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