なぜ小虫もつ鍋問題のモンテローザに激怒したのか

昨日の記事で紹介した居酒屋チェーン大手モンテローザの小虫もつ鍋クレーム問題ですが、実は、客がクレームをした原因となった小虫入りのもつ鍋自体はさしたる問題ではないことは、聡明な読者であればご察しのことと思います。問題の核心は、会社としてのモンテローザの対応の根底にある企業としての日頃の心がけにあります。

相手の真意を理解できないお客様相談室オペレーター

筆者は、小虫もつ鍋クレーム問題の最初の記事を執筆してから後に、モンテローザ本社に電話をしました。そして、客がクレームをした小虫もつ鍋の問題に関して、それ自体は農村であれば笑って済ませる程度の、客側が寛容になるべき軽微な問題だから気にしないでほしいという旨の、激励の意を込めたメッセージを伝えたのでした。その直後、モンテローザお客様相談室のオペレーターは、飲食店としての信用を毀損しかねないNG対応の典型といえる対応をしたのでした。

モンテローザお客様相談室「お店としては(激励のメッセージには)お答えできる立場にありません(ので、そのようなことを言われても困ります)。従業員には洗浄マニュアルに基づく指導を徹底します。この度は申し訳ありませんでした。」

一見して、無難な対応と思うかもしれません。しかし、このような対応は、モンテローザ側の優柔不断さを表しており、その優柔不断さが、ほんとうの怒りを買う原因なのです。

飲食店としての模範正解例

人はなぜ飲食店に行くのでしょうか。飲食店に何を期待しているのでしょうか。単に料理をしなくてもよく便利だからでしょうか。そういうこともあるでしょう。でもそれは、飲み屋のような場合はほとんど問題にはならず、ここでは言及しません。

例えば、ラーメンやカフェの食べ歩きや飲み歩きを趣味としている人の意向を想像すればわかりやすいと思います。そのような人がまず一番に候補から排除するお店は、チェーン店であることは、当然だと思うでしょう。チェーン全店でメニューが統一されていて、飲食店としての面白みに欠くということに加えて、店員がアルバイトや派遣ばかりで社会経験が浅く、客とのコミュニケーションに問題を抱えやすいということがあります。飲食店は飲食物という商品よりも、その商品に秘めたお店の心意気や、それをつくる店主や店員との深いコミュニケーションを売っているのです。ですから、店主のプライドが正しい方向で高く、なおかつ、その揺るぎないプライドに基づき、多様性のおもしろさのある唯一無二の価値を提供できるお店は、たとえ対応がぶっきらぼうであっても、評価が高いのです。

では、そのことを踏まえた、飲食店としての模範正解例を示しましょう。(あくまでも、数ある模範の一つにすぎませんから、これ以上の優れた対応例もあるかもしれません。その時の状況によって変わるかもしれません。)

小虫ごときで文句があるなら、うちのような店には金輪際来るな!

と寛容さに欠いたクレーム客を追い返すことです。一見して、お店側の保身のようで、悪い対応のように思うかもしれませんが、このことは、実は、日本人としてあるべき心意気を示す近江商人の心得十訓でもわかります。近江商人の十訓の8は、このようになっています。

正札を守れ。値引きは却って気持ちを悪くするくらいが落ちだ。

その真意を熟考したことがあるでしょうか。バカ正直に解釈すれば、「安易に値下げをするな」ということですが、ほんとうの問題はそういうことではありません。この訓は、「店として崇高なプライドを持ち、そのためには、そのプライドの根拠となる、正札を強気で守るに値するような商品づくりや人的サービスに精進せよ」という意味なのです。モンテローザは、些細な問題である小虫もつ鍋に固執して、それに対する謝罪に終始し、無闇矢鱈にプライドを捨て、企業として持つべきおもてなしの精神を忘れていたために、世間の怒りを買ったのです。変にお詫びのサービスを付けたりしたことも、モンテローザのブランドエクイティを自ら下げることにつながったわけです。一見して難癖ある店主のラーメンが評価が高いのは、実はそういうことなのです。飲食店以外の場合、例えばものづくりでも同様のことがいえます。例えば、精緻な刃付けがものをいう道具づくり。優柔不断な考え方ならば、気持ちにブレがあるわけで、その気持ちは、道具の刃の切れ味や使用感に如実に現れるでしょう。農作物も、作り手の哲学がよく現れるといいます。

モンテローザは、飲食店としてのこだわりにしっかりと向き合い、社会のおもしろさを構成する多様性の形成に貢献しつつ、その店として、お客様に最高のおもてなしをするという、日本の商人として、至極あたりまえのことに気づかせる反面教師となったわけです。社会起業家としても、あらためて気を引き締めて臨んでいきたいものです。

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