空気のようなサステナビリティとは

銀鮒の里学校では、よく、

空気のような(水のような)サステナビリティであるべきだ

といいます。空気のように、水のようにとは、生活の一部ということを超えて、何気ない日常であたりまえのこととして、常に一つひとつの行動の基盤になるという意味であり、コンピュータ・システムでいうところのOSカーネル(根幹であって、それがなければ動作しない不可欠な構成要素)にも喩えられます。では、空気のようなサステナビリティを自らがものにして、実生活や仕事で活かすには、どうすればよいのでしょうか。考えていきたいと思います。

利他精神を誤解している人とは

利他精神とは、サステナビリティを語るうえでの大前提となることです。ですから、利他精神のない人とサステナビリティの討論をしていて、話が噛み合わないのは当然のことなのです。利他精神とは、言い換えれば、互いに関係しあったつながりを保つうえでの惹起力ということです。つながりは持続可能性論における必要条件ですから、つながりのない思考の集合では、持続可能性論は成立し得ません。いかなることも、あらゆる物事とのつながりを意識し、連携知を導出するというデータマイニングのプロセスが欠かせないのです。すなわち、前述の利他精神のない人とは、連携知を導出するということが苦手な人だということであり、利他精神の誤解とは、日常において、一つひとつの物事における相互作用のつながりを意識せず、ただ漫然と生きているために起こることだといえます。また、サステナビリティでは、受益者の範囲が、地球全体のあらゆる生命などであることが暗黙の了解となっているのに対して、このような人は、近親者や知人だけという、受益者の定義範囲が狭小であるという傾向もあり、このことも、討論が噛み合わない一因になっています。これらのことは、人はなぜ学ぶのかという命題に対して、一つとはかぎらない多様な解を与えます。

特定分野の課題ではない

例えば、

海洋プラスチックの問題は、何の問題ですか

という質問に対して、あなたは何と答えるでしょうか。おそらく、ほとんどの人は、環境問題だと答えるでしょう。しかし、それは、サステナビリティの世界では不正解です。たしかに、今から20年前だったら、正解だったかもしれませんし、「ならば何なんだ」という人もいるかもしれません。

前に、一つひとつの物事における相互作用のつながりということを述べました。海洋プラスチックのもとになるものは、誰がつくり、その作り手の言い分はどういうものなのでしょうか。どのように人々の手に渡り、どのように海に流れるのでしょうか。海に流れなければよいのでしょうか。海産物は大丈夫なのでしょうか。つながりをたどると、環境問題だけではない、複雑に絡み合った社会的課題であるということがわかります。著者の私も環境化学が専門ですが、環境化学の専門性だけでできることはたくさんあるとはいっても、海洋プラスチック問題の全体のうちでは、氷山の一角にすぎないのです。海洋プラスチックの問題の解決には、環境問題を扱う環境化学に限らず、さまざまな分野の人の理解ある結集が必要だということがわかります。大学(院)で学際領域の学部や研究科が設置されているのも、その分野間の垣根をこえた連携アプローチを意識してのことなのであり、各主体のもともとの専門領域以外の理解による専門領域の派生的拡大化も重要になっているのです。

精神的インダクタンスとは

電磁気学で、インダクタンスという概念があります。これは、コイルの電圧の変化に対して、誘導起電力を生じさせようとする性質の大きさに関する概念です。例えば、トランスの1次コイルに交流電圧をかけるとき、その磁束内にある2次コイルには、電圧の変化と巻き数に応じて、誘導起電力が発生します。これが、電磁誘導です。コイルの巻き数が大きいほど、インダクタンスは大きくなります。

同じように、トランスの2次側コイルのように、1次コイルに相当する他者の痛み苦しみ(課題)をジブンゴトとして捉える傾向にも、コイルの巻き数の違いのように個人差があります。ここで、2次側の巻き数は、各主体の課題直面経験に喩えられます。自身が苦難に直面した経験がない場合、他者の痛み苦しみがわからない場合が多いですが、精神的インダクタンスを高め、ジブンゴトとして捉える能力を高めることは可能です。これにはいろいろな入り方がありますが、いずれについても共通していえることは、世の中に現実にある痛み苦しみについてできるだけ多く理解し、その痛み苦しみの当事者の立場に自らを仮想的に置いて熟考を重ねるというプロセスを積むことです。

空気のようなサステナビリティを実現するために大切なこと

以上のことからおわかりのように、空気のようなサステナビリティを実現するためには、

  • 現実世界の真実にしっかりと向き合い、できるだけ多くの知を得ること
  • 知の間の相互のつながりを見出し熟考して、連携知を得るデータマイニングのプロセスを繰り返し、立体的な連携知を形成すること
  • 他者の痛み苦しみをジブンゴトとして捉えて、全体の共通利益のために各主体に何ができるのかを客観的に考えること

といった心がけが大切になります。

自分は今が楽しければいい、その考え方はもう終わりにしませんか。誰かに優しくしても、自分勝手で他者を苦しめても、必ずやそれなりの反応が自身に返ってきますから。なにより続けるためには、そのことが空気のようにごく自然なものであることが重要であって、そのためには、前掲の3つのポイントをしっかりと習慣化することが欠かせません。ぜひ、きょうから始めてください。

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