「田舎者=世間知らず」というのは、もう遠い過去のものとなった。むしろ今は、その逆となった。昭和の頃は、情報は都市部に集中し、都市部に行かないと時代遅れになるということが多かった。しかし、現在では、インターネットや地球規模で考える持続可能性文化の発展によって、情報格差が縮まり、農村部でできることが増えた一方で、都会では、「ボール遊び禁止」に代表される行動制限や自然環境の減少により、できないことが増えている。コンクリート・ジャングルの中だけでは、気づきに限界があるし、霞が関や永田町に籠もっているだけでは、現場のことを知らないままで、間が抜けた政策が実行されてしまったりということもよくあることだ。
田舎の限界を打破する新技術
交通難や電気・ガスなどのエネルギーインフラ面の不利は、田舎の生活利便性に大きな影響を与える要因であり、人口流出の大きな原因となってきたが、この常識も、今まさに、過去のものになろうとしている。インターネットを利用するICT(情報通信技術)や再生可能エネルギーの利用技術が、農村部で急速に普及してきているからだ。昨年からの新型コロナウイルス禍のピンチで普及を余儀なくされてきたテレワークの文化も、オンライン会議に代表されるこれらの普及を急加速させ、自治体レベルで郊外への事務機能の移転を後押しする地域が現れるなど、シナジーを生んでいる。一方で、薪などの伝統的な燃料の活用は、カーボンニュートラルのバイオマスエネルギーとして、田舎暮らしのスタイルとともに見直されつつある。とくにバイオマスエネルギーの利用は、都会では逆に困難である。2020年頃が、農村と都会との居住利便性の転換点になるかもしれない。
都会に近い田舎に注目
例えば、大阪府豊能郡能勢町。大阪市内から約40km、車で1時間程度で行ける、全国的にも例が少ない、大都市圏から近い田舎のひとつだ。植物性食中心のベジタリアン生活なら、自給自足に近い生活が可能なうえ、持続可能性に配慮した、生協などの宅配サービスも利用可能な地域だ。インターネットが普及したとはいえども、今日でも都市部での活動の機会も多く、都市部と行き来しやすいことは、大きな優位性となる。このような地域であれば、二地域活動も現実的に可能だ。銀鮒の里学校もその一例だ。事務局は都市部の豊中市に置いているが、実践的な活動は能勢町で行うことも多く、開校予定地も能勢町かその周辺地域で検討している。農村でしかできないことも、都会の利便性も、それらの両方を享受でき、知的生産性を最大化できる場所、それこそが、能勢町のような「都会に近い里山」である。これまでにも能勢町は、主要国道(173号線・477号線)の開通と郊外住宅地ブームの時期に人口が増加した経緯があるが、現在は急減し、人口は1万人を割り込んでいる。しかし、これからは、持続可能性を基盤概念とした知的な取り組みによる居住地としての魅力創造によって、人口の再増加が期待できるかもしれない。これからは、そのような「都会に近い里山」が熱くなるだろう。
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