地球上で最もポテンシャルが高い花卉のひとつ
ブラジル南東部を中心とした南アメリカ大陸に(変種を除く原種の種名として)約70種が分布するイワタバコ科シンニンギア属は、世界で最もポテンシャル(将来性・開拓可能性)がある花卉園芸作物のひとつです。アメリカなど海外では、シンニンギア属を専門に収集し、品評会への出展を目指して栽培するエンスージアストも少なくないほどです。なぜシンニンギアはポテンシャルが高く、園芸家を魅了するのでしょうか。そのおもな理由として、次のようなことが考えられます。
- 葉・花ともに美麗で、かつ、圧倒的な存在感
- 鮮明な色合いでありながら派手すぎず自然で、(洋種)山野草としての趣がある
- 栽培しやすい夏型の生育型で、夏暑がらず、耐寒性も強い(完全休眠可能)種が多い
- 実生を行いやすく、園芸の醍醐味を最大限に味わえる種
日本では、一部の多肉植物や山野草の園芸家を中心に、最近になって少しずつ知られるようになってきていますが、まだまだ珍しい植物の一群で、開花株が出回ったとしても、洋蘭と同じくらいの値がつくものが多いです。
実はシンニンギアは、記者の思い出の花で、最も好きな花の一つでもあります。今から40年くらい前の時点でも、7月頃になると、「グロキシニア」という名称で販売されている、ビロード状の美麗な花を多く見かけ、わくわくしていたものです。その花は、熱帯性品種のシンニンギア・スペシオサを交配親とする交配種(Sinningia speciosa hyb. )です。スペシオサ系交配種は温室栽培条件では一才開花性の大量生産品種のため、サイネリアやシクラメンと同じくらいの価格(小さめの鉢であれば500円前後)で入手できます。そのイメージが長きにわたり浸透していたためか、「シンニンギアは寒さに弱い」「温室の花」というように思われがちでしたが、もうそれは過去の話になっています。多くの原種では、実はそうでもなく、アルゼンチンやウルグアイにも分布がある品種では、温暖地での露地植えが可能なものもあるほどです。最近の栽培技術の知見では、スペシオサなど熱帯性の品種の多くは、最低温度4〜5℃(一時的であれば2℃程度)でも耐えることがわかっています。これは、暖房がある室内に取り込むだけで、温室なしで余裕で越冬できるレベルです。とくにこの時期に注目されているのは、暑がらないことです。最高気温35℃を超える酷暑日が続いても高温障害を起こすことはほとんどなく、真夏の直射日光が当たってもびくともしない品種も多くあるほどです。(参考:洋蘭などでは高温障害が頻発してもおかしくない状況下です。)それなりに暑くはなるものの、熱帯林のように高温多湿すぎず、乾燥もしすぎない、日本の夏(7月頃の気候)に近い時期が長いブラジルの低い山地に自生する山野草は、実は、日本の夏にもよく適応し、栽培管理をしやすいのです。ハードルの高さのイメージからか、意外と知られていないシンニンギア実生の魅力については、「栽培技術」編でご紹介する予定ですので、楽しみにしてお待ちください。
【余談】
意外と栽培しやすいシンニンギアですが、栽培難易度の高い品種も稀にあります。シンニンギア・ノルデスティナという品種(原種)です。この品種は、年中うだるような暑さのブラジル北東部、赤道に近い熱帯雨林に自生しています。そのため、耐寒性が非常に弱く、世界で最も耐寒性が弱い植物の一つ、エピスシア・クプレアタと同程度と考えられています。しかも、生育サイクルも独特で、休眠期が非常に長い、サマー・エフェメラルのような特性もあるそうです。この種は、ブラジルでも栽培困難な山野草として認識されているようです。このノルデスティナは、例外的で特殊な例で、ぎんぶなのうえんのコレクションにもありません。他の品種はクセが少なく管理しやすいですので、安心して栽培していただきたいと思います。
今回の「魅力」編の後に続く記事として、次は、「栽培技術」編をお届けする予定です。ご期待ください。
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