「まるで能勢の早春の吹雪のよう」タリスカー10年
燻し香を感じる早春の能勢・ぎんぶなのうえん。山間特有の気まぐれな天気で、どんよりと暗い雪雲が迫り、容赦なく吹きつけるゲリラ吹雪。雪雲が去ると、能勢の里山を優しく包むように虹が出て、きりっと冷たい中にも、暖かさも交錯する早春の風が吹き、もう春が近いことを知らせてくれる…世界屈指の強癖シングルモルトウイスキーの銘柄のひとつ、タリスカー10年のストレートは、そんなイメージと重なり、荒々しい面のその先に、優しさを感じさせてくれます。
タリスカー10年は、北緯57度に位置するスコットランドの離島、スカイ島最古の蒸留所であるタリスカー蒸留所(地域区分:アイランズ)のシングルモルト・スコッチウイスキーです。スモーキー感の指標となるフェノール値は20ppm前後とさほど高くはありませんが、ストレートでの実感では、最強級といわれるアイラモルトのアードベッグ(50〜60ppm)と互角といえるほどのインパクトがあります。他の銘柄では少ない、アルコール刺激とは異なる独特の心地よい刺激(スパイシー)感がありますが、これは、伝統製法のひとつであるオレゴンパイン製のウォッシュバック(発酵槽)での発酵工程に由来すると考えられえています。(近年では、多くの蒸留所では、ステンレス製のウォッシュバックが使われているといわれています。)
アルコール度数は45.8度とかなり高めですが、アルコール由来の刺激はむしろ40度のブレンデッドウイスキーよりも少ないくらいです。その分、タリスカー特有のスパイシーさが際立ちます。このスパイシーさは、よく黒胡椒の香りと表現されますが、それもそのはずで、ウォッシュバックの素材であるオレゴンパイン(針葉樹)の精油成分と黒胡椒の精油成分とが近いことに関連していると考えられます。発酵の過程でエタノールを生成し、エタノールを含む醪(もろみ)に精油成分が移行、さらに蒸留過程でエタノールとともに濃縮された結果、特徴的なスパイシーさをもたらすと考えられます。口に含んですぐは、海岸特有の潮気(ヨードのニュアンス)のある強烈なピート香が支配的ですが、薄まってくるにつれて、オーク樽での長期熟成由来と思われるバニラ様の香りや麦芽由来と思われる、蜂蜜のような麦芽蜜の甘い風味や、針葉樹特有のウッディな香りのリリースを感じます。スペイサイドの銘柄のような果物や花のような華やかな香りはほとんど感じ取れませんが、落ち着きのある甘い香りはしっかりと感じ取れます。ゆるやかに減衰する柔らかな甘みと、スモークサーモンを食べた後のような、比較的長いピーティーな余韻があります。ある程度の違いはあるものの、3倍位の価格のアードベッグ コリーヴレッカンの強烈な刺激感をマイルドにしたような風味であり、ウイスキーの風味としては、価格の割には、かなり上質な風味といえます。ハーフショット(約15mL)程度だけでも暖まる実感があり、かなりの飲みごたえがあります。
先入観にとらわれる人を拒む強いクセ味は食通を虜にする
ヘビリーピーテッドと聞くと、「正露丸のような臭い」といわれ、このことにネガティブな先入観を持つ人も多いといいますが、実際にテイスティングしてみると、そのようなネガティブな印象は全くありません。その理由は、化学的親和性(アフィニティ)で解釈されます。正露丸や木タールの臭いが嫌味に感じるのは、グアイアコールなどのリグニン分解物由来のフェノール化合物が、ネイキッドな(裸の)状態で嗅覚に直接働きかけるからです。これに対して、ピーテッドなウイスキーの場合は、バニリンなどの樽材のリグニン部分分解由来物質や酵母代謝物由来物質、ウォッシュバックの材からの精油成分など、多くの溶質を含んでおり、それらの溶質と強く相互作用をして一体感のあるスモーキーフレーバーを構成していると考えられます。このようなアフィニティは、口の中で徐々に薄まることによって減弱化し、その結果として、スモーキーフレーバーに隠れたバニラ様香や蜜のような香りを徐々に感じ取れるようになるというわけです。ですから、ピーテッドウイスキーのスモーキーフレーバーは、決して嫌味があるものではなく、他の香気成分や旨味成分とのアフィニティで一体化することで、心地よく感じるというわけです。このことは、燻製の食品がおいしく感じる理由と同じと考えてよいでしょう。実際に、ピーテッドウイスキーは、「お酒の燻製」といったような感じで、燻製食品と同じように、風味の重要な構成要素として振る舞います。人によって好みは分かれるものの、それが、燻製食品やピーテッドウイスキーにはまる人が想像以上に多い理由です。飲んでみれば、そのことに納得がいくと思います。好奇心旺盛で気になった方は、ぜひ一度お試しください。味覚の世界がさらに拡がる豊かな実感を味わうことができるでしょう。なお、フェノール化合物による独特な香りは、元来は、意図的に味付けをしたものではなく、麦芽による糖化工程の前段階で、発芽した大麦の生長を停止させ、α-アミラーゼの活性を高い状態に維持するための麦芽乾燥工程での熱源として用いられるピートの燃焼に付随して生成されるものです。
燻製が合うものなら何でも好相性、ビターチョコレートなどとも
タリスカーは燻製の精のような味わいですので、燻製が合うものであれば、基本的には何でも合うと考えられます。もちろん、スモークサーモンや無塩せきハム・ソーセージ、スモークチーズ、いぶりがっこなどといった燻製とも合います。ぎんぶなのうえん野菜では、大根、カボチャ、唐辛子、トマトなどとの相性がよいと考えられます。(カボチャ、唐辛子、トマトは、2024年春に育苗・植え付け予定です。)カカオ分が70%以上のビターチョコレートと合わせると、不思議なことに、塩味を感じるとともに、チョコレートの深味とスモーキーフレーバーが絶妙にマッチして、おもしろい味覚体験ができます。
ふなあんでは、大人もこどもも、ほんものを知り、ほんものからの主体的気づきを得ることで、世界観を拡げていただけるような取り組みを、よりいっそう拡充していきます。ほんもののオープンソース野菜に加えて、それらとのシナジーが期待できるような料理やペアリングに関する情報の提供など、今、そこにある資源のポテンシャルを最大限に引き出し、より深く魅力に触れられる知的なおもてなしを進めてまいります。ぜひ。誰でも無料で気軽に取得できる銀鮒の里アカウントを取得、ログインして、好奇心次第でどこまでも世界観が拡がる体験をしてください。
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