【化学ガストロノミー】イタリアの伝統的蒸留酒グラッパ”アストラーレ”

よりおしゃれに、より本場に忠実に、能勢・ぎんぶなのうえん野菜料理を愉しむために

イタリアンでは定番のワインに加えて、今日では、全世界的なウイスキーブーム。能勢・ぎんぶなのうえんでも、クセ味の濃厚な伝統野菜料理の味をさらに引き立てるワインやウイスキー、日本酒のペアリング研究を真剣にやっています。その一方で、視野や選択肢はより幅広いほうがよい、それも、イタリア産や能勢産といった、縁があるお酒ならなおよいということで、今回は、イタリアの伝統的蒸留酒グラッパを紹介します。

広義でのブランデー、厳密には、原料や製法が異なる別カテゴリの蒸留酒

グラッパは、ワインの原料であるぶどう果汁を搾汁した後に残る搾りかすを発酵させ、その発酵物を蒸留して製造される、イタリアで、食事のシーンで伝統的に親しまれている蒸留酒になります。アルコール度数は40度(容量パーセント)以上のものが多く、ウイスキーやウォッカ並みの高さで、ワインの3倍以上もあります。樽での熟成は、銘柄によってされているものとされていないものとがあり、スコッチウイスキーの「3年以上熟成していないと名乗れない」といったような、熟成に関してのルールはないようですが、原料や製法は同じであっても、イタリア産以外の蒸留酒では、グラッパを名乗ることはできないようです。本場イタリアでは、食後酒が多いとはいわれているようですが、食前酒や食中酒として親しまれる場合もあったりと、かなり自由な愉しみ方がなされているようです。基本的には、他の蒸留酒と同様に、ストレート、少量加水、トワイスアップ、ハイボールなどといった愉しみ方ができますが、ストレートでは、とくに鮮烈な香りを最大限に愉しむことができます。ここで紹介するアストラーレという銘柄は熟成工程がない、一般的な焼酎と同様のゼロエイジ(フレッシュ)タイプとなります。グラッパですから、もちろん、イタリア産となります。

ブタノリックなニュアンスの香り立ちが印象的

アストラーレの香り立ちでまず最初に際立つのが、ブタノリック(アルコホリック)なニュアンスです。ブタノリックな香りは、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソアミルアルコールなどといった、炭素数3〜5の低級アルコールによるものと考えられ、エタノールと同時に生成される、酵母の代謝産物に由来すると考えられています。酵母がどのような香気成分を醸し出すかは、その菌株によって異なりますが、アストラーレの場合は、ブドウの果皮に付着していたイタリア土着の天然酵母が、これら炭素数3から5程度の低級アルコールの高い産生能をもっていたのではないかと考えられます。白ワインにもよく見出される香気成分ですので、2〜3倍量の炭酸水で割ると、超ライトでスッキリとしたスパークリングワインのような風味になります。ストレートでは、アリファティックな香りがガツンとくる、特定の要素(低級脂肪族アルコール)が非常に濃厚な、アルコール度数43度のお酒になりますので、少しずつ口に含み、香りを柔らかに拡げてなじませるようにして飲むのがおすすめです。(ワインと同じ感覚で飲むと、確実にむせますので、注意が必要です。)その他、香気に関わる酵母の代謝産物としては、酢酸エステルや酪酸エステル、ヘキサン酸エステルやオクタン酸エステルといった脂肪族エステルなどが考えられますが、低級脂肪族アルコールが水平的にのびる香りであるのに対して、エステル類は、香りに立体的な立ちを感じるリッチ感に関わるとされます。このアストラーレの場合は、エステル類が全くないという感じではないとは思いますが、脂肪族低級アルコール類の香りのインパクトがあまりにも強いためか、エステル類の香りを捉えるのは、かなり難しいようにも感じました。余韻にも関わるリッチさはほとんど感じ取れず、その分、フレッシュさのインパクトが爆発的だという印象です。ただ単純に低級脂肪族アルコールだけだと、「溶剤臭で臭い」とも評されることもありますが、アストラーレは、全体としてフレッシュさを感じる上品な香りに感じられますので、蒸留酒全体としてよい香りと捉えるのに十分なだけのエステル類なども含まれているのではないかと考えられます。

【嗜みの化学を究める】飲み方によって大きく変わる余韻、非常にリッチな余韻も実現可能

先述のとおり、アストラーレの飲み始めの印象としては、ブタノリックなインパクトがあまりにも強く、他の香り成分を感じ取りづらく、「熟成がないから、軽いのは仕方がないのかな」とも思えます。ところが、こちらはドケチなオカヤマンの農芸化学屋、「エステルが感じ取れないはずはない」と、美酒の化学的要素である、バナナやメロンのような香りの重めの脂肪族エステル類を感じ取るべく、何度もテイスティングを試行しました。ごく少量を口に含み、徐々に酒の極性を高めていき、脂肪族アルコールによる親和効果を弱めることを繰り返すことで、極性がより低いエステル類が露わになるようにしていきます。すると、ブタノリックな嗅覚的アタックが徐々に弱められ、徐々に、エステル類のリッチな香りが現れていくのを感じ取れます。さらに繰り返していくと、さらにエステル感が強まり、余韻も、極性が低めの水難溶性のエステル類が口中に滞留して、ロングラスティングな余韻を感じ取ることができました。このリッチでロングラスティングな余韻は、低級脂肪族アルコール類による溶媒和効果を逆手に取った、低極性物質の分離濃縮作用を利用した嗜み方でこそ実現できるので、ハイボールのような、はじめから希釈率を高くするような飲み方では体験しづらいと思います。アストラーレも、他のグラッパも、やはり、まずは少量ずつ口に含ませるストレートで嗜むのが、その真の化学的魅力を最大限に感じ取るには最良の嗜み方なのだと実感しました。ぜひ、あなたも、飲み方で大きく変わり、リッチ感を増幅させる農芸化学屋おすすめの嗜み方をお試しください。この、化学的原理を利用した嗜み方は、例えば、繊細で複雑な風味を有する、高級なシングルモルトウイスキーの嗜み(ウイスキーバーやミニボトルでのストレートでの少量試飲)でも威力を発揮すると思います。おすすめです!

※この嗜み方について、詳しくお知りになりたい方は、ログインしてコメントいただくか、お問い合わせフォームからお問い合わせください。

風味のしっかりしたぎんぶなのうえんのイタリア野菜との汎用的な相性

前述のとおり、アストラーレの香りは、低級脂肪族アルコールが主体のトップノートでクリアな芳香ですので、料理との相性は、幅広い種類の味にそれなりになじむような、汎用的に相性が合うといった感じになります。例えば、ほろ苦さとタンニン感が効いたチコリとサラダバーネットのフレッシュサラダ(ゴルゴンゾーラ・ピカンテ添え)とのペアリングでは、チコリのほろ苦さとサラダバーネットのタンニン感が口に拡がったところに、ストレートのアストラーレを口全体になじませるように含むと、溶剤様効果によって、ほろ苦さやタンニン感をまろやかにしつつ、アストラーレの香りが、料理の味にスパイス様のアクセントを加えるような感じとなり、より食が進みます。一見して、強い香りが料理の味を邪魔するのではないか、とも思えるかもしれませんが、料理のクセ味がちょっと強いかな、と思ったときに、少し含ませる、といったような飲み方をすれば、クセ味の角の要素をとり、まろやかにするような感じで合います。

アルコール度数が高く、フレッシュな香りが非常に強い酒ですので、さまざまな飲み方や使い方ができます。例えば、重厚な香りがするワインやウイスキーに少量加えて、香りの多様性を楽しめるカクテルにしたり、サラダのドレッシングの香り付けに、ハーブ・スパイス感覚で使用して、大人の味わいのサラダにするなどの楽しみ方もできるでしょう。イタリアンとのペアリングが基本ですが、日本酒やワインにも見出される香りの成分ですので、これらのお酒が合う料理にも、化学的には合うはずです。

ふなあんでは、ぎんぶなのうえん野菜のポテンシャルを最大限に引き出すことを目的として、本物志向の大人の嗜みに関する化学ガストロノミーの取り組みも進めています。日本人好みのアレンジではなく、本場により忠実な本物の食やオーセンティックなお酒の嗜みに関心をお持ちで、持ち前の好奇心の旺盛さを、本物志向の食文化の推進に活かしたいとお考えの方、化学の力で究極のイタリアンを追求したいイタリアンシェフの方など、ぜひ、ふなあんの化学ガストロノミーの取り組みにご参加ください。詳しくは、上のリンクからアクセスできるお問い合わせフォームよりお問い合わせください。

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