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農薬大手の三井化学アグロ(東京都港区)が新規殺虫機構を持つ新規殺虫成分として開発したブロフラニリド(商品名:テネベナール)が、同社の農業用の農薬製剤「ブロフレアSC」、PCO用のゴキブリ等防除用医薬品「ベクトロンFL」に加えて、アース製薬(東京都千代田区)の家庭用不快害虫用殺虫剤「ゼロデナイト」としても新発売されていたことが、ふなあん市民運動メディアの市場調査で明らかになりました。
ブロフラニリドとはこのような物質
ブロフラニリドは、GABA作動性塩化物イオンチャネルアロステリックモジュレーターという、これまでの殺虫剤とは異なる新しい作用機構がIRAC(殺虫剤抵抗性対策委員会)に認められ、IRAC作用機構コード30に分類された芳香族メタジアミド系殺虫剤で、分子内のC-F結合の総数は、脂肪族10、芳香族1の合計11と、きわめて高度にフッ素化された化合物であることが特徴です。その分子構造設計の発想はもはやヤケクソとしか思えないものであり、かつてのBHCのような発想に通じるものがあるのでは、と思わせるほどです。
●ブロフラニリド(テネベナール)を有効成分とする商品(末尾の括弧内は承認に関わった省庁)
ブロフレアSC(農薬(農業用殺虫剤);三井化学アグロ(原体・製剤メーカー)/JA全農・北興化学工業)(農林水産省)
ベクトロンFL(第2類医薬品(防除用医薬品(ゴキブリ等衛生害虫駆除用);PCO業務用);三井化学アグロ(原体・製剤メーカー))(厚生労働省)
ゼロデナイト(雑貨品(不快害虫用殺虫剤);アース製薬)
あまりにもブラックな経歴を持つ有機フッ素系POPsルフェヌロン
部分的によく似た化学構造を持つものにルフェヌロンというIGR剤があります。IGR剤とは、キチン合成を阻害することで、幼虫が蛹や成虫になれなくする成育不良状態にして「静かなる死」に至らしめる作用性を持つことを特徴とする殺虫剤です。10年以上前に犬や猫を飼っていた方であれば、花王が「プログラム」という経口ノミ駆除薬(動物用医薬品)を発売していたことをご存知かと思いますが、ずっと前にひっそりと姿を消した経緯があります。それもそのはずで、やはり、ブロフラニリドと同じように、高度にフッ素化されたアルキル基を持っており、そのPOPsとしての問題が疑われてか、EU諸国では禁止を求める動議がスウェーデンから発議され、禁止が決議されたという経緯があるほどです。一方、日本では、動物用医薬品では知らないうちにひっそりと姿を消したものの、農薬では、マッチという商品名で、今日でも定番の農薬として使用されています。高度にフッ素化されたアルキル基のほか、互いにパラ位の関係になるようにベンゼン環に結合した塩素2原子も持っており、難分解性であることが一目瞭然だといえます。
【注意】よく似た名称の農薬成分に、ホルクロルフェニュロンという物質がありますが、これは、植物成長調節剤であり、化学上、ルフェヌロンとは直接的な関係はありません。
イミダクロプリドに次ぐ日本発多国籍展開、ネオニコの悪夢再来の懸念も
アドマイヤーの商品名で知られるイミダクロプリドは、日本バイエルアグロケム(NBA;旧 日本特殊農薬製造(NTN);現在のバイエルクロップサイエンス)で開発され、1984年の候補物質の合成研究開始から8年の歳月を経て商品化された、日本発のネオニコチノイド系殺虫剤の先駆けとなる化合物で、その類型名称からもわかるように、ピリジン環の3位に側鎖が結合したタバコのニコチンに近い分子構造を持っています。製剤のアドマイヤーは、当時としては斬新な殺虫機構で、有機リン剤などへの薬剤抵抗性害虫問題の解決に貢献したことや、根からの浸透移行性で投げ込み一発殺虫剤を実現したことで、稲などの農業者の防除作業の大幅軽減に貢献したことが高く評価され、農林水産大臣賞を受賞したほどです。そのイミダクロプリドをはじめとするネオニコチノイド系殺虫剤が、ミツバチの大量死の原因としてクローズアップされたことがきっかけで、生態系のあらゆる生物に対する脅威の疑いがあるとして世界中で問題視され、近年ではEUなどで禁止や規制の動きが進んでいることは、ご承知のとおりです。
殺虫剤問題の構造系別世代
- 1G:有機塩素/無機系
- 2G:有機リン/カーバメート/合成ピレスロイド
- 3G:いわゆる環境ホルモン(毒性学新視点による1G/2Gの再クローズアップ)
- 4G:ネオニコチノイド/フェニルピラゾール/フッ素化合成ピレスロイド
- 5G:高度フッ素化芳香族メタジアミド?
あの「ウインドウズ」財団も期待の成分か
マイクロソフト創業者であり、Windows発明者のビル・ゲイツの、マイクロソフトでの莫大なIT事業収益を活動原資とするビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団は、農薬事業を基盤事業とする多国籍アグリビジネス勢力と非常に親しく、建前上の「貧困農村の支援」とは名ばかりで、実際には、支援の対象となるべき農村の農民に対して高額な農薬購入に誘導する実質的搾取により、これら営利勢力に対する実質的な利益増大を図っているのではないかという疑惑が持たれています。三井化学アグロのウェブサイトのトピックス記事によると、同財団が支援するとしているマラリア撲滅プロジェクトで、このブロフラニリドを使用した、マラリア媒介蚊の駆除試験を行うということです。マラリア撲滅というと、聞こえはよいですが、除虫菊などの環境安全性が高いオープンソース的な選択肢も考えられることもあり、あえてPOPsとしての永続的な環境リスクが疑われ、三井化学アグロの利益独占にもなりうる製剤を使用する妥当性には大いに疑問があります。農薬メーカーの利権を肥やして甘い汁をなめ合おうというビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団の思惑もあるのではないかと考えられます。
関係省庁、有機フッ素化合物農薬承認の化学的妥当性について全く説明できず、論点すり替えも
農林水産省のブロフラニリドの農薬審査報告書(全140ページ)のうち、114〜115ページの「別添 2 代謝物等一覧」には、ブロフラニリドの難生分解性を裏付ける重要な示唆がなされています。これは、試験期間180日(約半年間)の土壌微生物による生分解試験によるものですが、試験条件が比較的厳しめのアッセイ系で、半年もの時間をもってしても、ほとんど分解されていないことが一目瞭然です。とくに、ベンゼン環に結合したフッ素やトリフルオロメチル基、パーフルオロプロピル基は、CのS(PFP-OH)-8007を除いては、全く変化していません。代謝物には、ベンズアミド末端側のアミド結合の加水分解由来のものが多いのも、予想通りの納得の結果です。なぜなら、全体的に生分解性が決してよいとはいえないブロフラニリドの中でも、アミド結合は、生分解による変化(加水分解)を最も受けやすいと考えられるからです。
また、厚生労働省でも、PCO用の第2類医薬品(防除用医薬品)向けの審査を行っていますが、書類上では、農林水産省の農薬の審査よりも緩いものとなっています。
ふなあん市民運動メディアは、農林水産省と厚生労働省に、農薬審査報告書の別添2のエビデンスデータについて、どのように考えているかを質問しました。すると、承認の妥当性について、全く説明できず、慣例のとおり、「(動物実験等の)アッセイデータでは、とくに問題のある所見を認めなかった(から承認した)」と、論点のすりかえをせざるを得ませんでした。
屋内試験研究施設の人工的再現環境でのラボアッセイで得られる結果は、必ずしも実環境での環境影響を説明することにはならないことは、とくにネオニコチノイド類で明らかにされていることです。オオミジンコなどでのラボアッセイ用の被験生物では、「(実際の使用上は)十分に安全」と評価されてしまう過小評価をしてしまうことが多いのです。このことから、約30年前のネオニコチノイドのときと同じような過ちを繰り返していることになります。
ブロフラニリドの農薬審査報告書によると、ブロフラニリドの農薬としての開発には、10年以上の歳月を要しているとみられます。しかしながら、環境化学の専門家の立場からいわせていただくと、代謝物等のエビデンスデータが、(有機フッ素がほとんど変化していないという)想定と矛盾しない当然の結果であるように、このような分子構造の設計を行うこと自体が、化学情報上の門前払いに値するレベルであるといえるわけです。農薬登録に係る審査も、医薬品の承認審査も、国民の税金で行われています。化学関連行政の仕事は、これ以外にもたくさんすべきことがあり、優先順位をつけてこなさざるを得ない状況です。このような現実も鑑みて、ふなあん市民運動メディアでは、農林水産省・厚生労働省・環境省の各省の関係部署に対して、化学情報面での「門前払い」もできるような、化学情報面での予備審査に重点を置くように政策提言を行いました。
●農薬審査報告書(ブロフラニリド;農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_sinsa/attach/pdf/index-64.pdf
●2021年8月2日 薬事・食品衛生審議会 要指導・一般用医薬品部会 議事録(ブロフラニリド製剤関連;厚生労働省)
アース製薬にも販売の差し止めと安全な代替品開発を要請
ふなあん市民運動メディアは、雑貨品の不快害虫用殺虫剤「ゼロデナイト」を販売するアース製薬に対しても、ゼロデナイトシリーズの販売差し止めと、天然物のチモールやピレトリン類(除虫菊抽出物)を活かした害虫対策製品の開発・実用化を強く要請しました。この要請に対して、アース製薬は、「実はブロフラニリド原体は高価であり、弊社にとっては負担になっている」「弊社は園芸用ラインナップの『アースガーデン』の展開には力を入れており、同シリーズの『ロハピ』に代表されるように、天然物の活用には前向きに取り組んできたので、今後も(『ロハピ』などと同様に、)天然物の農薬としての利用の実現には、前向きに取り組みたい」と答えています。「ロハピ」に続く、天然物活用農薬の開発進展には注目したいところです。
除虫菊を植えます:能勢・ぎんぶなのうえん
能勢・ぎんぶなのうえんでは、IPM(総合防除管理)で用いるハーブの栽培を進めていきます。そのうちのひとつが、除虫菊です。除虫菊は天然の殺虫成分であるピレトリン類を生成します。花も美しいため、ナチュラルガーデンの花としても美しいものです。播種した翌年の5〜6月に開花するため、栽培には根気が必要ですが、昔から安全性が高く、有効性が確かな天然防除剤の除虫菊について正しく知っていただき、化学合成殺虫剤の問題を考えるシンボル的存在になることを願っています。
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