東京・井の頭自然文化園でニホンリスの約31%が死亡、化学物質による中毒か

【訂正】
井の頭自然文化園で飼育のニホンリス全数を「61頭」としていましたが、正しくは、「リス繁殖A棟40頭、リスの小径61頭の計101頭」です。ニホンリスが死亡したのは、リス繁殖A棟のみです。関係者のみなさまには、深くお詫び申し上げます。なお、現在の記事は、訂正反映済みで、訂正に伴い、タイトルを含む内容の一部変更も行っております。

東京都武蔵野市の井の頭自然文化園で11日、同園で飼育しているニホンリス101頭(内訳:リス繁殖棟A棟40頭・リスの小径61頭)のうち、全体の約31%にあたる31頭が1週間のうちに死亡したことがわかりました。井の頭自然文化園によりますと、4日に、飼育場の衛生対策作業として、リス繁殖棟A棟で飼育中のニホンリスの全数40棟を捕獲し、体表の寄生虫駆除のために、体表滴下(ドロップオン)型の薬剤を使用したと同時に、巣箱の害虫駆除のための殺虫剤を使用し、処置後にニホンリスを巣箱に戻したということです。作業当日、体調の急変がみられた1頭が死亡し、作業の翌日にも、A棟で飼育のニホンリスに死亡や体調異変の個体がみられ、その後の経過観察で、11日までに累計で、同園で飼育のニホンリスの約31%にあたる31頭の死亡が確認されたということです。リスの小径で飼育の61頭には影響はないということです。4日の衛生対策作業で使用した薬剤は過去にも同園での使用実績があり、そのときには異変はみられなかったということですが、ニホンリスの体表への寄生虫駆除薬剤と巣箱用の殺虫剤を同時に使用したことから、中毒死の可能性も一因として考えられると説明しています。

現時点において、寄生虫駆除剤と巣箱用殺虫剤の物質名を公表していないことから、化学の専門家が記者を務めるFMGでは、リスクコミュニケーションの観点から、井の頭自然文化園に対して、使用した薬剤の物質名の照会を行いました。FMGの照会に対して、井の頭自然文化園は、「化学物質中毒は、あくまでも死因として考えられる一因にすぎず、原因が特定できていない状況下で物質名開示を行うと、(化学物質の問題が)独り歩きする懸念があるため、現時点ではお答えしていない。東京都とも協議のうえ、死因が特定され次第、順次、情報開示を行っていきたい」と答えています。ニホンリスの寄生虫駆除に用いたドロップオン型の薬剤については、ニホンリス用の適用指定がないため、ニホンリスの動物福祉の(ニホンリスが痒がって苦しまないようにとの)観点から、人用の医薬品や動物用医薬品(愛玩動物用等)のなかから、できるだけ文献等で使用実績の報告があるものを使用しているということです。

【参考情報】犬・猫用の寄生虫(ノミ・マダニ等)駆除薬剤(動物用医薬品)の成分について

最近の犬・猫用の寄生虫駆除薬剤の成分としては、

  • フィプロニルやピリプロールといったフェニルピラゾール系
  • イミダクロプリドなどのネオニコチノイド系
  • (S)-(+)-メトプレンなどのIGR剤
  • サロラネルやロチラネルといった新規イソキサゾリン系(経口投与型;動物用医薬品専用)

が中心としてよく用いられています。

フェニルピラゾール系薬剤は、置換基による強い電子求引作用により、代謝や生分解などによる化学変化を受けにくく、比較的強い毒性をもった状態が長く続く特徴があります。フィプロニルもピリプロールもPFAS殺虫剤です。(広義でネオニコチノイド系殺虫剤に含められる場合もあります。)

フィプロニル
ピリプロール

ネオニコチノイド系薬剤は、昆虫などの節足動物を除いては、急性毒性作用(中毒症状)は現れにくく、一見して低毒性のようにもみえますが、慢性(中・長期的)毒性については、未知の点、あるいは、疑問点が多く、環境中のミツバチが激減した原因のひとつとしてクローズアップされたことで有名な化学物質群です。このことから、現状の化学物質管理では、予防の原則から、非常に強い長期的影響の可能性を疑い、使用や曝露を未然に回避することが求められています。バイオアッセイでの結果だけでは、環境影響を説明することが、不可能といえるくらいに困難であることから、「環境化学屋泣かせ」の化学物質群としても問題になりました。能勢・ぎんぶなのうえんをはじめとして、日本国内の農業者の間でも、ネオニコ不使用宣言をする農業者が増えてきています。

イミダクロプリド

IGR剤は、強力なキチナーゼ(キチン合成)阻害作用を発揮することで、昆虫の変態や成長を停止して、結果的に駆除対象を死に至らしめる殺虫剤です。以前はルフェヌロンというIGR剤が動物用医薬品としても使用されていたこともありましたが、その強い毒性が世界的に問題視され、現在では、動物用医薬品としては使用されなくなっています。(但し、農業用の殺虫剤(農薬)成分としては、現在でも現役で使用されています。)近年では、哺乳動物への急性毒性が比較的低いとされる(S)-(+)-メトプレンやピリプロキシフェンが使用されることが多くなっていますが、中長期的に生態系に悪影響を及ぼすリスクが指摘されています。

(S)-(+)-メトプレン
ピリプロキシフェン
ルフェヌロン

近年では、ロチラネル(商品名:クレデリオ)やサロラネル(商品名:シンパリカ)といった、新規イソキサゾリン系の成分も、犬用の経口駆虫薬として使用されるようになっています。非常に強い慢性毒性や脂肪組織への蓄積性に関与しうる分子構造(多ハロゲン化フェニル基を含む高度ハロゲン化構造など)をもっており、いずれの成分を含む製剤についても、犬の副作用による死亡事例が報告されています。(動物医薬品検査所 動物用医薬品データベース)

サロラネル
ロチラネル

※注意:以上の化学物質情報は参考情報です。井の頭自然文化園でのニホンリスの死因は現在調査中であり、化学物質による中毒が死因と特定されたわけではありません。この参考情報は、動物用医薬品として、動物の寄生虫対策に使用される可能性がある成分に関する一般的な情報であることをご理解ください。化学の素人による動物園等への直接問い合わせ等は迷惑がかかりますので、絶対にお止めください。動物の飼育で使用される化学物質などについて、気がかりなことがある場合には、銀鮒の里アカウントでログインのうえ、FMGに直接お問い合わせください。

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