【市民言論】2ちゃんねる「ひろゆき」氏の産地差別発言は断じて許されない

SNSバブルに鼻高々のひろゆきにブレーキ

掲示板サイト「2ちゃんねる」を立ち上げたことで知られ、今では商業SNSで最も有名なインフルエンサーとして知られる「ひろゆき」氏の産地差別発言が物議を醸している。「(原発事故を起こした)福島県産の表示はなくして売るべきだ」と、環境災害を起こした地域を差別するととられる発言をしており、しかも、福島県の生産者団体が抗議しても謝罪も撤回もしていないというのだ。これは、人気に乗り、ウケを狙おうとするあまり出た、あまりにも公共的配慮に欠いた発言であり、断じて許されるものではない。

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他の環境災害当事者地域はどうか

2ちゃんねる「ひろゆき氏」の発言が正当だとすれば、環境災害を起こした地域のブランドを全否定することにもなりかねない。そこで、他の環境災害当事者地域の事例をもとに、環境災害当事者地域がどのように立ち直り、ブランドを回復・発展させてきたかを考えたい。

熊本県水俣・天草地域。誰しも知るところのチッソ水俣工場からの有機水銀を含む排水が原因で起こった水俣病が発生した地域だ。今日では、水俣市はごみの多種分別などが進んだ環境先進都市として、全国に知られるようになっている。粉石けんや海塩の生産事例もあり、環境ブランドとしての発信に一役買っている。熊本県の地図を見ていただくとわかるように、水俣・天草地域は、数多くの島が並ぶ閉鎖性海域であり、清浄化にはとくに困難を伴う。しかし、現在では、水俣・天草地域の海産物や塩も安心して使うことができるし、「水俣病が発生した地域だから避ける」という動きも聞かない。これには、地域をあげて環境先進地域として先進的な動きをすることで、水俣病が発生した地域だと小学校の社会科でも習うくらいの負の遺産を現在も発展的に継承し、二度とこのような環境災害を起こしてはならないという、強力なメッセージを発信するという意味がある。このような努力が功を奏し、今では、水俣病禍を乗り越え、環境先進地域ブランドを発信することに成功し、他の地域の見本となっている。

銀鮒の里学校の活動拠点である大阪府豊能郡も決して他人事ではない。今から四半世紀前に、能勢町にあった豊能郡美化センター(ごみ焼却施設;ダイオキシン問題発覚後に停止・解体され、現在は跡形もなく、太陽光発電施設になっている)で、当時は国内最悪といわれた、きわめて深刻なダイオキシン類汚染が起きた。その影響は凄まじく、煙突の風下にある木が枯れるほどだった。その原因については、(記者が化学に疎いからか、業界への忖度だからか、他のメディアでは)あまり報道されてこなかったが、ラップフィルムなどとして使われる塩素系樹脂の低温焼却と考えられている。塩素系樹脂には自己消火性があり、強引に燃やそうとすると、どうしても低温となる部分ができる。その低温になる部分で、ダイオキシンの前駆物質に相当するクロロフェノール類が生成、それらがカップリング反応を起こすことでダイオキシン類が発生するというわけだ。ダイオキシン類は、人為的に生成される有機化合物中では最強クラスの猛毒物質であることは確かであるが、だからといって悲観することはない。朽ちた木を起こしてみるとわかるが、白いカビのようなものがいっぱいついているのを一度は見たことがあるだろう。これは、白色腐朽菌という菌類(キノコ)であり、ダイオキシン類などの難生分解性物質をも分解することができる可能性があることがわかっている。幸いにも、豊能郡は周囲を自然豊かな山々に囲まれており、白色腐朽菌も至るところで育つ環境がある。ドラム缶に保管された大量のダイオキシン含有廃棄物の問題は今もなお残っているものの、私たち銀鮒の里学校などのように、民間レベルで多くの環境保全・里山ブランド発信の取り組みが行われており、京阪神中心部から一時間程度で行くことのできる身近な里山として、とくにオンシーズンには、度々渋滞が発生するくらいの、関西屈指の癒やしスポットとなっている。銀鮒の里学校として活動を始める前から、発起人はダイオキシン類を発生させない生活様式の提案など、環境化学を基盤とした市民運動を進めてきた経緯があり、今日では、日本有数のESD(持続可能な開発のための教育)拠点になることを目指し、市民化学の啓発やオープンソース農業、これらの取り組みを活かしたオルタナティブ・スクールづくり運動など、新しい能勢の価値創造に取り組んでいる。

逆境こそチャンスに

逆境があるからこそ、それをチャンスに。銀鮒の里学校には、そういう思いがある。これは、前に示した熊本県水俣・天草地域の成功事例などにもみることができ、そういう思いがあるからこそ、大阪府豊能郡を学校づくりの地に選んだのだ。だからこそ、環境災害であきらめさせるだけで、自身のウケをとりたいだけのひろゆき氏の軽はずみ発言には強い抗議の意を表したいと考える。もし、あなたに少しでも「福島県産=放射能汚染」という科学的根拠のない固定観念があるのなら、すぐにその思い込みを捨てていただきたい。その固定観念は、逆境から立ち上がろうとする人たちや社会の夢や希望を否定する浅はかなものでしかないのだから。今、持続可能性の時代を生きる私たちに必要なこと、それは、科学的根拠のある正しいリスク認識・公共意識を共有し、助け合うことである。

余談になるが、この「ひろゆき」対抗論記事の執筆者の本名も「ひろゆき」(裕之)だということを付け加えておく。

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