【SQリテラシー】正しいリスク論の条件

化学(構造)式に言及しない「リスク論」はすべてインチキ!

いわゆる工学屋の悪い癖として、

何でもムリヤリ数値化したがる

その代わり、「(有機)化学は専門外」だといって、化学(構造)式は出さない

ということがあります。

化学物質が関わるリスク論は、化学物質が考察の対象ですから、その素性を明らかにしないようでは話にならないというのは、少し冷静に考えれば、あたりまえのことだと思いませんか?

いわゆる工学屋は、数値化されたデータを駆使して、さも科学的に正しいかのような、もっともらしい説明をしますが、それは、何でもかんでも「自然科学的に正しい=数値による定量化」だと勝手に決めつける科学の罠にはまり、錯覚しているからです。素人に多い失敗です。

農学の博士号をもった執筆者の私は、このことを、少なくとも四半世紀以上は言い続けてきました。

「科学的」とはエビデンスがあるかどうかではない

よく、

査読つき論文(エビデンス)がないことは、科学的ではない

ということがあります。しかし、そのようなことをいう人は、自然科学のことをよくわかっていない素人ほど多いのです。

自然科学とは、論理的思考を重視する学問群です。とくに化学ではよくいわれることなのですが、有機化学の教科書などでよく見るような化学反応式や反応機構というのは、それらのしくみそのものを目視で確認できるような場合はきわめて稀なのです。言い換えれば、化学反応式や反応機構というのは、再現よく確認できること、すでに普遍的に理解されていることを論理的に組み合わせて、論理的に整合するように組み上げられてきたものである場合がほとんどなのです。そして、そのような論理的考察はたいていの場合正確性が高く、多くの化学的知見をもたらしてきたことも事実なのです。環境化学でも、一つひとつの化学物質について、バイオアッセイという経験的手法のみで安全性評価をするのは、莫大な時間がかかるので、現実的ではありません。このことは、環境省や欧州化学物質庁のデータベースをみても、その既知のデータがあまりにも少ない現実をみればおわかりいただけるはずです。実際には、QSARを基盤概念とする(コンピュータやAIも駆使する)半経験的解析と、そのアウトプットに基づき、現実の状況に則したかたちで、丁寧に論理的適用をしていくという、予防の原則に基づくプロセスが大切となるのです。すなわち、

自然科学的に正しいこととは、複数の事象間が論理的に整合したかたちで説明できること(経験的な実験は必ずしも必須ではない)

だといえます。これは、ニセ科学であるかどうかの判断でもあてはまります。例えば、ふなあん市民運動メディアでも取り上げた、洗濯マグちゃんの問題に関しても、宮本製作所側から、

金属マグネシウムが水に溶けてpHが上昇する→アルカリの作用で油脂が分解されて水石けんができる

という説明がなされていたことがありましたが、この科学的妥当性に関して、宮本製作所に検証の解釈を求めましたが、当然、答えることができなかったのです。なぜなら、実際には、

水のpHが上昇したことで、必ずしも油脂のけん化反応に結びつくとはかぎらない(けん化反応の成立には、非常に高い濃度の水酸化物イオンとの接触と煮沸条件(高温)といった、非常に強い反応条件が必要)

マグネシウムイオンが対イオンを成す高級脂肪酸塩は水に不溶

などという、高校化学でも指摘できるような、複数の自然科学的矛盾にぶち当たり、辻褄が合わないからです。

世の中に出回る、もっともらしい考察や説明は、テレビや新聞、YouTube動画のほかにも、大学や国・自治体などから発信される情報にも多く見当たることを確認しています。判断に迷ったら、当方のような、論理的整合性を大切にする自然科学の専門家に検証を求める態度も、あなたが「もっともらしい『科学的情報』」や「ニセ科学」に疲れない、騙されないためにも、とても大切なことなのです。よく熟考したうえで、うまく頼るのが正解となります。

※SQとは、スッキリ・クイックの略、すなわち、すぐに読めて、すっきり解決できるという意味です。

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