科学的が実は非科学的!?:本物の理系博士が伝える、本物のファクトチェックとは

東海道新幹線車内で販売されているビジネス雑誌Wedge(ウェッジ)のオンライン版で、農薬問題について訴える週刊誌などの論調が非科学的だと批判する記事が掲載されています。そこで、博士(農学)の本物の博士、オカヤマンヘンな鮒が、このファクトチェック問題について、市民的かつ中立的な立場に立って仲裁したいと思います。本題の前に、なぜウェッジというビジネス雑誌が東海道新幹線の車内で販売されているかといいますと、ウェッジを出版する株式会社ウェッジ(東京都千代田区)はJR東海(東海旅客鉄道;名古屋市)の関連会社だからです。JR東海は特定の政治家と親しいであろうことは想像するに易しですが、そのようなJR東海のイデオロギー的なものも含む言論を、主要顧客層である出張移動のビジネスパーソンに刷り込もうという狙いがあると考えられています。

まず結論からいえば、喧嘩両成敗です。素人的感覚では、ファクトチェックときけば、無条件に信憑性が高いと捉えられがちですが、そこが盲点です。ファクトチェックを標榜した情報のほとんどが、疫学調査や学術文献に掲載された事実だけを羅列し、その状況証拠だけでもって、「だから科学的に正しい」とされているのです。しかし、一歩踏みとどまって考えてみてください。疫学調査の結果というものは、n数(母集団)が大きいほど信憑性が高いものの、単なる偶然の結果ではないかとも疑うこともできませんか。物事が起きるというのは、気づかない、気づけない要素も含む複数の要素が影響しあって起こるものであって、しかも、その要素は、母集団を構成する一つひとつについて、それぞれ異なりますから、より複雑です。そういったことから、ほんとうに信憑性が高い疫学調査を行うというのは、現実的には非常に難しいものだといえます。しかし、疫学調査で、特定の政治的思惑を持った層にとって有利な結果が発表された場合は、その結果を意識的に持ち上げては、それとは反対の論調があれば、それらを徹底的に批判したりすることが行われるわけです。その徹底的な批判こそが、今回問題となっているウェッジの記事なのです。もちろん、疫学調査は科学的に考察するうえでの重要な元データを与えるものであり、なくてはならない調査です。しかし、それが活きるのは、政治的思惑とは関係なく、中立的観点から行われる、これまでに得られた科学的知見や調査事実なども駆使して行われる科学的考察があってこそなのであり、「こういう疫学調査結果が発表された」「こういう事実が学術論文に掲載された」という状況証拠の羅列だけでは、ほとんど意味を成さないものです。科学者であれば誰しも経験することですが、査読(レフェリー)付きの学術論文でさえも、「ほんとうに再現性があるの?」と思わず首を傾げてしまうような、怪しい情報が潜んでいたりすることもあるものです。それもそのはずで、学術論文は、世界初の知見を発表するものですが、当然、査読者がいちいち実際に、論文に従って実験を行って検証するようなことはほぼないわけで、学術論文で求められている論理展開が行われており、科学的に考えて、よほどの矛盾や不自然な点などの疑義がないかぎり、そのまま通過し、掲載されるものです。だから、権威ある学術論文であっても、専門家による、「論文の内容に、矛盾や不自然な点がないかどうか」といったような、半信半疑での考察を通すことが、本来は求められるくらいなのです。バイアスを未然に防ぐために、一切の政治的な思惑等を排除した中立的立場に立ち、疫学調査の結果や学術論文での記載事項などの元データを駆使し、経験的もしくは半経験的な考察結果を示し、実社会に活かしていくというプロセスを経てこそはじめて、科学的に信憑性がある状態となるわけです。

それでは、ウェッジで問題になっている食品の残留農薬問題に関して考えてみることにしましょう。週刊誌やジャーナリストが著した告発本では、とにかく日本人に無条件に問題意識を持たせることで、出版社や著者が利益をあげるべく、信憑性を犠牲にしてでも、「日本の農作物や農薬規制はヤバイ」と声高に訴えるのです。その論拠として使われるのもやはり、「日本の面積あたり農薬使用量が世界トップレベル」などの、しばしば不正確さも含む状況証拠の羅列なのです。週刊誌や告発本は、とても自然科学に精通している著者とは思えないような、科学的考察がほぼない薄っぺらさが見える内容になっており、このことについては、ウェッジが指摘しているように、信憑性に疑義があるといえます。ところがです。そんな批判するウェッジも、正しい情報に修正しているとはいえ、状況証拠の羅列であることには変わりはないではないですか。喧嘩両成敗たる所以です。ウェッジでは、体制(右)派にとって都合がよいと思われる農薬の業界団体の意見を肯定的引用として採用したうえで、やはりそこでも、「業界団体はこう言っている」という状況証拠の羅列に終始しています。そして、その意見が、週刊誌や告発本の訴えとは逆だから、よって、それらがおかしいのだという論法になっているのです。

日本の食品作物への農薬の使用実態や残留農薬の問題は、自然環境の生態系に及ぼす影響など、あらゆる意味から、それなりに深刻なものであり、人の健康に及ぼす影響もゼロではないということは認めます。しかし、実際の一人ひとりの全健康リスクに占める、食品の残留農薬の毒性影響というのは、慣行栽培野菜であったとしても、ほぼ無視できるくらいのレベルではないかと考えます。これは、他の環境化学の専門家も同意見であるはずです。殺虫剤のリスクに関していうなら、ドラッグストアで売っているような、蚊やゴキブリの駆除に用いる殺虫剤によるリスクのほうが、質・量の両方について考えても、はるかに高いといえますし、化学に疎い人であればあるほど、合成洗剤や化粧品、食品添加物や食品加工に由来する健康への負荷が高い物質を無意識のうちに体内に取り込んでしまっており、むしろ、それらの積み重ねで、健康を害したり、過敏体質を発症したりしているケースが多く、曝露量がごく微量となる農薬は、もはや濡れ衣を着せられた存在であるともいえるわけです。さらに言えば、農薬も、今日では、ぼぼ毒性がないといえるような製剤も普及してきており、昭和後期や平成初期の頃と比べると、(残留)農薬による健康リスクは実際にはさらに下がっている可能性もあります。いずれにしても、残留農薬に起因する健康リスクのシェアは、(他の化学的リスクを含めての全体と比べてみても)目をつぶっても差し支えないくらいに低いものだということです。意外に思うかもしれませんが、これが、環境化学などの専門家の間では、ほぼ共通した意見となっています。さらにいえば、化学物質過敏症を本気で予防したいのなら、スーパーで買える慣行栽培野菜は食べてもよいが、とにかく衛生害虫の殺虫剤や化粧品、洗剤、食品成分(とくに食品添加物)はとくに意識して、避けるべきものは徹底的に避けるようにというように、環境化学の専門家として助言します。

ビジネスパーソン、とくに、理系を避けるように歩んできた文系のビジネスパーソン、それも、出張帰りで疲れ、ビールをプハーっとしてのんびりできる帰りの新幹線移動となれば、ウェッジの記事の内容は、何も疑わずに信じ込んでしまうでしょう。だからこそ、危険なのです。できるビジネスパーソンになりたいのであれば、東海道新幹線で販売のウェッジを反面教師として参考程度に読むのはありかもしれませんが、やはりメインメディアは、FMGにして、銀鮒の里アカウントでログインして双方向参加をすることをおすすめします。FMGは、Wi-Fi環境が利用できれば、スマホでもパソコンでもご利用いただけます。

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