【シンニンギア新知見】休眠覚醒効果か、S. ゲスネリフォリア越冬株のカットバックの重要性、得することも

園芸

冬越し後の熱帯性(木立性)シンニンギアのカットバック(切り戻し)に躊躇された経験、一度はあろうかと思います。著者もその一人です。しかし、躊躇したときにかぎって、休眠覚醒に失敗し、6月以降に、そのまま枯れてしまうという苦い思いをしたりするものです。そのような失敗から、ダメでもともとの気持ちで、思い切ってカットバックと植え替えをすると、息を吹き返したかのように覚醒し、むしろ前年よりも格段に元気に育ちそうな兆しが見えてきたりもすることが、S. ゲスネリフォリアの栽培技術研究でわかってきました。現時点においては、シンニンギア・ゲスネリフォリアの具体的な栽培技術について言及した、インターネット上で得られる日本語(国内)情報は、きわめて稀少であり、おそらく、この情報が最も充実しているのではないかと思いますので、とくにシンニンギアを栽培されている方、これから栽培に挑戦してみたいという方は、どうぞ最後までお読みください。

シンニンギア・ゲスネリフォリアについて

S.ゲスネリフォリアは、ブラジルのリオデジャネイロ州を原産地とする、熱帯性の木立性種です。シンニンギア属の原種は、木立性であっても、痕跡レベルの塊茎を持っている品種が多いですが、このゲスネリフォリアは、完全な木立ち性で、塊茎がほぼ完全に退化しているとみられています。そのため、塊茎性のシンニンギアとは栽培管理にいくつかの相違点があります。日本ではまだまだ稀少ですが、愛らしさと逞しさを併せ持った葉や野性的な樹形、そして、アロイド(サトイモ科)などの他の観葉植物と比べても、暖房がない室内で十分に越冬できるくらいの耐寒性があり、酷暑への耐性も高いことから、新観葉植物としての期待も高い原種です。一つひとつの花は、花形はエウモルファやバルバータ、色はグッタータに似た、ユニークな花で美しいですが、節間が長く、大柄に育つ関係もあり、インターネット上の写真データからも、まばらに少しだけ付き、地味な印象が持たれがちです。(著者の株も、まだ開花した実績はありません。たしかに、他のシンニンギアに比べると花がつきにくいという印象は、現時点では否めません。)とはいえ、栽培技術次第で豪華にみせる可能性はあるとみられ、豪華に花を咲かせることは、我々花卉園芸技術の研究者に課せられた課題だと考えています。とくに冬季半休眠の場合、花は晩夏から秋にかけての成長期終末期に咲かせる晩生です。気になる耐寒性ですが、リオデジャネイロ州は、熱帯と温帯との境界域であることから、他の熱帯性シンニンギア(ブラジル・エスピリトサント州以北産)と比べると耐寒性が強く、成長期に健全育成ができていれば、暖房のない室内(最低温度2〜3℃、瞬間的には0℃)でも十分に越冬するほどです。(但し、最低温度0℃、瞬間的には氷点下1〜2℃に達するような軒下では、枯死するリスクが高いですので、注意が必要です。)

越冬株バイタルチェックのポイント

S.ゲスネリフォリアは、シンニンギア属では稀な完全木立性のため、塊茎はあてにできず、木の幹が全てとなります。S.グッタータなどでは、木の幹がダメになっても、塊茎からの出芽で助かるということがありますが、このゲスネリフォリアでは、木の幹がダメになると、絶望的だといえます。ですから、S.ゲスネリフォリアのバイタルチェックは、次の手順で慎重に行います。(焦ってすると、取り返しのつかないことにもなりますので、注意してください。

1. 主幹のハリをチェック

主幹にシワがなく、ハリがあるかどうかをチェックしましょう。ハリがあれば、休眠覚醒の可能性があります。ハリがなく、表皮がガバガバに浮いた感じの部位は、低温障害などによって、壊死している可能性が高いですので、ハリを取り戻す可能性は低いと考えられます。ハリがある部分で、茶色いと大丈夫か、と心配ですが、状態にもよりますが、一気に息を吹き返す可能性が高いです。諦めずに、次の作業を進めましょう。頂芽は越冬中に枯れてしまうことがありますが、主幹にハリがあれば、あまり心配はありません。越冬温度が十分にあれば、頂芽が生き残り、生長を再開します。以後に説明しますが、芽の表面が茶色くなっていても、諦めないでください。主幹にハリがあり、ここで示す手順に従って手入れをすれば、茶色になった部分が殻となり、緑色の勢いがよい芽が出てくることがありますので、諦めずにお待ちください。

2. 壊死部分の下でカットバック

低温障害による壊死部分を放置すると、壊死が進行する可能性があることも、試験栽培で確認していますので、壊死部分は躊躇なくカットバックしましょう。壊死部分の見極めは、芽切狭で上から順にカットして確認します。明らかに茶色く潰れている部分は壊死していますので、復活の見込みはないでしょう。カットバックは、少なくとも壊死が認められなくなる節の直上で行います。すると、壊死が止まり、新芽の出芽が促されます。節数に余裕があるようであれば、余裕をもって、より下の節でカットバックをすると、より安心です。壊死していない節があるカットバック枝は、すぐに捨てずに、置いておきましょう。

3. 植え替え

壊死部分の除去が終わったら、植え替えをします。S.ゲスネリフォリアは成長期の生育が非常に旺盛で、生育状態がよい場合、1シーズンで鉢に根が回りきります。そこで、株のリフレッシュを兼ねた植え替えを強く推奨します。植え替えは、シンニンギアの育成も想定して開発した、能勢・ぎんぶなのうえんのプロ培養土(く溶性元肥入り)を使用するのが最良です。根鉢の3分の1程度を軽く崩して、根に程よく刺激を与え、一回り大きいスリット鉢の隙間に、プロ培養土を偏りなくいれていきます。追肥は1〜2週間後から、酸性液肥(成分:硫安・第一リン酸カリウム;N:P:K = 3.5:8.5:5.7)の1,000倍希釈液を週1〜2回程度、生育をみながら与えます。失敗の原因になりますので、白粒化成肥料は与えません。

4. カットバック枝の挿し木(健全な枝の場合)

2でカットバックした枝に、壊死していない節が1節以上(望ましくは2節以上)あるようであれば、挿し木で活着する可能性がありますので、挿し木をしてみてください。想像以上に容易に活着するようですので、試さないのは損です。挿し穂は壊死部分を完全に除去するなどのトリミングを行い、一節が完全に埋まるように、プロ培養土で植え付けます。すると、状態がよい挿し穂では、1週間程度で芽が動く兆しを確認でき、数週間から1か月もすれば発根・活着するとみられます。

カットバック枝の挿し木約2週間後の様子。節から出芽し、休眠覚醒が起こっていることがわかります。

5. 植え替え株の経過確認

越冬に成功した健康な株の場合、枯れたかと思っていた節の芽から、緑色の新芽が飛び出してきて、伸び出し始めます。同時に、茶色く見えていた主幹が膨らみ始めてハリを増し、いきいきした緑色を帯びるようになります。枯れたような見た目でも、幹が壊死していなければ、芯では生きている可能性が高いですので、諦めずに経過観察をしてみてください。

主幹のカットバックから約2週間後の様子。各節から出芽しており、状態は良好であることがわかります。このくらいになるとすでに活着しており、肥培管理が可能です。(後ろの丸い葉は、同じく熱帯性シンニンギアのS.グッタータです。)

芽出し成功後の管理

芽出しに成功したら、その後、梅雨の7月初旬をピークに、ものすごい勢いで生育しますので、十分な日光と切れ目のない施肥に注意をして、肥培管理を行いましょう。肥料は、前述の酸性液肥の1,000倍希釈液を週1〜2回程度が目安です。肥料は濃いものを一度にたくさん与えるのではなく、薄めを回数多くこまめに与えるのがポイントです。梅雨明け後の酷暑期の約1か月間は、施肥を中断するか、生育状態によっては、梅雨までの量の半分程度に抑えます。お盆明け頃から、秋の肥培管理として、梅雨までの肥培管理を再開します。大株に育つと、開花も期待できるようになります。

日光は強光線を好むほうですが、徐々に慣らすようにします。5月は直射日光かそれに近いくらいの日差しがある場所が適していますが、酷暑期に光線が強すぎて葉焼けを起こしそうになった場合には、葉焼けを起こさない程度の軽い遮光(20〜50%程度)をしてください。

繁殖

挿し木で容易に繁殖できます。前述のカットバック枝挿しのほかにも、5月から9月頃までの間の成長期挿しもできます。プロ培養土に一節が埋まるように挿すだけで発根・活着することが期待されます。活着後は、成長期の間、酸性液肥のみの追肥で勢いよく育ちます。

病虫害

能勢・ぎんぶなのうえんのプロ培養土で植え付け、酸性液肥のみの追肥を行っている場合、病虫害の発生の心配はほとんどありませんが、肥料過多、とくに窒素過多になったり、通気が悪い環境では、ハダニやコナカイガラムシ、アブラムシ、バッタなどの害虫や、うどんこ病などの病害が発生することがあります。このような場合には、栽培環境を改善して原因を除去したうえで、脂肪酸グリセリド剤(アーリーセーフ、ロハピなど)やソルビタン脂肪酸エステル剤(カダンセーフ)を散布して防除してください。害虫がバッタの場合、農薬での防除はできませんので、防虫ネットや不織布などを活用し、物理的な対策を行ってください。

シンニンギア・ゲスネリフォリアはパルダリウム環境のような多湿環境を必要とせず、風通しの良い環境を好みますので、一般的な低地性の山野草のコレクションのひとつとして栽培管理をしたほうがうまくいきます。日本の梅雨や夏には適応力がありますが、過度の高温多湿にはご注意ください。

冬に向けての心構え

シンニンギアは完全な夏型の生育型で、4月から10月までの約半年間の管理が栽培の成否を決定づけます。塊茎性のシンニンギアの場合は、塊茎という、頼もしいエネルギー貯留器官が発達していますが、木立性のゲスネリフォリアの場合は、主幹しか拠り所がありません。他の熱帯性植物よりは冬越しをしやすいとはいえ、シンニンギアとしては、最も不利な構造をしていますので、これから夏に向けて、いかにして肥培管理を行うかが非常に重要になります。生育がよければ、適宜カットバックを行い、分枝を促すのもよいかもしれません。(カットバック枝は、挿し木ができます。)他種のシンニンギアでもいえることですが、とくに、この5月から梅雨明けまでの時期は、肥培管理で最も重要な時期になりますので、とくに注意深く管理を行ってください。もし、生育旺盛で成長期に根が詰まってしまった場合には、ためらわずに鉢緩めをして、さらなる成長を促してください。

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