注意!「種の大きさと発芽日数との関係」には根拠なし!
3日午前8時30分から放送の趣味の園芸「タネから育てる草花」で、種子の大きさと発芽日数との関係について説明していましたが、これには全く根拠がないことを、能勢・ぎんぶなのうえんでグロワー・ガーデナーを務める記者が突き止めました。番組の中で、「大きい種子は2〜3日、中くらいの種子は1週間程度、細かい種子は2〜3週間で発芽する」との説明がありましたが、そのような事実はありません。実際に、ブロワリア・アメリカーナ(ジャマイカ勿忘草;ナス科)は細かい種子ですが、1週間から10日程度で発芽しますし、バレリアンやオミナエシは中くらいの大きさの種子ですが、発芽には、3週間以上を要するうえ、春化処理を行わないと、発芽は不確実です。2〜3日で発芽するような種子は、植物全体でみればむしろ特殊なほうで、大根やフェヌグリーク、ヒマワリなどに限られます。
これを知らなければ園芸は上達しない!趣味の園芸が伝えなかった発芽日数延長の要因とは?
なぜ発芽日数が長くかかる植物があるのでしょうか。それには、ある農芸化学的なメカニズムが関係しているのです。
これはとくに、明確な四季がある温帯や亜寒帯を原産地とする植物に多いのですが、化学的休眠が深いために、長い発芽日数を要する植物があります。前に挙げたバレリアンやオミナエシはその代表的な例です。このような植物の種子は、休眠に関係するアブシジン酸の作用が優占することで、深い休眠状態となり、容易に発芽することなく、仮死状態で冬を越すのです。そして、春が到来し、地温が上昇してくると、種子内では、休眠覚醒・生長に関係するジベレリンの生成が誘導され、その作用が優占するようになると、休眠覚醒が起こり、発芽するのです。ジベレリンの作用がアブシジン酸の作用に優占し、休眠覚醒が起こるためにはかなりの時間を要します。そのために、休眠がない種子と比べて2週間程度かそれ以上の期間だけ余分に発芽日数を必要とするというわけです。また、休眠が深い種子は、発芽率が低くなる場合や、発芽が揃わない場合が多いですが、人工的に春化処理(湿潤冷蔵処理)やジベレリン浸漬処理を行うと、発芽率が改善したり、発芽が揃いやすくなることがあります。
また、新鮮な種子だと休眠がほぼなくても、長期保存をすると、休眠を示すと思われる現象が現れる場合もあります。例えば、シンニンギア・インスラリスの種子は、採り蒔きをするとわずか1週間程度で発芽し、発芽が揃いやすいですが、1年程度保存した種子を播種した場合には、発芽に3週間程度を要するうえ、発芽は揃いにくくなり、発芽率も低下することを確認しています。シンニンギア・インスラリスはブラジル南東部原産で、かろうじて温帯性といえるくらいの、熱帯との境界域の温帯が産地となるため、新鮮な種子の場合は休眠は示さないものの、長期保管をすると、悪条件でも子孫を残そうとすべく、深い休眠モードに入るように遺伝子レベルでプログラムされているのではないかと考えられます。
さらに実際には、休眠(仮死状態への移行)のトリガとなる自然現象としては、前に挙げた低温以外にも、旱魃などが考えられます。成株が発達した貯水機構を備える多肉植物で発芽日数を要する場合は、そのことがあるのかもしれません。その逆で、森林火災による熱ショックや土壌化学組成の変化が休眠覚醒のトリガとなるような特殊な生態を持つヤマモガシ科の植物の存在も知られています。そのような植物を発芽させるには、燻煙処理のような特殊な処理が必要とされており、ここまでくると、プロでも発芽が困難といえるでしょう。
とくに園芸初心者は、種子の発芽日数は3週間が限界と決めつけてしまい、発芽するはずの種子も発芽させられず諦めてしまうこともあるでしょう。しかし実際には、発芽に3週間以上を要する種子もザラにあります。植物の原産地と種子休眠との関係を理解し、多様性を受けとめたうえで、計画的に播種をすることが、播種から始める真の園芸技術の向上には欠かせません。
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