リンに目を向けると、世の中の矛盾がみえてくる

気まぐれな諸刃の剣、それでも生命には欠かせない元素「リン」

生体内でのエネルギー蓄積や遺伝情報、細胞膜の構成成分など、生命にはなくてはならない一面を持ちつつ、同素体の黄リン(P4)やある種のリン化合物が猛毒であるという特性をもつリンは、まさに、諸刃の剣といえる元素です。そのため、リンやその化合物を正しく扱うには、化学力は必須であり、化学力がない人が安易に手を出せば、経済的損失ならまだよいとしても、健康問題や火災などの事故を引き起こすか、重大な環境汚染につながることにもなります。

その溶け方に難癖あり!無機リン酸化合物

無機リン酸化合物の水溶解性は読み難い、リンが気まぐれな元素といわれる所以です。例えば、ナトリウム塩やカリウム塩、アンモニウム塩が非常に水溶解性が高いのは当然としても、カルシウムやマグネシウムの塩の溶解性は一筋縄にはいきません。カルシウムの場合、酸性に傾き、酸性塩(とくに第一塩)を形成すると水溶解性を示しますが、酸性塩ではない第三塩は水にほとんど溶けません。このことは、リン酸カルシウムが主成分である骨が安定で強固な状態を維持できる化学的理由のひとつにもなっています。ほとんどの重金属塩は水に溶けません。言い換えれば、水に溶けやすいリン酸塩は、化学的には稀で奇跡的な存在であるともいえるでしょう。そんな化学の奇跡のひとつともいうべき、水溶性リン酸塩に目を向ければ、世の中の矛盾がおもしろいほどよくわかったりします。

現代社会最大の矛盾のひとつ「リンのジャンクフード循環」

「マクドナルドセットが身体に悪いのはなぜか」、その理由には、飽和脂肪やコレステロール、トランス脂肪酸、得体の知れない合成食品添加物など、いろいろありますが、とくに大きいウエイトを占めているのが、「高リン食」であるということです。

マクドナルドのハンバーグパティの肉そのものも多くのリンを含んでいますが、とくに、フィレオフィッシュなどの魚介系フィリングやソーセージフィリングなどでは、水溶性リン酸塩(Na, K)が結着剤としてふんだんに使われている可能性があります。さらに、マックフライポテトには、変色防止のためのピロリン酸(二リン酸)塩が、マクド標準のドリンクとされるコカ・コーラには、酸味料としてリン酸(16mg/100mL)が添加されています。(このコカ・コーラのリン酸濃度は、原液のリン酸(P2O5として)含量12%の液体肥料を1,000倍に希釈したときの濃度とほぼ同程度です。かなり高濃度であることがわかります。)

マクドナルドのセットを食べると、食品添加物由来の無機リン(リン酸・ピロリン酸・ポリリン酸とそれらの塩類)によって、体内が急激にリン過剰状態となり、骨の再石灰化平衡が崩れて溶出過剰の状態となったり、カルシウムやマグネシウムの排泄を促進させることで、カルシウムやマグネシウム、その他金属元素の欠乏状態となったりします。この状態が続くと、骨密度が低下して骨折しやすくなったり、イライラしやすくなり、社会的問題行動の原因になることもあります。とくに後者については、ポイ捨て(不法投棄)ゴミにマクドナルド由来のものが多いことがよく物語っています。

無機リン酸化合物の原料の多くは、リン鉱石によっています。そのリン鉱石の資源量にも石油などと同様に限界があり、このまま何も手を打たないと、数十年のうちに枯渇するともいわれています。そんな貴重なリン鉱石を使って、マクドの添加物が生産され、目先のことしか考えない低知性者が何も考えずに食べて、彼(女)らの身体の骨やこころの健康を奪い、彼(女)らのおしっこやうんちになって、下水道に流れ、やがて海や湖に出ていきます。最近では、東京都や神戸市など一部の自治体で、下水処理場に流入する人排泄物由来のリンを肥料として回収・再利用する動きも始まってきていますが、この取り組みは、現状では海外からの輸入が多いリン酸肥料資源の国内自給率を高めるのが主な目的となっています。

有リン合成洗剤問題から半世紀、P&Gは今日でもリンの無駄遣いで有名

有リン合成洗剤問題は約半世紀前の問題で、もうすっかり過去の問題だと思ってはいませんか。実は、姿を変えて、合成洗剤のリン問題は今日でも潜んでいたのです。アリエールなどのP&Gジャパンの合成洗剤(ジェルボール型)には、キレート剤として、有機リン化合物のエチドロン酸(HEDP)塩が大量に配合されています。元素としてのリンの重量比では、かつての有リン合成洗剤よりは少ないとみられますが、洗浄力の高い石けんで洗濯をするかぎり、不要なものであり、リンの無駄遣いには変わりありません。

現代農業のトレンドにみる、賢いリンとの付き合い方

能勢・ぎんぶなのうえんでく溶性施肥に重点を置いていることは、FMGの読者であれば、ご承知のとおりですが、実は、く溶性施肥は、SDGsや食料安全保障に資する、現代農業のトレンドでもあるのです。肥料の五大元素(N・P・K・Mg・Ca)のうち、とくにリンは海外からの輸入依存度が高いうえ、最も施肥効率が低くなりがちな元素です。その施肥効率を低下させる、リン酸に特徴的な性質が、土壌中の鉄やアルミニウムと強く結合して、植物が利用できない不溶物を生成するという性質です。さらに、リン酸イオンは陰イオンのため、アンモニウムやカリウム、マグネシウムなどとは異なり、CEC(陽イオン交換能(容量))による吸着保持の対象外であり、流失による損失も大きいものです。

肥料の中でもとくに価格が高いリン酸肥料。そこで、「どうせほとんど無駄になるのなら、はじめから、ゆっくりでも確実に吸収される、施肥効率が高く無駄のないリン酸肥料を」ということで、省リンの観点から注目されているのが、ようりんに代表されるく溶性リン酸肥料です。く溶性リン酸肥料は、植物の根から分泌される有機酸や硫酸塩肥料などの酸性根の作用によってはじめて溶解するため、植物が求めるときに求めるだけ吸収され、不溶物を生成する隙を与えません。

ようりんは、リン酸だけではなく、リン酸の利用効率を高めるマグネシウム(苦土)やカルシウム(石灰)、珪酸、ホウ素・マンガンなどの微量元素までも含まれた、非常に優れたく溶性リン酸肥料であり、一つだけでようりんの施肥に代替できるような、ようりんを超えるく溶性リン酸肥料は存在しないといえるほどです。その一方で、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのパレスチナ侵攻、中国の輸出引き締めの影響で、肥料の海外依存に不安な国際情勢が生じたことや、SDGsへの参画もあり、近年では、副産物燃焼灰や下水道回収リンを利用したく溶性肥料の国内開発も進んでおり、施肥の組み合わせ次第では、ようりん代替技術になる可能性も見えてきつつあります。能勢・ぎんぶなのうえんでは、現状では海外産のようりんを使用していますが、肥料生産者等とも相互協力しながら、徐々にようりん代替施肥に切り替える試験的な取り組みも始めています。リンの有効活用をきわめる能勢・ぎんぶなのうえんの挑戦にご期待ください。

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