ガバナンス買収は経済の「劇薬」

原発事業の大失敗で瀕死の東芝に、ついに、英国のファンドCVCキャピタル・パートナーズから2兆円の買収提案が突きつけられ、日本経済は厳しい決断を迫られている。弱った隙を外国資本が狙い撃ちするハイエナ型買収はこれに限ったことではない。アメリカの旧モンサントもその一つだ。モンサントは他に例がないような全地球規模のデモの標的となったり、多数のラウンドアップ訴訟が起こされるなど、世界で最も嫌われた企業の一つであるが、ドイツのバイエルが「モンサントの悪い印象を払拭する」と宣言して買収し、企業としてのモンサントのブランドは消滅した。しかし、実際は、嫌われたモンサントが消滅したからといって喜べるものではない。モンサントという確かな標的がバイエルに変わっても、買収で事業体がより強固なものとなることで、除草剤や遺伝子組み換え種子のブランドのラウンドアップは存続するどころか、旧モンサント時代よりも力を持つことも考えられ、むしろ、(旧モンサント時代よりも)緊張を強めているとみるべきである。度重なる敗訴で賠償金債務がかさみ、瀕死のモンサントの生命線であるラウンドアップブランドを、資本力に勝るバイエルがホワイトナイトとなって、発展的に救済する狙いもあるとみられ、油断は厳禁である。

では、東芝の英CVCによる買収はどうだろうか。一般的に、外国資本による買収は、日本経済の力が海外勢に奪われることを意味し、決して歓迎されることではない。しかし、一筋縄にはいかない例が東芝である。仮に東芝の原発事業が成功していたとしよう。この場合、日本はどのようになっているだろうか。原発事業の成功に味をしめて、原発推進の動きがより一層エスカレートするだろう。資本主義経済にとって、経済的損失ほど大きな痛手はなく、原発事業の大失敗をしてもなお、原発推進を続ければ、それは、傷口を拡げることになりかねない。この東芝が倒産しかけた原因となった原発事業の大失敗をはじめとして、日立の英国原発事業の撤退など、日本企業による原発輸出は、全世界的な脱原発の世論の逆風を受けて、巨額の経済的損失を生んでいる。今日になってようやく、原発プラント企業も電力企業も再生可能エネルギーに目を向けるようになってきているが、これも、原発事業を失敗に導いた国際的な脱原発・再生可能エネルギー推進世論のおかげであるといえる。そのように考えると、英CVCは東芝からみるとブラックナイトかもしれないが、日本社会全体からみれば、原発プラント企業の過ちにあらためて気づかせたホワイトナイトといえるかもしれない。

ここまで腐りきった日本社会を正常にとりもどすためには、このような激痛を伴う「劇薬」的な存在が必要なのかもしれない。これまで日本社会が気づかなかった何かに気づかせ、尻に火をつける効果は大きい。

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