全国各地で、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスに感染した野鳥の死骸が発見されたとの報告があり、不安を煽るような報道がなされています。ほんとうに野鳥は鳥インフルエンザ感染の最大の脅威なのでしょうか。考えてみましょう。
「正しい認識を」と訴えながら実は重大な誤解を招く農水省の対応
農水省は野鳥や野生動物がウイルスの運び屋になるとして、これらに厳重に注意するよう、まるで野鳥や野生動物が悪者であるかのように扱っています。そして、各県などの地方自治体は、農水省の言うなりのように、全く同様の対応をしています。しかし、そこにウイルスがあるということで必ず感染するというものではないのが、ウイルス感染症というものです。以前にも述べたかと存じますが、ウイルス感染症の予防で最も重要なことは、密にならないこと、そして、免疫力を決して下げないことです。これらは互いに密接に関係しあっており、過度に密になることは、行動の自由度が下がり、そのことがストレスを増大させ、ストレスの増大によって免疫力を低下させるというわけです。その過度に密になる状態こそが、日本の採卵養鶏の94%以上を占めるバタリーケージ養鶏です。実際に、今季の異常な鳥インフルエンザの感染拡大において、最も多く感染事故が起こっているのが、バタリーケージ採卵養鶏場のウインドウレス鶏舎です。
ウインドウレス鶏舎安全神話の完全崩壊
我々にとっては信じがたいことですが、養鶏業界の間では、今季の鳥インフルエンザ感染拡大が起こる前まで、ウインドウレス鶏舎は鳥インフルエンザの心配がなく安全であるという「神話」がまかり通っていました。しかし、今季の史上最悪の鳥インフルエンザウイルスの感染事故の多くは、ウインドウレス鶏舎で起きています。「起きるはずがないのに」です。一体なぜでしょうか。やはりその鍵を握るのも、(鶏の)免疫力なのです。たしかに、単純に考えて、ウインドウレス鶏舎は、野鳥や野生動物によるウイルスの持込の可能性は物理的に最小になっていますので、野鳥や野生動物が最大の脅威であれば、一見すれば、これほど安全な場所はないという説がまかり通っても、おかしくないようにも思えます。しかし、自然というものは、そんなに甘くはないのです。ここで問題にしたいのは、ウイルスが持ち込まれるからといって、必ず感染するのかということです。これまた信じがたいことですが、養鶏業界の間では、ウイルスが入り放題になったり、野鳥や野生動物との濃厚接触の機会も多い平飼いや放し飼いの養鶏こそが危険だという風説も流れているといいます。一見すれば、外界と多くの接点があるため、ウイルスはより多くもたらされるかもしれません。しかし、実際には、飼養密度が数十分の一以下のケージフリー飼養の養鶏場での鳥インフルエンザ感染事例の報告は、バタリーケージ養鶏場と比べて皆無といってよいほど少ないです。飼養密度が低いことは、密から回避し、行動の自由も確保されるため、ストレスが溜まりにくく、免疫力を高く維持し、その場に多くのウイルスがあったとしても、感染を免れることにつながるというわけです。やはり免疫力が重要だということになるわけです。
野鳥の死亡個体が見つかるのは決して珍しいことではない
野鳥もいつかは死にます。ですから、野鳥の死亡個体が見つかること自体は決して恐ろしいことではないことです。よく死亡個体からHPAIウイルスが検出され、騒ぎになることがありますが、前述のとおり、そこにウイルスがあることと感染とは直接は結びつかず、免疫力が感染から防御するうえで非常に重要な意味をもつため、仮にHPAIに感染し死亡した個体が見つかったとしても、それ自体は決して恐れるようなことではないのです。ほんとうに恐るべきことは、人間社会の新型コロナウイルス禍では、やってはいけないことの集大成ともいえるバタリーケージ養鶏を問題視しない姿勢であるといえます。
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