忘れられつつある日本の里山のもう一つの原風景

日本の里山の原風景といえば、どのような風景をイメージするでしょうか。多くの方は、棚田や茅葺きの家のような風景をイメージされると思います。しかし、もう一つ、忘れてはならない原風景があります。それは、流れが緩やかな田んぼの用水路や小川の風景です。桜が咲く少し前くらいの頃から、うきうきして動きが活発になるのは、人間も魚などの水生生物も同じです。そんな水生生物は、里山ののどかな原風景であると同時に、昔から米作りのお供としても親しまれてきた働き者の側面もあることは、意外と知られていません。今日では、ギンブナやドジョウがどのような魚かすら知らない人も多いようです。

農薬に頼らなくても雑草が生えにくくなる「銀鮒農法」

農薬に頼らない稲の農法としては、今日では、合鴨農法が一般的になっています。合鴨が水田の中を動き回ることで、水田の土が捲き上げられ、雑草の活着を妨害するとともに、濁ることによって、雑草の光合成を妨げ、稲の生育が促されることを利用した農法です。しかし、合鴨農法にも問題点があります。合鴨は多くの場合、一シーズンを終えると役目を終え、食肉にされるのです。肉にするのが残酷だからといって、自然に放すわけにもいきません。このように、合鴨農法を行っていると、役目を終えた合鴨をどうするかで悩む農家は多いといいます。

昔は、用水路にいるギンブナやドジョウを、水を引き込む際に同時に水田に引き込んで、合鴨農法の合鴨と同じような役割を担わせる銀鮒農法という農法もあったそうです。ギンブナもドジョウも身体が小さいので、稲を傷める心配もなく、小回りがききます。ギンブナやドジョウにとっても、雑草の芽だけではなく、ミジンコやカブトエビなど、餌も用水路や小川よりも潤沢にあるので、とても幸せなのです。収穫の時期が近づき、水張りの時期が終わると、ギンブナやドジョウは水田での役目を終えますが、もともとはすぐそこの用水路や小川にいた魚のため、当然元の用水路や小川に戻しても、全く問題はありません。今日では、農家ですら、知っている方は非常に少ないですが、持続可能な農業技術のひとつとして、今日でも見直したいものです。

水田の働き者ギンブナ

ドジョウが絶滅危惧種入り、ギンブナも時間の問題か?

クロメダカに続き、ドジョウも環境省のレッドデータブックに載るようになったことは衝撃ですが、ギンブナも今日では、能勢のような里山の用水路でみかけることも少なくなっています。ギンブナは環境適応力も繁殖力もあるため、現在のところは絶滅危惧種ではありませんが、クロメダカも、有害化学物質に対する感受性は高いものの、繁殖しやすい種ですから、今のままでは、ギンブナが絶滅危惧種に指定されるのも近いのかもしれません。ギンブナやドジョウのような水生生物が激減し、忘れられた原因としては、人工護岸の増加や暗渠化、農薬や合成洗剤などといった有害化学物質の使用・排出量の増加、こどものあそびの自然離れ・バーチャル化など、複数の要因が重なり合っています。とくに、有害化学物質は、生分解されずに残ると水底に溜まるため、底生の水生生物はとくに深刻なダメージを受けることになりますが、残念なことに、ギンブナもドジョウも底生の傾向が強い魚なのです。まさか、と思うことが次々と現実になっている今日ですから、ギンブナの保全は予断を許さない状況なのです。

銀鮒の里学校の校名には、昭和の頃かそれ以前の頃には親しまれてきたものの、今日では忘れられようとしている心の風景や伝統文化を発展的に守っていきたいという想いも込められているのです。

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