1月1日に発災した能登半島地震の被災地での一部の炊き出しボランティアが、「植物性ミネラル」と称するサプリメントとみられるものを提供用料理に添加している問題がアベマで報じられ、大きな波紋を呼んでいます。当然のことですが、当FMGを含めた化学の識者陣は、「エセ科学の押しつけは、公益に反する『ありがた迷惑』行為であり、絶対に許されてはならない」と警告を発しています。
無機物のミネラルに「植物性」もへったくりもない!
「『植物性ミネラル』を自信満々に勧める人って、『自身が化学音痴の眉唾伝道師ですよ!』と言っているようなものですよ。」科学リテラシーに欠如した人ほど「植物性ミネラル」で知ったかぶりをする、そういった化学音痴が想像以上に多くいるという低俗な社会病理に、識者はみな呆れ果て、対応に苦慮しています。FMGの記者である私も、ある人から「『天然ミネラル』は凄いよ!」といつも言っているような人と幾度となく話をしたことがありますから、このエセ科学問題の根深さは、現場レベルでよく知っています。例えば、ある「天然ミネラル」信奉者は、自身が管理する畑に、何十種類もの天然ミネラルが含まれているという、得体の知れない資材をただ「よいから」という思い込みにまかせて大量投入していました。そのためでしょうか、その畑は、作物の生育が逆に悪くなるくらいの、慢性的な肥料過多状態となっていました。その得体の知れないミネラル資材について、その信奉者に根掘り葉掘り質問をしてみると、その数十種類の「よい」ミネラルの中には、カドミウムなど、含まれていると有害でしかないことが化学的にわかっている元素まで含まれていたのでした。それはもう、苦笑いをするしかありません。
そもそも、ミネラル(mineral)とは、「鉱物質の」という原義から派生して、(おもにイオン性の固体)無機物を意味しています。(非水溶性で物理的にも化学的にも安定な、材料工業上有用な無機化合物固体は「セラミック」と区別することが多いです。)無機物とは、現代の化学上の定義では、黒鉛やダイヤモンド、炭化ケイ素や炭酸塩などの一部の例外を除き、構成元素として炭素を含まない化学物質の総称であり、生物界では、代謝や生分解での終末産物という位置付けがあります。有機物の燃焼で最終的に生成するもの(灰)も無機物です。無機物は一度自然に還ると、他の由来のものと区別がつかなくなりますので、そもそも、そのミネラルが植物由来かどうかを区別することは、化学的には全く意味がないことです。もちろん、化学的に同一の物質であるかぎり、合成であろうと、天然であろうと、由来を問わず性質は全く同じです。
エセ科学の押しつけで健康被害の懸念も
アベマでは、得体の知れない「植物性ミネラル」サプリメントの添加によって、特定の元素が過剰になり、体質や健康状態によっては、重篤な健康被害も懸念されるとの指摘もなされていました。FMGは、これに関しても全く同意です。実際の内容はともかくとして、そもそも、化学的素性のわからないものを、被災地での炊き出しボランティアで添加するという行為は、公益道徳上、重大な問題行為であるというべきです。炊き出しでは、個々人の体質や健康状態を問わず、誰でも安心して食べられるユニバーサルデザイン(UD)性が最重要視されなければなりません。この点では、有害性が疑われる食品添加物が使用されているパンなどの食品を救援物資で配布する行為も同様に問題といえますが、エセ科学を押し付けるという悪質性では、今回取り上げた「サプ添」のほうが恣意的であり、より悪質性が高いといえます。
ただ「食べ物を提供するからよい」のではありません。戸惑うような炊き出しをすることは、無用な混乱を招き、かえって迷惑な行為です。善意の仮面を被ったエセ科学の押し付けは絶対にやめてください。FMGからも警告します。
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