縦割り行政の弊害、厚生労働省の関連政策を把握していない怠慢鮮明に
事の発端は17日の神戸新聞NEXTの記事でのことだった。下記のリンクの記事に注目してほしい。
記事本文には、「県の担当者は『人に感染する心配はまずない』」「県畜産課は『食べても感染する心配はない。感染した鳥と濃厚接触したとしても、人に感染する恐れは極めて低い』とする。」とある。このことをしっかりと頭に焼き付けておいてほしい。
では次に、下のリンクを確認してほしい。厚生労働省健康局結核感染症課発信の、国の保健衛生政策としての「鳥インフルエンザと新型インフルエンザ」対策についてのページである。とくに、ページ中心にある「鳥インフルエンザと新型インフルエンザの関係」というイラスト解説に注目してほしい。
豚が鳥インフルエンザウイルス(AI)と人病原性インフルエンンザウイルスの両方に感染し、宿主の豚の体内で両者が合体するように変異して、人に対して強い病原性を示す新型インフルエンザウイルスが現れる可能性があり、人がそれに感染することで、新型インフルエンザの感染が(人で)拡大していく可能性があることを示している。さらに、AIそのものが直接人に感染する可能性は低いといわれているが、厚生労働省では、人がAIに直接感染したり、人が人のインフルエンザとAIの両方に感染したりしていると、宿主の人の体内で、人が感染しやすいように変異し、人に対して強い感染力と強い病原性を示す新型インフルエンザウイルスの発生の可能性があることを示唆している。実際に中国では、人のAIへの直接感染事例が報告されている。兵庫県には、養豚場もあり、過密飼育で免疫力が低下し、感染しやすい状態になっており、豚を介しての新型インフルエンザウイルスの出現の可能性も大いに問題となる。このことからも、兵庫県が口走った「人への感染の心配はまずない」というのは、厚生労働省のリスクコミュニケーション情報や中国での現実をガン無視した「官製デマ」の疑いがあるということになる。
果たして、神戸新聞NEXTの兵庫県のコメントはほんとうに官製デマなのか。神戸新聞NEXTの記者の認識不足による表現の誤りの可能性もないこともないので、県の真意を確認すべく、農政環境部農林水産局畜産課に直接独自取材(ヒアリング)を試みた。
新型コロナウイルス感染拡大防止で、「密を避ける」「ソーシャル・ディスタンス」の重要性が声高に叫ばれてきたことは、誰しも知るところだが、これは、人の新型コロナウイルスに限ったことではなく、すべてのウイルス感染症の感染拡大防止策にいえることだ。そこで、ふなあん市民運動メディアは、兵庫県農政環境部農林水産局畜産課(以下、畜産課)に「密が問題だというのは、人の新型コロナ禍で重々承知のはずですから、鶏のAI対策でも、バタリーケージ飼養などの過密飼養の問題に関して、これまでに何か手を打ってきましたか」と質問すると、畜産課はしばらく無言になり、何も答えることはできなかった。さらに、前掲の厚生労働省の情報を知っていたかを問うと、「知らなかった」という回答だった。農林水産関係の部署だということもあるかもしれないが、畜産課の担当者で鳥インフルエンザと人との関係についての正しい認識がなかったというのは、公務員としての自覚に欠き断じて許されない職務怠慢だというべきだ。このような怠慢が、(意識をしてのことなのか、無意識のうちに口走ってしまったことなのかは知らないが、それはどうでもよいことであり、)AIは「人への感染の心配はない」という「官製デマ」を生んだのだといえる。
姫路市HPAI禍は官民による人災
兵庫県の斎藤知事は「AI防疫は初動が大切」だとして、姫路市のHPAI禍の終息に向けて全力を尽くすと意気込んでいたが、これも見え透いた嘘だ。なぜなら、HPAI禍対策の初動というのは、感染が起こるずっと前(昨季の淡路市での感染発生の直後)から、過密飼養の是正を行うなどの根本的な対策を行うことをいうからだ。次の新しい感染(今回の姫路市での事例)が発覚してから動くようでは、初動としては遅すぎるのであり、大失敗だといえる。繰り返すが、ウイルス感染拡大防止に「密を回避」することが重要だということを「知らない」ということは、誰しも経験した新型コロナ禍のことから考えてもあり得ない。そこで、残る可能性は、「鶏は経済的価値が低いものだから、肉や卵を搾取する目的さえ果たすことができれば、密の実態に目をつぶってもお咎めがない」という、人間の傲慢な態度である。誰かの問題発言にあったが、今回の独自取材を通じて、兵庫県にとって、鶏はカネを搾取するための「産む機械」であるという本音を暴くことができた。このような認識が、昨年の淡路市の惨禍を今年、姫路市でより悲惨なかたちで繰り返すという結果をもたらしたのだ。姫路市のHPAI禍は、疑うまでもなく、官民のおごった態度がもたらした人災だ。
兵庫県にも、鹿児島県出水市と同じ内容を政策提言
前に、鹿児島県出水市でのHPAI禍2例発生を受けて、同市に、HPAI防疫(根本的予防)に関する政策提言を行ったことを報告したが、今回、兵庫県畜産課にも同じ提言を行った。兵庫県畜産課は、「意見として承ります」とそっけない回答をするだけだったが、今回の姫路市のほかにも、赤穂市には約180万羽規模の国内最大級の巨大バタリーケージ養鶏場(備考:昨年、岡山県美作市で約64万羽のHPAI感染事故を起こした企業の養鶏場)があるなど、巨大なバタリーケージ養鶏場(メガロポートリー)が至るところにあり、AIウイルスが何らかのきっかけで少し入るだけで、免疫力が極限まで低下したケージの鶏はすぐさま感染して最凶の「感染爆弾」と化すおそれがあるだけに、バタリーケージ養鶏そのものを条例で禁止することを前提としたうえでの最大限の警戒が必要だ。このことに関しても厳重警告し、懸念の意を強く表明したことはいうまでもない。
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