【サステナビリティ後進国ニッポン】イノベーションを妨げる「慈善洗浄」を考える

東芝、日本軽金属、小林化工、DHC、そして三菱電機…、相次ぐ不祥事はなぜ起きるのでしょうか。

その根底には、現代日本特有の組織内のなれ合い体質があります。

「良いことをしているから許される」その考え方がなれ合い体質を生む

「あの人(組織)は〇〇といった良いことをしているから、大目に見てやれ」

あなたの身近で心当たりはありませんか。その考えが、不祥事の原因となるなれ合い体質を生む第一歩です。一見して、優しいようにもみえますが、お互いにとって、将来に好ましくない結果をもたらす、非常に残酷な考え方だというのが、持続可能性界隈では、暗黙の常識になっています。

「〇〇をやってしまったら、いくら他に良いことをしていても、すべてチャラ」

一見して残酷なようにも見えますが、持続可能性界隈では、グッド・プラクティス(善良慣行)の基本となる考え方です。

例えば、食品業界では、食中毒事故を起こすと、たとえ原因を除去し、改善策を講じたとしても、「あの会社は食中毒を起こした会社だからやめておこう」という悪い印象が当面の間払拭されないなど、信用上の重大なダメージを被ることになります。食中毒事故は、明らかに杜撰な管理体制の放置など、悪質な原因で起こることもありますが、ほとんどの場合は、悪意が認められない不慮の事故です。それでも、理由の如何を問わず、食品のように、身体に入るものは、日本人でも殊の外センシティブに映るのかもしれません。このような「一発アウト」という経営上のリスクを未然に回避すべく、食品事業者は、過剰だと思えるくらいの衛生対策を恒常的に行うことで、組織内にガバナンス上の緊張感をもたらします。これは、「一発アウト」のわかりやすい例であるといえます。

事故につながる可能性がある自動車や家電の製造上の欠陥を理由としたリコールのように、製品を通じて直接的な危害を及ぼす可能性がある事案についても、当然のことですが、センシティブに映りやすいものです。

では、このようなケースはどうでしょう。化粧品・健康補助食品大手のDHCは、会長が在日朝鮮人に対するヘイトスピーチを行ったことで波紋を呼びましたが、日本社会の動向に関しての持続可能性界隈の見方は、「なんだ、日本はこんなもんか」といったように、やはり日本社会の稚拙さにあらためて気づかせるものです。大阪の人権団体によるDHCと取引のある企業への意識調査では、キリン堂ホールディングス、コクミン(いずれもドラッグストア)やJR西日本(駅コンビニ)などが積極的な遺憾の意を表したものの、多くの企業は「とくにコメントはない」「そのまま取引を継続する」などという消極的なシカト対応でした。自治体では、高知県南国市や熊本県合志市が包括連携協定を解消したことは、相対評価では高評価ですが、絶対評価では当然の対応であるといえるものです。逆に、いくつかの自治体の対応であった「何も手を打たない」ほうが異常なのです。ヘイトスピーチやパワハラ・セクハラといった問題は、直接的には製品の品質には影響を及ぼさないかもしれません。しかしながら、サステナビリティ先進地域の欧州などでは、「企業の行い(という製品そのものに現れにくいこと)も品質の重要な一部」だという価値意識がすでに一般的になっています。「このような不祥事体質を放置していたら、そのうち製品の品質にも現れるはずだ」という意識があるのでしょう。

幼少の頃に聞いた道徳的戒めのある昔話の世界を思い出していただきたいのです。日本にもそのような昔話があるということは、江戸時代かそれ以前くらいの昔の日本にも、ガバナンスの基本となるべき道徳観があったということを意味します。少なくとも昭和後期生まれの世代であれば、日本の昔話は幼少の頃によく聞いたものです。しかし、Y世代やZ世代といわれる平成以降生まれの世代になると、日本の昔話を聞く機会は少ないといいます。日本人が元来大切にしてきた道徳観も忘れられ、そのうえ、SDGsに関する世界共通の最新の価値感覚の定着も、日本は大きく遅れをとっています。日本はこのままで大丈夫なのでしょうか。

慈善洗浄(GP詐欺)の例

それでは、慈善洗浄の話に戻しましょう。慈善洗浄は、CSRウォッシュSDGsウォッシュなどともいわれます。それらはいずれも、慈善を全面に出すことで、企業行動を美化しよう、ないしは、企業行動を実際よりも善く見せようとする行動のことです。きつい言い方をすれば、GP(グッド・プラクティス)詐欺ともいえます。詐欺師も何か善いと感じることを前面に出さないと疑われますので、善いと感じるようなことを装います。しかし実態は問題ばかり。そういう企業行動は、少なくとも道徳上・持続可能性上は実質的に詐欺というべきでしょう。

慈善洗浄は大企業ほど熱心になる傾向があります。もともと善行ばかりだと、慈善洗浄とはいえませんから、何か重大な疚しいことがあり、それを隠したいから、力を入れて慈善家を装うわけです。ここでは、わかりやすい例として、よく問題視されるマクドナルド(ジャンクフード)、日本タバコ産業(JT)、フィリップ・モリス・ジャパン(タバコ)、日本アムウェイ(連鎖販売取引)、P&G(化学品(日用品))、マイクロソフト(ソフトウェア・クラウドサービス)の事例について紹介します。

日本マクドナルド

病児療育施設を標榜する「ドナルド・マクドナルド・ハウス」と食育の取り組みが有名です。ドナルド・マクドナルド・ハウスの運営は、マクドナルドの経営とは独立しているといわれていますが、実際には、マクドナルドの店頭でその活動を紹介し、募金箱を設置したり、売上の一部を同施設に寄付するなど、密接な関わりがあります。食育は、小学校などに向けて、バランスのとれた食生活を促す食育教材「食育の時間+(プラス)」を提供するものです。栄養が偏り、食品添加物がふんだんに使われた不健康な食事で多くのこどもの腸を汚し、病気の原因をつくり、日本の健康的な食文化の破壊をも企てているマクドナルドが病児療育施設やこどもの食育とは、なんとも皮肉なマッチポンプです。最近では、ハッピーセットの玩具で不要になったものを回収し、店内用のトレーにリサイクルする取り組みも部分的に行われていますが、毎日大量の廃棄物を排出している環境に悪い印象を払拭したい狙いがあるとみられています。

日本タバコ産業(JT)

タバコの毒を売りさばく日本最大の死の商人JTは、タバコのブラックな印象をマスクするための、多岐にわたる派手なCSR活動で有名です。「ひろえば街が好きになる運動」は、富士山や海外の山岳清掃活動でも知られるアルピニスト野口健を長年の間イメージキャラクターに起用した街の清掃活動ですが、街中でのポイ捨ての大部分が、吸い殻やタバコのパッケージなど喫煙者によるものであるにもかかわらず、それらを非喫煙者やこどもに拾わせる「責任のなすりつけ」が、禁煙運動家などの多くの批判を呼んでいます。スポーツでは、バレーボールチーム「JTマーヴェラス(女子;本拠地:大阪市)」「JTサンダース(男子;本拠地:広島市)」、ゴルフ日本シリーズJTカップ、JT将棋日本シリーズ(成人プロ棋士)、同 テーブルマークこども大会、文化事業(音楽)のJTアフィニス文化財団、小学校の修学旅行や社会科見学の行き先にもなるという「タバコと塩の博物館」(東京都墨田区)の運営、JT生命誌研究館(大阪府高槻市)の運営などがあります。また、福島県でのロックフェスティバル”RockCorps supported by JT”の開催や、JT米と揶揄されている岩手県陸前高田市のブランド米「たかたのゆめ」の開発など、東日本大震災の震災復興を意識した活動も熱心です。東日本大震災の被災地に、野口健がJT製とみられるタバコを大量に持ち込み、ばらまいたことも、多くの批判を呼びました。NPO向けの助成金制度や返済不要の奨学金制度もあります。タバコという他に類のない百害無益のブラックな商材を売りさばく企業だけに、その罪滅ぼしにいかに力を入れているかがわかります。

※タバコ会社によるCSR(罪滅ぼし)活動は、日本も批准しているWHOタバコ規制枠組み条約(FCTC)に違反しますが、上記からわかるように、違反が無視された状態となっています。

フィリップ・モリス・ジャパン

東日本大震災の復興支援に取り組むNPOなどを支援する取り組みなど、JTとよく似たCSRの取り組みが行われています。「東日本大震災からの復興はタバコ会社のおかげだ」という歪んだ意識を刷り込むべく、現代日本人の心の弱みにつけ込み、タバコへの批判をさせないという周到な意図があるとみられています。

※タバコ会社によるCSR(罪滅ぼし)活動は、日本も批准しているWHOタバコ規制枠組み条約(FCTC)に違反しますが、上記からわかるように、違反が無視された状態となっています。

日本アムウェイ

岩手県陸前高田市の市街地中心部に、東日本大震災復興のシンボルの一つとなる木造のコミュニティスペース「陸前高田アムウェイハウス まちの縁側」を開設した取り組みがよく知られています。有名建築家が設計を手がけたというだけに、設置にマルチ商法のアムウェイが関わったということを知らなければ、誰がみても非の打ち所がないほどの完璧なつくりになっています。アムウェイといえば、マルチ商法の消費者トラブル件数の首位常連となり続けている、言わずとしれた「マルチ商法の王者」的存在であるだけに、市民運動家が厳重警戒している企業のひとつです。震災復興のシンボル建設という、強烈な慈善的インパクトを与え続ける取り組みから、マルチ商法の悪い印象を払拭したい思惑が伺えます。

P&G

P&Gは言わずとしれた世界最悪の水質汚濁企業のひとつです。ABS(LAS)洗剤が関わる水圏生態系の生物多様性の劣化も、強香柔軟剤や芳香消臭剤を原因とする化学物質過敏症問題も、その端緒をつくったのも、問題の悪化をリードしてきたのもP&Gです。それに反するように、P&Gは、自社の凝集剤を使って泥水を飲料水に変え、飲料水の確保が困難な地域を支援しているといいます。また、東日本大震災の避難生活の場で、P&Gの合成洗剤を使った洗濯等の家事サービスを行うという、なんともありがた迷惑なサービスまで展開してきました。P&G日本法人の本社所在地の神戸市では、自社のユダヤ式マーケティング人材教育のノウハウを神戸市職員に提供する人材教育に関する包括連携協定も結んでいます。最近では、海洋プラスチックをマテリアルリサイクルしたプラスチックを包材に使うという、最新の地球環境課題に取り組んでいるというポーズに躍起ですが、それ以前にP&Gは、環境負荷につながる石油(化石資源)の消費においても、容器包装廃棄物の発生においても、世界屈指の規模(量の多さ)を誇っていることも忘れてはならないことです。

マイクロソフト(グローバル)

ビル&メリンダ・ゲイツ財団は会社としてのマイクロソフトとは別組織だといわれていますが、実態は、Windowsとそのソフトウェアの経済的大成功などによるマイクロソフトの莫大な収益(マイクロソフトの事業によって積み上げられた個人資産を含む)の一部を使って、ゲイツ元夫妻が設立した財団であり、ビル・ゲイツのマイクロソフト役員進退とも必ず関係を持つことからもわかるように、マイクロソフトとは切っても切れない関係にあります。会社のマイクロソフトが主体で手がけているCSRもありますが、とくに注目すべきは、やはり関連団体のビル&メリンダ・ゲイツ財団によるものになります。ビル&メリンダ・ゲイツ財団はとくに農業に強い関心をもっており、遺伝子組み換え技術や、化学合成農薬を多用する農業を推進していることで知られています。そのような取り組みは、多国籍アグリビジネス勢力の富の独占を進める一方で、農業者の貧困問題が深刻な地域をさらに苦境に追い込んでいます。定かではありませんが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの新型コロナウイルスワクチンの開発に密接に関与していることや、新型コロナウイルスパンデミックに関して雄弁に語るビル・ゲイツの行動からは、全世界的な新型コロナウイルスパンデミックに関して、何らかの関与をしているのではないかという疑惑も持たれています。

「思いを込めて一所懸命にやらない」姿勢が日本社会のイノベ−ションを止めた真の原因

昭和の頃、日本人は世界有数の真面目な国民だという、国際社会からの客観的評価がありました。ところが、今日では、それは過去の話、世界有数の怠惰な国民だという評価もされるようになっています。例えば家電量販店の売り場では、海外メーカー製の製品が国産品を隅に追いやるほどの存在感を持つようになったり、洗濯機などで見た目重視の基本性能が劣る製品が売り場を占めるなど、その惨状を目の当たりにすることができます。仕事をする側も、その受益者(お客様)の側も、じっくり熟考して、その先の誰かのために、汗水流して動くという働き方や生活様式を忘れているのです。機械などに頼ることしか考えになく、主体的に考え、自身の技術をあてにするということを「非効率で無駄なことだ」と決めつけること、その一つひとつの積み重ねが、日本社会をイノベーションから遠ざけ、発展途上国への堕落の道筋をつくっているのです。

じっくり熟考して、その先の誰かのために、汗水流して動くという働き方や生活様式、それは、本質的な気付きへの道筋を拓き、昭和の頃の日本の劇的な成長をもたらしてきました。そのことを、SDGs時代の今、見直すときが来ているのではないでしょうか。

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