牛由来鳥インフルエンザウイルスの非常に強い哺乳動物感染力と毒性を確認、米国でのヒト感染事例、東京大学の研究機関

東京大学国際高等研究所 新世代感染症センターの河岡義裕機構長らの研究グループ(以下、研究グループ)は29日、米国の乳牛農場で3月、結膜炎を発症した同農場従事者から分離した牛由来高病原性鳥インフルエンザウイルスの哺乳動物に対する病原性(毒性)と感染伝播性に関する研究結果を、東京大学医科学研究所のプレスリリースとして発表しました。この研究結果は、日本時間の同日、英国の科学雑誌Natureのオンライン版に公開されたということです。

2024年3月、米国の乳牛農場の従事者が結膜炎を発症し、この従事者から、牛由来とみられる高病原性鳥インフルエンザウイルスが検出されました。研究クループは、この感染者から分離された牛由来高病原性鳥インフルエンザウイルス(huTX37-H5N1)のヒト培養細胞における増殖特性、マウスとフェレットに対する病原性、フェレット間での飛沫伝播性、既存の抗ウイルス薬への感受性について調べました。

huTX37-H5N1のヒト培養細胞(肺胞上皮細胞、角膜上皮細胞)における増殖特性としては、肺胞上皮細胞では、ヒトの体温に相当する温度(37℃)だけではなく、低めの温度条件(33℃)においても、高いウイルス力価が確認され、33℃培養条件下のウイルス力価は、同時に比較検討を行った2種の鳥インフルエンザウイルス(別種の牛由来高病原性鳥インフルエンザウイルス、別種のヒト由来ヒト高病原性鳥インフルエンザウイルス)のそれよりも高かったということです。ヒト体温(37℃)の培養条件では、いずれのウイルスでも、肺胞上皮細胞における高いウイルス力価が確認されたということです。

とくに、マウスに対するhuTX37-H5N1の病原性はきわめて強く、他の2種の鳥インフルエンザウイルスと比べても、より強いものであることが示されました。研究グループは、最大で100万倍(106)までの範囲の感染価で経鼻的に感染させる試験を行いましたが、その病原性の強さは、最も感染ウイルス量が少ない1(100)感染価でも、50%のマウスを死に至らしめる(MLD50)のに十分なほどの強さだということです。さらに、感染後わずか3日で、マウスの全身の臓器でウイルスの増殖が確認されたということです。

フェレットに、106感染価のhuTX37-H5N1に経鼻的に感染させるフェレット病原性試験では、感染したすべてのフェレットが5日以内で死亡し、マウスの場合と同様に、全身の臓器でのウイルス増殖が確認されたということです。いずれも実験動物モデルではあるものの、牛などの哺乳動物からヒトに感染した鳥インフルエンザウイルスが、哺乳動物に対する非常に強い病原性を示す可能性が示唆されました。マウスとフェレットという、動物種を超えて高い病原性を示したことからも、同じ哺乳類にあたるヒトに対しても高い病原性を示す可能性も高いと考えられ、先手の防疫策を講じておくことの重要性を示す結果ともいえます。

フェレットの飛沫伝播試験では、6ペアのフェレットを、各々のペアが互いに身体接触しないようにケージで隔離して飼育し、ペアの一方にhuTX37-H5N1に感染させ、未感染の一方に、感染個体のくしゃみを介して飛沫感染させる実験を行いました。その結果、6ペア中1ないしは2ペアの確率で、未感染個体への飛沫感染が起こり、感染群の全個体は感染後4日以内で死亡し、さらに、飛沫感染した全個体も死亡するということです。同様の条件で、以前に確認された他種の牛由来高病原性鳥インフルエンザウイルスの飛沫感染効率は低いことがすでにわかっていることからも、哺乳動物を介した感染の過程で、飛沫感染の効率までもが高くなる可能性が示されたことになります。

抗ウイルス薬に対する感受性試験では、抗インフルエンザ薬として実用されうるノイラミニダーゼ(NA)阻害薬のオセルタミビル(タミフル)とザナミビル(リレンザ)、ポリメラーゼ阻害薬のファビピラビル(アビガン)とバロキサビル(ゾフルーザ)に対する感受性について、NA阻害薬感受性が低下するように変異したものを含む2種の牛H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスを用いた検討がなされました。その結果、NA阻害薬を投与した感染マウスはすべて死亡した一方で、ポリメラーゼ阻害薬を投与した感染マウスは、過半数が生存したということです。このことから、高病原性鳥インフルエンザに対する治療薬としては、(初代型の)NA阻害薬は無効であり、ポリメラーゼ阻害薬が有効である可能性が示唆されました。

以上の研究報告は、高病原性鳥インフルエンザウイルスは、哺乳動物への感染を繰り返していくうちに、増殖特性も病原性も飛沫伝播性(感染力)も高くなるように変異を遂げていく可能性を示唆する科学的証拠(エビデンス)を世に示すものであると考えられます。とくに、実際の養鶏場(とくに、飼養密度が極端に高いバタリーケージ採卵養鶏場)の環境では、免疫力が極度に低下した鶏間での感染伝播リスクが高いうえに、周囲を徘徊するカラスなどの野鳥やハエ類などの昆虫により、伝播の柔軟性が多次元的に高められ、ネズミなどの哺乳動物の侵入の可能性も指摘されていることから、実在する施設としては最もヒトへの感染拡大リスクが高くなるおそれがある、「鳥インフルエンザウイルスの急速増殖・拡散施設」であると考えられます。養鶏の過剰需要の問題そのものに真剣に向き合い、一人ひとりが鶏卵や鶏肉などの家禽由来食品の摂取を減らすことを全社会的視点で考えるべきときであるといえます。日本国内での鳥インフルエンザは、今季ですでに家禽飼養場で3例の発生事例があります。今まさに、待ったなしの状況です。

東京大学医科学研究所のプレスリリース
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00303.html

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