10月31日、島根県大田市の大規模バタリーケージ採卵養鶏場で高病原性鳥インフルエンザが発生しました。島根県発表の資料によりますと、この養鶏場は、国道9号線の一般道と山陰自動車道連絡の高規格道路に囲まれた海岸至近にある、大田市で最大の養鶏場とみられます。この養鶏場では、バタリーケージで30万羽以上の採卵鶏と約8万羽の育成鶏(推定合計で約40万羽)を、それぞれ別々の鶏舎で飼育しており、高病原性鳥インフルエンザの感染が実際に確認されたのは、育成鶏(約8万羽)の鶏舎とみられます。10月31日午前9時10分から殺処分を開始し、1日午前8時の時点で、育成鶏舎の鶏の全数(82,357羽)の殺処分を完了したということです。しかし、家畜伝染病予防法の規定により、飼養者を同じくする家禽飼養場の家禽の全数を殺処分するのが通例となっていることから、殺処分数は約40万羽に上るとみられます。殺処分数が20万羽を超える大規模となるため、島根県は、自衛隊に災害派遣を要請しているということです。
島根県地方では、2日には、台風21号から変化する温帯低気圧の影響による大雨が予想されていることから、1日20時の時点では、防疫作業の完了が、当初の予定よりも1日程度遅れる見通しが、島根県の公開文書によって発表されていましたが、その発表文書は、21時現在でリンクが切られ、参照不能となっていることをFMGでは確認しています。
「行政からのお願いだから鵜呑み」はダメ!コピペ対応のような官製フェイク啓発に注意を
「我が国の現状において、鶏卵、鶏肉を食べることにより、鳥インフルエンザがヒトに感染する可能性はありません。」
これは、島根県が発表した文書の「県民の皆様へのお願い」に記載されている文言です。賢明な読者でしたらすでにご察しの通り、この文言は、現時点での最新の科学的知見に照らせば、誤った不正確な内容を含んでいると指摘されます。さらに10月29日には、東京大学の研究機関が、鳥インフルエンザウイルスが牛などの哺乳動物への感染を経るうちに、病原性も感染力もより強くなる可能性があることを示す科学的事実を立証したことが発表されたばかりです。(10月30日付記事を参照)実は、上記の文言は、食品安全委員会の考えていることを、各地方自治体などが鸚鵡返しのごとく引用しているものにすぎないのです。ざっくりとした言い方にはなりますが、食品安全委員会のいうことは、鵜呑みにすれば、誤解を生じかねず、実際には半信半疑で捉えるのがほぼ正解です。
哺乳動物への感染履歴のない鳥インフルエンザウイルスの鳥からヒトへの感染の可能性は非常に低いことがわかってはいるものの、感染の可能性が全くないわけではありません。(しかしながら、上記のコピペのような常套句からは、「鳥との濃厚接触でも、感染の可能性がまったくない」というような、科学的事実に反する誤解を生じかねません。)実際に、アジア諸国などでは、鳥類と濃厚接触した人の鳥インフルエンザへの感染事例が実際にあり、しかも、感染者は現時点での推定で最大で2人に1人という高い確率で死亡しています。アメリカでは、牛などの哺乳動物の感染履歴を有する鳥インフルエンザウイルスへのヒト感染事例が複数例確認されており、人間社会への感染拡大の可能性がすぐそこまで迫っているとして、米国政府が鳥インフルエンザウイルスワクチンの研究開発を製薬会社に緊急要請するほどの事態となっています。
これらのことを考えても、日本の地方自治体(県など)の対応は、養鶏事業者の保護を言い訳とした、同業界への忖度を優先した、切迫感を著しく欠いた対応というほかない異常な状況といえます。
FMGは、博士号保有者が科学的妥当性を検証しながら執筆する市民メディアです。国や地方自治体がいうことだからといって鵜呑みにするのではなく、自然科学分野の専門家による客観的考察というフィルターを通して執筆した記事を精読のうえで、各主体が丁寧に考える取り組みが、市民運動ではとても大切です。
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