米国で乳牛を介した鳥インフルエンザへのヒト感染のリスク対応が急務となっています。これを受けて米国連邦政府は2日、米国内のmRNAワクチンメーカーのモデルナに対して、H5N1型鳥インフルエンザワクチンの開発の目的で1億7,600万ドル(日本円(¥160/USD)換算で約281億6,000万円)で支援金の給付を行いました。モデルナは、日本国内においても、無償(国費)接種が実施された新型コロナウイルスワクチンの製造・供給元の一社としてよく知られている外資系製薬企業です。
米国内ではすでに鳥から乳牛、乳牛から人への鳥インフルエンザウイルスへの感染事例が複数確認されています。現在のところ、乳牛から鳥インフルエンザに感染した人の死亡例は確認されていないとされていますが。世界保健機関(WHO)によりますと、高病原性のH5N1型鳥インフルエンザウイルスに人が感染した事例は、全世界では現時点で800人以上が報告され、そのうち、460人あまりが死亡したということで、これまでは致死率30%以上と考えられてきた鳥インフルエンザウイルス感染によるヒトの推定致死率は、現時点での報告事例ベースでは優に50%を超え、60%に迫る状況になっています。
哺乳動物を介することでヒトに対する感染力増す可能性、東大チーム
東京大学新世代感染症センター(The UTOPIA Center;機構長:河岡義裕)の研究チーム(以下、東大チーム)は、牛に感染したH5N1型鳥インフルエンザウイルス(Cow-H5N1)が、鳥に感染した同型ウイルスと比べて、ヒトに対する感染力が強くなる可能性があることを確認したと発表しました。このことを示す原著論文は、8日付でNatureに掲載されました。これまで、鶏など鳥類に感染した鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)は、ヒトに対しても感染性はあるものの、ヒト型受容体への結合性が非常に低く、ヒトへの感染はきわめて稀であると考えられてきました。しかし、乳牛などの食品と密接に関係した家畜やネズミ類やイタチ類などの、人居住域に潜伏する可能性が高いとされる身近な哺乳動物が中間宿主として介在することで、ヒトに対する感染リスクが高められることが、今回の東大チームによる研究報告によって、科学的に証明されたことになりました。東大チームは、Cow-H5N1の特性として、マウスやフェレットに対して強い病原性を示すこと、当該ウイルスを含む牛乳を飲んだ母マウスの母乳を飲んだ子マウスに垂直感染が起こること、感染効率は低いものの、フェレット(イタチの仲間)において飛沫感染性があること、さらに、(ヒトへの強い感染力を裏付ける)ヒト型受容体への結合性が認められたとしており、今回の研究報告は、米国をはじめとした全世界で流行しているclade 2.3.4.4bに属するH5N1型鳥インフルエンザウイルスや、将来発生が見込まれる、その派生型のインフルエンザウイルス(新型インフルエンザ)によるパンデミックに対する対策を行う上での重要な情報になるとしています。
●東京大学新世代感染症センター(The UTOPIA Center)によるプレスリリース
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z0406_00001.html
最優先ですべきこと
鳥インフルエンザウイルスに感染した乳牛の牛乳から感染しうることから、まず牛乳を避けるべきだと思うかもしれませんが、それは必ずしも正しいとはいえません。私たちが最優先で取り組むべきことは何か、その最適解を求めるには、まず、現状の日本国内の畜産問題を正しく理解する必要があります。
結論からいいますと、少なくとも日本にいる私たちがまず最初にすべきことは、鳥インフルエンザウイルスを最も効率よく増殖する可能性が指摘される工業的養鶏場などの工業的家禽飼養場を社会的に減らすための取り組みを実践することです。具体的には、鶏卵や鶏肉、うずら卵や鴨肉などといった家禽由来食品を一切食べないPPV(Poultry Prohibited Vegitarian;家禽禁止菜食主義)を実践することです。少なくとも日本国内の現状から考えれば、家禽由来食品を一切食べない取り組みだけでも、鳥インフルエンザウイルスから派生した型の新型インフルエンザによるパンデミックの現実化リスクは大幅に抑えられると考えられます。なぜなら、日本の養鶏、とくに採卵養鶏では、現在でも90%以上がバタリーケージを使用した工業的養鶏であり、肉用鶏の飼養でも大部分の養鶏場で、合成抗菌剤や殺原虫剤の使用が欠かせなくなるような超過密飼養が行われている実態があるからです。さらに、このような工業的養鶏場には、ハエやゴキブリなどの衛生害虫に加えて、衛生害獣としてのネズミ類の出入りも頻繁にあるとされており、しばしば衛生上のリスクとして指摘されることがあるほどです。動物分類学上は、ネズミ類もヒトと同じ哺乳類に該当し、牛からマウス、牛からフェレットといった異種哺乳動物間の感染を通じて、強い感染力を発揮しうること、さらに、フェレット間での飛沫感染も確認され、ヒト間でのパンデミックの可能性もあることが、今回の東大チームによる研究で示唆されたことを考慮すると、家禽由来食品を消費し続ける現状が放置され、前掲のような具体的な取り組みが十分に行われなかった場合、次のようなパンデミック・シナリオが考えられます。
- 高病原性鳥インフルエンザウイルスを保持したカラスなどの野鳥が工業的養鶏場を徘徊
- 工業的養鶏場に、カラス(の糞、羽など)に由来する高病原性鳥インフルエンザ付着物が持ち込まれる
- 工業的養鶏で免疫力が極限まで低下した採卵鶏が高病原性鳥インフルエンザに日和見感染、さらに、同じ状況にある採卵鶏にも急速に感染拡大し、鳥インフルエンザウイルスが、感染鶏の体内で急速に増殖される
- さらに、工業的養鶏場に侵入・徘徊するネズミ類などの小型哺乳動物が感染鶏の糞(排泄物)や分泌物に濃厚接触したりすることを繰り返すうちに、高病原性鳥インフルエンザに感染したネズミが発生、さらに、ハエやゴキブリといった行動性の大きい昆虫が関わることで、当該ウイルスの拡散効率を増す
- 高病原性鳥インフルエンザウイルスを保持したネズミ等の小型哺乳動物は、行動範囲内にある牛舎などの家畜畜舎にも出入りし、ネズミの糞などを通じて、牛などに鳥インフルエンザウイルスに効率的に感染させる(さらに、工業的養鶏場に生息していたことのあるハエやゴキブリなどの昆虫もウイルスの運び屋として関与か?)
- 養鶏場の周辺に人の民家がある場合は、それら民家にも高病原性鳥インフルエンザを保持したネズミやイタチなどの小型哺乳動物が侵入する可能性もあり、それらの糞(乾燥物)やくしゃみなどによってウイルスを含む粒子や飛沫がヒト居住域にももたらされる
- ヒト居住域に侵入した小型哺乳動物によって、もとは工業的養鶏場で大量増殖された鳥インフルエンザウイルスにヒトが感染させられ、やがて、ヒトーヒト間での感染も起こり、従来のインフルエンザと判断されて、対応が遅れることも
- 高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した人のうち、2人に1人の割合で死亡※する
最近では、とくに郊外型の住宅地に近接したところにも工業的養鶏場がある場合も多く、そのような場合には、とくに注意が必要になる可能性もあるでしょう。いずれにせよ、経済の基本原理から、需要に応じて生産が行われるわけですから、家禽由来食品の需要そのものを減らすことが最も重要なことです。言い過ぎといわれるかもしれませんが、2人に1人が死亡する※という死の感染症で苦しみながら死ぬということを何としてもか回避したいというのであれば、鶏肉や鶏卵を食べることくらいは我慢しましょう。代わりになる食べ物はいくらでもありますから。
※ WHO報告事例数ベースでの推定値
【注意】
この記事は、家禽由来食品の禁止を強制するものではありません。また、本記事は社会リスク論的な考察アウトプットを示すものであり、家禽由来食品の摂取によって、直ちに疾病等がもたらされるという意味は一切ありません。食品衛生や栄養学的視点にかぎっていえば、適切な調理が行われるかぎり、家禽由来食品そのものは、その摂食によって直ちに疾病リスクにつながるというものではなく、栄養的価値が認められたものであるといえます。よって、家禽由来食品を実際に摂取するか否かについての最終的な判断は、各主体に委ねるものとしますので、ご理解ください。
記事の解釈や取り扱いでお困りの場合は、自己判断するのではなく、必ずFMG報道局までお問い合わせください。その際は、銀鮒の里アカウントでのログインが必要となりますので、事前のご用意とログイン(必須)をお願いします。
コメント