厚生労働省「マラリアを殺すくらいなので毒性がきわめて強い」は疑問
厚生労働省が「プベルル酸は、マラリアを殺すくらいなので、毒性はきわめて強い」と発表したことを受け、マスコミ各社は、疑うことなく「プベルル酸は猛毒だ」と報道しています。はたして、これは真実でしょうか。結論からいえば、「プベルル酸の毒性は真に強いかもしれないが、それが直ちに猛毒と断言するに足りる科学的根拠には乏しく、現状ではわからない」ということになります。
化学構造論的にいえば、プベルル酸はトロポノイドという、炭素7員環の非ベンゼン芳香族化合物群に属します。7員環ですが。非局在化が可能な環状π電子共役系を構成する電子の数が4π+2となるヒュッケル則を満たすため、芳香族性を示します。その一方で、ハロゲン付加反応やディールス-アルダー反応など、オレフィンや共役ジエン(ポリエン)としての反応性も有することから、ベンゼンのような完全な芳香族性は示さないともいわれています。トロポノイドで最もよく知られている化合物には、ヒバ精油に含まれる抗菌物質のヒノキチオールがあり、歯槽膿漏薬の有効成分としても使用例があります。見方にもよりますが、ある意味では、ヒノキチオールの分子構造は、プベルル酸に似ているともいえます。フェノールとしての強い抗菌性があり、比較的強い刺激性もありますが、口内用の医薬品成分としての使用事例があることからもわかるように、毒性は強いとはいえません。
一方で、猛毒として知られているトロポノイドもあります。コルチカム(イヌサフラン)に含まれるコルヒチンです。植物の染色体数を倍数化する、植物育種上有益な性質が知られていますが、コルチカムの誤食を原因とする化学性食中毒の原因物質としても頻出する物質としても知られています。コルヒチンは、窒素を含むアルカロイドにも属していますが、アルカロイドは、特定の疎水性構造と窒素(コルヒチンの場合はアセトアミド窒素)との組み合わせで、特有の急性毒性を示すものも多く知られており、コルヒチンの毒性の強さは、トロポン構造(トロポノイド)によるではなく、アルカロイド特有の構造に起因するものと考えられています。
プベルル酸の毒性のキーとなるような分子構造としては、トロポン(トロポロン)構造くらいしか考えられず、トロポン構造を除くと、カルボキシル基とフェノール性水酸基だけになってしまいます。これらも、生死にかかわるほどの強い毒性に関係しうる構造とはいい難いため、プベルル酸が猛毒であるというのには、化学構造論的考察に基づけば疑問があるというわけです。
小林製薬がプベルル酸以外のコンタミ被疑物質の開示を頑なに拒む理由
小林製薬で製造された問題の紅麹原料には、プベルル酸以外にも、いくつかのコンタミ被疑物質があるといわれています。記者会見で最初にプベルル酸というキー物質が出てくるのに、約2時間半もの時間がかかったことからも察するように、小林製薬は、コンタミ被疑物質が世に知れ渡ることを極端に嫌っていることがわかります。なぜ小林製薬は渋々プベルル酸を出したかといえば、それは、小林製薬も化学業界である以上は、真の「黒幕」はプベルル酸ではなく、他の何らかの猛毒物質であることを悟っているからであり、プベルル酸は実際のコンタミ被疑物質の中では、毒性が最も低いと考えられ、その割には、素人目には「歪のある7員環で酸素も多い奇妙な構造」で非常に怪しげに映るからです。つまり、真の「黒幕」は、プベルル酸以外の、まだ小林製薬内部でしか知り得ない、クロマトグラフで未知のピークにあたる何らかの物質ではないかということになります。腎臓に及ぼす化学物質の毒性に関しては、いまだにわからないことが多いことも否めませんが、プベルル酸に、数か月程度継続摂取するだけで、急激な体調不良に襲われるほどの強い毒性があるかといえば、そうとも考えにくいわけです。原因の特定には、まずはすべてのコンタミ物質について洗い出し、それらの分子構造を特定することが欠かせません。小林製薬の情報隠蔽を許さない、より強い知的圧力がいま、求められています。
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