【独自化学論説】小林製薬紅麹腎疾患問題、小林製薬怠慢論が急浮上、「未知物質が疑わしいならあの『最後の手段』も」とFMG提言

リスクコミュニケーション

小林製薬製の紅麹サプリメントの継続摂取が原因とみられる腎疾患発症の健康被害問題に関して、新たに継続摂取者1人の死亡被疑事例が報告され、死亡被疑事例は2人となりました。同製品の継続摂取者の入院者は本記事配信時点で100人を超え、106人に上っているということです。

マスコミ各社での報道では、小林製薬の怠慢を疑う報道が急速に増え、「何者かが通常では混入するはずのない『謎の有害物質』を意図的に混入させたのではないか」という事件性を疑う識者の推論まで出ています。小林製薬内部では、少なくともこの問題が世間に知れ渡る約2ヶ月前の1月中旬の時点では、「紅麹コレステヘルプ」などの小林製薬製紅麹サプリメントの継続摂取が原因として疑われる腎疾患の発症事例を把握していたはずだとみられており、このことに関して、武見厚生労働大臣が「小林製薬が原因究明を行っている中にあって、(途中経過であっても、これまでに)行政への情報提供などを行わなかったことは、遺憾だといわざるを得ない」と遺憾の意を表する事態となっています。さらに厚生労働省は26日、小林製薬の本社所在地で食品衛生を監理監督する大阪市に対して、腎疾患の発症原因として疑われる小林製薬製食品の3製品の廃棄命令を通知しています。

未知物質に遭遇したときに実行する、化学「最後の手段」とは

ごく稀ですが、品質管理業務などの化学実務でも、未知物質に遭遇し、日常的に利用するクロマトグラフではどうにもならないことがあります。そのようなとき、化学では、絶対的な解析を実現する最後の手段を使います。その最後の手段とは、NMR(核磁気共鳴)です。CTスキャンやMRIといえば、馴染みがあるのではないかと思いますが、実は、NMRの原理を応用し、映像化して医療利用しているのが、CTスキャンなのです。化学で利用するNMRは、針状のスペクトルデータが出力されますが、そのスペクトルデータを読み解くことで、未知物質の分子構造を絶対的に決定できるのです。なぜクロマトグラフでは歯が立たないかというと、クロマトグラフは、定量対象物質が定まっており、なおかつ、その標準物質が手元にあるような場合に、その特定の物質の定量分析を行ったり、あるいは、すべて既知の物質であることを前提として、それらの既知の物質が、それぞれどのような割合で分布しているのかを調べるときに有益な相対的な分析手段であり、分析の目的が全く異なるからです。

記者も小林製薬の近くに本社がある中堅の某医薬品原料メーカーで分析業務の従事経験がありますが、そのメーカーにも、NMRは完備されていました。ましてや小林製薬は製薬大手ですし、当然、立派な自社の中央研究所もありますから、NMRは使用可能であるはずです。

正直なところ、NMRを使った構造解析業務は非常に面倒です。まず、スペクトル測定対象の十分な量の未知物質を単離精製のうえ、溶媒を完全に除去しなければなりません。少しでも溶媒や不純物が残っていると、とくに1HNMRの場合、溶媒由来や不純物由来のプロトン(炭素と共有結合した水素)のシグナルが妨害し、解析を困難(不能)にするからです。次に、プロトンを全く含まないか、解析にほとんど影響がない程度のプロトンしか持たないNMR専用重水素化溶媒に試料を溶解します。一般的には、重クロロホルム(CDCl3)か重メタノール(CD3OH)が使用されることが多くなっています。その煩雑な前処理を経た試料がNMR分析に供されます。NMRは磁力が非常に強力な超伝導電磁石を使用した装置のため、NMR室では、金属製の装身具や磁気ストライプのあるカード(キャッシュカード、電子錠など)の持ち込みやペースメーカーなどの精密医療機器を埋め込んだ人の入室が禁止されます。(事故や破損のおそれがあるため)1HNMRではC-H結合の環境を、13CNMRでは各炭素原子に関しての環境に関する情報を得ることができます。得られるNMRスペクトルを読み解き、構造決定を行うのも、試料物質の炭素数や分子構造によっては、非常に手間がかかります。今回の問題は、明らかにNMR分析をするべき状況にあるにもかかわらず、小林製薬はこのような面倒な操作を忌避してきたことが、対策が遅れた一因としてあるのではないかと、FMGでは推察しています。医療機関などでも、原因物質が何かがわかることが、治療指針を決定するための前提条件となるため、原因物質の化学的素性が明らかにされないかぎり、手の打ちようがないと、困惑の声が上がっているといいます。

小林製薬に直撃取材を行った結果…

「シトリニン以外の謎の物質とは何かを明らかにするために、これまでに小林製薬はどのような化学的アプローチをしてきたのか。」そのことを確認するため、FMGは小林製薬に電話取材を行いました。

未知物質の絶対的構造決定が必要なときこそ、NMR分析を使うべきときということで、FMGは、小林製薬にNMR分析での検討を行ってきたかについて質問しました。すると、上席への相談で待たされた末に、次のような回答が返ってきました。

「現在、他の試験分析機関にて、調べてもらっています。(NMR分析については、わかりません。)」

これが、自前の中央研究所も擁する製薬大手、小林製薬の回答であるとは、拍子抜けしてしまいました。客観性のある試験結果を得るために、あえて第三者的分析機関に試験分析を委託するということは、よくあることですが、当然、自社の問題である以上、NMR分析による未知物質の構造決定など、自社でも実態解明のための化学的アプローチに可能なかぎり最大限に取り組む努力は、当然のこととして求められます。それが答えられないとは、どういうことでしょうか。この2ヶ月余りの時間、小林製薬はいったい何をしてきたのか、怠慢論がますます強まらざるを得ないような対応でした。学術報告と同様に、未知物質が確認された経緯と、その未知物質のNMR分析、NMRスペクトルデータの帰属(読み解き)結果について、大阪市や厚生労働省に逐次情報提供をすべきであったことは、いうまでもありません。そのような報告が、これまでに一切なかったのではないかということが伺えます。

医療機関や行政、問題が疑われる原料の納入を受けた食品事業者などが適切な対応指針を決定できるようにするため、FMGは、小林製薬に対して、大至急1HNMRおよび13CNMRを駆使した、腎障害の原因として疑われる未知物質の構造解析を行うよう、化学の専門家として提言しました。

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