鳥インフルエンザリスクに関する世間の誤解

熊本県の蒲島郁夫知事は、5日、熊本県内の養鶏場に対し、鳥インフルエンザ防疫のための消毒命令を罰則つきで出しました。これは、鳥インフルエンザ問題の誤解を招きかねない暴挙といえることです。

養鶏場に再び消毒命令 熊本県、鳥インフル国内発生相次ぎ|熊本日日新聞社

この命令の恐ろしいところは、消毒剤の乱用を促すこともさることながら、野鳥や野生動物が鳥インフルエンザ防疫上の最大の脅威だという誤解をひろめ、鳥インフルエンザ等の感染症防疫の本質的理解を妨げかねないというところにあります。

ウイルスの存在=感染ではない

農林水産省もマスメディアも、鳥インフルエンザの最大の脅威は、ウイルスを保持した野鳥や野生動物であるかのように報じ、ウイルスを保持した野鳥が見つかるたびにいちいち騒ぎ立て、恐怖心を煽ったりします。でも、そのようなことは、実際には氷山の一角にすぎないのです。

なかでもとくに多いのは、「死んだ野鳥が発見され、その死体から高病原性鳥インフルエンザが検出された」というものです。たいていの人は、このようなことを聞くと、「野鳥の死体が見つかれば、鳥インフルエンザに感染している可能性が高い」と勝手に不安がったりするものです。よく考えてみてください。カラスの死骸を見かけないということを聞いたことはありませんか。カラスだって、生き物ですから、必ずいつかは死にます。死骸を見かけないというのは、死なないからではなくて、人目につかないところで死んでいるからなのです。同じように、野鳥は鳥インフルエンザ感染以外の死因で相当数が死んでいます。鳥インフルエンザ感染が原因で死んだというのは、死因としてそれが多いからではなく、偶然その死体から高病原性鳥インフルエンザウイルスが見つかっただけなのです。それをあたかも野鳥の最大の死因と錯覚させるような報道をされるがために、そのように思い込んでしまう心理現象にすぎないのです。とくに日本人はそのように勝手に思い込んでしまう傾向が強く、科学的理解を妨げるきらいがあるので、注意が必要です。

また、高病原性の鳥インフルエンザウイルスが発見されたからといって、それが直接感染につながるわけではありません。よく、県や農林水産省で、大学農学部教授などの有識者による委員会が開かれるたびに、野鳥や野生動物のリスクが声高に叫ばれますが、ほんとうにこれが有識者の態度なのか、勘ぐりたくなります。感染症の問題でいつも問題になることですが、最も重要なことは、免疫力であるにもかかわらず、それにはあえて言及せず、野鳥だの小動物だの、他の原因をでっち上げて論点をずらしては、消毒を徹底せよと訴えて終わる茶番劇が繰り返されるのです。消毒薬メーカーの利権を死守したいのでしょうか、それほどまでに免疫力を高められては困るのでしょうか。毎度のことですが、理解に苦しみます。

悪意に満ちた「平飼い・放し飼い危険説」のウソ

よく国や地方自治体が招聘する有識者はこう言います。「(野鳥や野生動物の侵入がない)ウインドウレス鶏舎は防疫上安全だが、平飼いや放し飼いは、(野鳥や野生動物の直撃をうけるので)危険だ」と。ほんとうにそうでしょうか。そのことは、今シーズンの相次ぐ鳥インフルエンザ禍で見事に否定されたのです。というのも、今シーズンの鳥インフルエンザ禍は、従来安全と信じられていたウインドウレス鶏舎で、しかも複数事例起こったのです。史上最悪の感染事故が起こった千葉県いすみ市の養鶏場も、二番目に大きい規模の岡山県美作市の養鶏場もウインドウレス鶏舎だったのです。それでも、有識者(?)は、野鳥や野生動物への注意や消毒の徹底を促すばかりであり、とても科学的な態度であるとはいえません。

きつい言い方をすれば、「平飼い・放し飼い」危険説は悪意のあるデマであるといえます。これは、ケージフリー養鶏の従事者も同意見です。それはどういうことかというと、ご承知のとおり、平飼いや放し飼いは、鶏本来の生態を尊重し、自由に運動をさせることで、ストレスを最小にする飼育方法ですので、ストレスがかかりっぱなしのケージ飼いのように免疫力が下がる飼い方とは対照的に、鶏の免疫力を最大限に高めます。免疫力が高い状態ですと、そこに鳥インフルエンザウイルスがあったとしても、感染するとはかぎらず、というよりも、感染せずにすむ確率が高くなると考えられます。ケージ飼いが当たり前になるあまり、鶏の免疫力の考え方など、頭の隅にもないのでしょうか、そのような考え方をする国や県の担当者はほとんどいないようなのです。私は昨日も農水省の担当者とお話をする機会がありましたが、そのときも、鶏の免疫力を高めるケージフリー飼養の話をすると、意外に聞こえたらしく、これまで気づかなかった斬新な考え方に気づかせてくれたと、感謝されたほどです。

消毒薬の乱用が招く負の循環が感染リスクを高める

意外と知られていないことに、養鶏業における消毒剤乱用の実態があります。質・量の両面でとくに問題が大きいのが、通称「逆性石けん」と呼ばれる陽イオン界面活性剤。界面活性剤の中でもとくに急性毒性が強いのが特徴で、常在菌や皮膚のバリア機能に悪影響を与えたりすることで、病気や感染症にかかりやすい体質にしてしまうおそれがあります。驚いたことに、この陽イオン界面活性剤、鶏の身体に直接かけるような使用も想定されているのです。今後、実態調査の予定ですが、このような乱用の実態があるかもしれません。ひどい場合は、薬殺の際に、陽イオン界面活性剤の静注を行う慣行も、畜産業界にはあるといわれているほどです。

さらにきわめつけは、オルソ剤といわれる薬剤の使用実態。オルソ剤とは、猛毒の有機塩素化合物オルトジクロロベンゼンを主成分とし、農薬としても使用される合成殺菌剤のキノメチオネートと、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩やポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと思われる合成界面活性剤とで構成される、殺虫剤を兼ねた消毒剤です。現在の動物用医薬品の中では、鶏コクシジウムオーシスト(オーシストとは、休眠状態にある、硬い外壁に覆われた原虫の存在形態)の殺滅に有効な唯一の薬剤ともいわれ、ウジの殺虫にも使われるそうです。いずれも、不衛生になりがちなケージ養鶏やブロイラーの超過密飼育ではごく普通に起こる問題らしく、使用している養鶏場も多いようです。ウジの発生原因としては、糞尿だけではなく、回収し忘れてケージ内に放置され腐敗した鶏の死体が原因になることも多いそうです。しかし、飼育密度が小さい平飼いや放し飼いの養鶏では、これら原虫や害虫によるトラブルはまず考えられません。このことも注目すべき点といえます。

Google earthの航空写真で巨大養鶏場の敷地をみると、大量の青いタンクが置かれているのを見かけることがよくあります。これは、陽イオン界面活性剤などの消毒剤(動物用医薬品)の容器と思われます。鳥インフルエンザ防疫の消毒で、車や人に吹き付けられる薬液も、液が透明で低廉な陽イオン界面活性剤であると思われます。これだけ大量に吹き付けるわけですから、当然のことなのかもしれません。

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