多くの課題を残しつつ、16日、北陸新幹線敦賀延伸開業、福井県嶺北地域悲願達成

北陸新幹線の金沢以南、敦賀までの区間が16日朝、延伸開業しました。これにより、新幹線は福井県初の乗り入れとなり、敦賀以西の若狭(嶺南)地域を除く地域を一挙にカバーすることになりました。延伸区間の最高速度は時速260kmで、表定速度国内屈指の在来線特急として有名な特急サンダーバード(最高速度は時速130km)の約2倍となっています。とくに東京など首都圏から乗換なしで福井県に3時間前後で到達できるようになったメリットは大きいとされ、福井県は熱烈歓迎ムードとなっているようです。しかし、北陸以外の隣接地域の温度差は大きく、多くの課題を残しての開業となったこともまた事実としてあります。

JR在来線特急区間廃止で関西・中京圏にとってはデメリットの声も

新幹線開業区間と並行するJRの在来線は経営分離できるという整備新幹線の並行在来線ルールにより、金沢から敦賀までのJR北陸本線としての区間と特急サンダーバードと特急しらさぎの敦賀以北の区間は15日の最終列車をもって廃止となり、16日始発からは、石川県の第三セクターのIRいしかわ鉄道と、福井県の第三セクターのハピラインふくいによるローカル線のみの運行となりました。これにより、JR北陸本線の区間は、敦賀から米原までの区間を残すのみとなりました。

15日までは、大阪・京都などの関西地域からは、国内最速級の特急サンダーバードで、名古屋方面からは、特急しらさぎで直接、金沢・福井方面へアクセスできていました。とくに関西方面からの特急サンダーバードは圧倒的な速さと利便性を誇ることもあり、好評だったといいます。しかし、16日以降は、大阪・名古屋方面からの乗客は、敦賀から先は北陸新幹線への乗り換えを余儀なくされることから、そのことによるデメリットを悲観する声も多いといいます。目的地への到達時間だけでみれば、新幹線の圧倒的な高速メリットが功を奏し、短縮される場合が多いですが、乗り換えが必要なうえ、合計運賃では、高額な新幹線特急料金による大幅値上げになることから、時間短縮によるメリットは小さいのに対して、乗り換えの必要性による利便性低下や運賃値上げによるデメリットのインパクトのほうが大きいという見方が、関西地域や中京地域では多いといいます。乗り換えの必要性は仕方がないとしても、大阪方面や名古屋方面からの旅客を納得させるためには、そのデメリットに目をつぶってもよいと思えるだけの強力な割引施策を実行するしかないのかもしれません。所要時間よりも安さ優先での交通手段の第一選択肢となる、競合の高速バスとのシェア争いも不可避でしょう。高速バスは所要時間では明らかに不利ですが、とにかく運賃が安ければ、それくらいは目をつぶってもよいという利用者からは好評で、乗っていても腰が疲れないという若年層や旅慣れた旅客にはファンも多く、新幹線+在来線特急にとっては脅威的な存在となっています。

能登地震復興の支えになるか

北陸新幹線の敦賀延伸開業の時期が能登地震発災の時期に近いこともあり、復興の大きな支えになるという期待の声もあります。しかし、石川県内の宿泊施設は、被災者の仮住まいとしても利用されていることや、開業地域が被災地から遠ざかる方向への開業となることから、観光客増加による経済振興効果はしばらくの間は限定的とならざるを得ないという冷めた見方もあるようです。今後、被災地復興の取り組みが進み、被災地周辺の地域に余裕がでるようになってからは、北陸新幹線が震災復興を加速する可能性は見えてくるかもしれませんが、現状ではそれどころではないという見方もあるようです。現状では、観光客増加による経済振興よりも震災復興を最優先としたうえで、長い目でも守る必要があるでしょう。

全線開業は20年以上先、京都府市での根強い反対、敦賀終点確定論も

JR西日本は、敦賀から新大阪までの延伸ルート案について、小浜線の小浜駅近くに新駅を設置し、そこから南は丹波高地を長大トンネルで貫き、北側から京都駅に入り、京都から先は南側に抜け、松井山手駅を新幹線駅化して新大阪駅に至るとする小浜ルート案を決定しました。小浜ルート決定の理由としては、次のようなことが挙げられます。

  • 最も直線性が高く、候補ルートのなかでは最も線形がよいこと
  • JR西日本専用のルートであり、JR東海の反発に配慮できること(米原経由ルートの場合、米原〜京都間はすでにダイヤが密となっている東海道新幹線との併用となり、JR東海が難色を示すことが必至とみられる)
  • 滋賀県を通るルートの場合、経営状況が比較的よい湖西線の並行在来線化が難しい議論になることが予想され、滋賀県を通らないことで、それを回避することができるため。(滋賀県を通る場合、滋賀県にも相応の財政的負担が発生するが、滋賀県にとってのメリットが薄いため、理解を得ることは困難)
  • 舞鶴・亀岡を通過するルートの場合、大きな迂回が発生することとなり、総工費が高額になることが見込まれるため。

小浜ルートの場合、新小浜(仮称)〜京都間は山間部で人口分布がきわめて少なく、新駅設置の候補設定ができないため、長大トンネルで貫通するだけの、非常に区間距離が長い区間となります。この案に最も強い難色を示している地域のひとつが、美山かやぶきの里で知られる京都府南丹市です。南丹市にとっては、ただ単にトンネルが貫通するだけで、何のメリットもありません。そのうえ、建設作業でのダンプカーや新幹線の騒音が増えるだけで、閑静な里山が売りだった地域にとっては、致命的な打撃となるというわけです。長大トンネル掘削により、ヒ素などの有害物質(元素)が飲料水や環境水を汚染する可能性も懸念されています。

さらにその先、京都駅がある京都市でも根強い反対運動が起こっているといいます。京都市の場合は、用地取得の都合上、市街地の地下を貫通するルート設定になることが必至となるとみられ、埋蔵文化財逸失・損傷のおそれがあることや、京都の伝統食産業の生命線となる地下水脈の枯渇のおそれがあるといった、京都特有の地域事情が関わる切実な問題が指摘されています。仮に小浜ルートで事業着手の場合、敦賀〜新大阪間の開業は早くとも22年先の2046年になるとみられており、状況によっては、さらに長引く可能性もあります。

しかも、京都府はすでに東海道新幹線の大きな恩恵を受けており、「これ以上の経済的恩恵は不要」「環境破壊や文化財損傷のうえ巨額の財政負担が発生することによる新たなリスクのほうが明らかに大きい」といった見方があることが、根強い反対や期待薄の理由になっているようです。北陸新幹線の重要な建設目的のひとつに、南海トラフ地震などの大規模災害発生時に東海道新幹線が寸断されてしまった場合のバックアップ路線とすることがありますが、それならば、すでに建設が進んでいるリニア中央新幹線(東京・品川〜名古屋間で建設進行中、名古屋から西は、三重県・奈良県を通過するルートが有力)があれば、それでよいのではないかという意見もあります。

このように、JR西日本が一旦決定した小浜ルートの事業を「決定事項」として強行した場合、滋賀県・京都府での根強い反発は不可避となる情勢であり、現にそのために、いまだに建設着手に必要な環境アセスメントが進捗していません。このような異例の事態のため、建設による便益が明らかにプラスになることが見込まれる、東京から敦賀までの区間で完結してしまえばよいのではないか、反発をよそに、無理に建設する必要性がどこにあるのか、といったような「敦賀終点完結論」や、JR東海の理解を得る努力を惜しまず、米原経由ルートを見直すべきだとする「米原ルート見直し論」もでてきているといいます。とくに後者は、建設費が候補ルート中最小であるうえ、全線開業までの工期を大幅に短縮できる最も現実味のあるルート案であることから、福井県や石川県といった北陸地域の自治体が強く推しているといいます。JR他地域会社間には、想像以上に高い壁があるらしく、とくに他JRのテリトリーに入り、路線併用の協力を求めるような案の場合は、折り合いをつけるのを互いに避けたがる傾向があるようです。公益を最優先して、JR東海の理解を得るべく路線併用の交渉をするか、通過地域の猛反発や取り返しのつかない事態を覚悟の上で小浜ルート事業を強行するか、それとも敦賀止まりにするか、JR西日本には厳しい選択を突き付けられています。

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