これまで化学は設備型の産業といわれてきました。その一方で、生命倫理や科学的妥当性の観点からの動物実験廃止や、環境汚染や健康問題の反省からの大量生産・大量消費型の従来型化学工業の見直し傾向などの背景があり、産業としての化学そのものの変革が求められています。そこで追い風となるのは、やはり情報技術です。
ケモインフォマティクスで開発の精度が飛躍的に向上
ケモインフォマティクス(情報化学)とは、分子構造情報などの化学情報を精密に解析し、新しい知見を得る技術(学問)のことです。例えば、性質の似通った複数の化学物質があるとします。これら化学物質の構造式(2D/3D)を並べて比較し、化学構造に関する何らかの共通性を見出します。そして、それから導き出された知見をもとに、それら以外の物質を探索もしくは設計し、機能開発を試みます。そして、ほんとうに欲しい機能が実現できるかどうかを、半経験的なコンピュータシミュレーションで予測します。この考え方は、これまでも医薬品などのドラッグデザインにおけるQSAR(定量的構造活性相関)や工業用途に用いられる機能性物質(ファインケミカル)でよく使われてきましたが、長年にわたり動物実験で検証が行われてきたように、勘に頼ってきたところもありました。ところが、最近では、化学物質に関する知見が増えてきたうえ、化学計算の技術が進歩し、開発プロセスの精度が飛躍的に向上してきました。さらに、今後はAI(人工知能)の活用も想定され、化学情報ベースでの設計・開発と分子レベルでの検証試験(特定の酵素や受容体、培養細胞などを用いる動物実験代替技術)、臨床的検証といった、非常にシンプルな開発スタイルが一般的になるものと見込まれます。
IT企業のようなラボスペースも
検証試験を行わず、化学情報のアイデア出しに特化したビジネススタイルも、今後は十分に可能性があります。使うのは、コンピュータと人間の頭脳だけ。人間の頭脳でひらめいたことをコンピュータに入力・表現させ、コンピュータのほうが圧倒的に優位な計算をコンピュータで自動化、その出力をもとに、再度、人間の頭脳で解析・統合し、その結果を、アイデアとともに、検証試験等を行う設備や臨床試験のノウハウを持った製薬などの企業に販売するという、化学情報コンサルティングファーム型のスタイルも、今後は社会起業で現実味を帯びるでしょう。特別な設備も不要で、テレワークのメリットも活かせる業態ですので、里山地域での起業も現実的に可能であり、とくに、都会に近い里山であれば、実現可能性はよりいっそう高まるでしょう。
早すぎたアイデア?
実はこのようなビジネススタイルは、著者の私がこれまで実現したかったものの一つなのですが、当時は、世の中がそのようなビジネススタイルを活用しきれず、ビジネスとして成り立ち得ず、叶わなかったという苦い経験もあります。私も意外に思ったのですが、化学業界では、想像以上に、「化学構造式で考える」「化学情報を精密に解析する」というプロセスがほとんど実践されていなかったのです。化学情報の重要性の認識が想像以上に低い実態があったのです。しかし、これからは、動物実験もできなくなりますし、AIやビッグデータといった次世代型情報技術の発展が目覚ましいこともあり、化学情報コンサルティングファームは、これからの化学業界に求められるスマートな化学開発スキームを実現するうえでなくてはならない存在になる日もそう遠くはないと確信したいところです。
化学情報で起業できる人材を育てる唯一無二のオルタナティブスクールとして
もちろん、このような大学発ベンチャーと比肩する高度なテクノベンチャー企業を起業するには、それに堪えうる高度な化学教育が必要です。そのためには、そのような教育が実現できる指導者が必要です。著者の私は、銀鮒の里学校の発起人であると同時に、環境化学分野での研究により、農学の博士号を保有しており、大学研究室レベルの化学教育にも対応が可能です。小学部では、高校化学までのすべての内容を修得し、中学部では、大学で扱うようなケモインフォマティクスについてもしっかり学べるようにする予定です。おそらく、このようなことは、他のオルタナティブスクールではやらないでしょうし、やりたくてもできるものではないと思います。昨今の新型コロナウイルスや鳥インフルエンザ(新型インフルエンザ)のような新規感染症が社会を大きく揺るがし、その危機を救うための新薬が期待されているように、化学は社会のピンチを救う学問として見直されています。私が叶えられなかった夢を、唯一無二の学びができる銀鮒の里学校で叶えたい、そんな化学大好きなこどもたちに夢をつなぎたいと願っています。
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