きょうは国連環境の日

きょうは国連環境の日(世界環境デー)です。
環境保全運動といえば、まず第一に思い浮かぶのは、化学物質問題に関することではないでしょうか。栃木県と群馬県の県境の渡良瀬川流域、その上流部にある足尾銅山から有害な排煙・排ガス(硫黄酸化物などを含むとされる)・鉱毒水(鉛・カドミウムなどの有害重金属や硫酸などを含むとされる)が排出され、流域の生態系に甚大な影響をもたらした足尾銅山鉱毒事件は、日本で最初の公害事件として知られていますが、小学校の国語の教科書で、足尾銅山鉱毒事件を国に直訴した市民(農民)運動家、田中正造の伝記を学び、市民運動家精神に触れたという方も多いのではないでしょうか。

今から24年前の1997年、大阪府豊能郡の豊能郡美化センター(かつて能勢町に所在し、現在は廃炉後の跡地が太陽光発電所になっている)で、国内最高濃度といわれるダイオキシン類汚染が発覚し、大阪府のみならず、日本全国に衝撃が走りました。ダイオキシン類を非常に高濃度に含む排ガスの影響からか、汚染発覚の当時、豊能郡美化センターの風下側では、農作物の枯死などの異変が相次いだといいます。意外と報じられませんが、豊能郡美化センターや同様の処理施設でのダイオキシン類発生の主因は、分子に炭素ー塩素結合を含む塩素系樹脂(プラスチック)が低温で燃焼されたことが原因なのです。塩素系樹脂には、それ自体は燃えにくい自己消火性という特性があり、焼却炉全体の温度は十分に高くても、塩素系樹脂の部分が800℃以下の低温となり、その部分でダイオキシン類が生成するというわけです。

時代にあわせた市民運動情報の「バージョンアップ」も重要

ダイオキシン類問題を取り巻く社会情勢は、四半世紀前と比べると大きく変わってきていることもあり、時代にあわせたバージョンアップも重要となります。その際に、気をつけていただきたいことがあります。それは、ダイオキシン類の問題は決して終わったわけではないということです。食品包装用のラップフィルムなどのようなワンウェイ製品などとして、日常生活で塩素系樹脂を多く使用していると、それが焚き火の中に混入したり、火災が発生した場合に、ダイオキシン類の発生原因になります。塩素系樹脂が低温で燃焼されるような条件でダイオキシン類が発生しやすいという化学的事実は不変だということは決して忘却させてはならないのです。

社会情勢が大きく変わったというのは、ごみ焼却処理場の集約広域化に伴い、1200℃以上の高温で安定燃焼させることが可能な高性能の焼却炉が導入され、ごみ焼却処理場からのダイオキシン類の発生そのものが激減したということです。このことは、「ダイオキシン類問題は解決した」と誤解される理由になるので、解釈には注意が必要です。先ほど、塩素系樹脂には自己消火性があり、燃焼温度を下げてしまうと説明しましたが、実は、新型の焼却炉では、高温で安定に燃焼させるために、この性質に打ち克つための対策をしているのです。その対策とは、焼却炉の温度を上げるために、ごみとは別に重油を投入しているということなのです。ご承知のとおり、重油は化石燃料ですから、温室効果ガスの二酸化炭素をその分だけ余計に排出していることになります。言いかえれば、塩素系樹脂によるダイオキシン類生成の抑制対策のために、余計に温室効果ガスを出すという、環境対策のしわ寄せがきているということです。このような矛盾を解決するためには、どうすればよいでしょうか。まず第一に、化石燃料の浪費を余儀なくする根本原因の塩素系樹脂の使用・排出をやめるということがあります。よく自治体の環境局の方が訴える「生ごみの水切り」も重要な対策になります。さらに、ごみ処理の焼却依存から脱却するために、プラスチックごみそのものを減らすことも大切な考え方です。塩素やフッ素、窒素、硫黄を含まないポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)は焼却すると高温できれいに燃えますので、ごみ焼却処理場の職員も「むしろ可燃ごみに入れてくれたほうが助かる」と本音を漏らすこともあるくらいなのですが、プラスチックごみは、コンポスト(堆肥化処理)のような非焼却処理を妨げ、分解されてもマイクロプラスチックが発生して水環境を汚染する原因となることが問題となっていますので、将来のコンポスト処理(混合された可燃ごみから、堆肥化可能な生ごみなどの分別)への移行をスムーズに進めることができるようにするためにも、やはり減らすことが重要になるわけです。コンポストなどによる有機資源リサイクルの取り組みは、近年増えつつありますが、まだまだ普及していません。豊能郡の隣の京都府亀岡市で全国初の「プラスチック袋のレジ配布禁止条例」が施行されたり、国レベルでもプラスチックごみに関する新法が整備されつつあります。まずは、最も厄介な塩素系樹脂をなくすことから、そして、そのうえで、廃棄物処理の社会情勢が大きく変わるであろう将来を見据えたうえで、プラスチックごみの総量を減らしていくという方向で、プラスチックごみの問題を一人ひとりが考えるようにしたいものです。

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