ソーシャルリスクケア(SRC;以下、SRC)をご存知でしょうか。実は、執筆者の私が28年手がけている市民運動も、SRCの考え方に基づいています。SRCとは、社会的リスクを低下するために、各主体が行動しようという利他的行動様式を指すキーワードであり、SDGsの取り組みもSRCの取り組みの大部分をカバーしていることになります。
例えば、最近問題となっている鳥インフルエンザの問題を考えてみましょう。そこで、もし、SRCの考え方がなかったら、どういう考え方になるか、考えてみましょう。SRCの考え方がない場合、まず、「健康などで自分自身にとって損になることはないか」ということばかり考えるでしょう。ケージ卵を食べたことで、健康に直ちに異変が生じるということは少なく、健康によくないとしても、因果関係に気づくことは困難であるため、関心を持つことは困難であると考えられます。つまり、この問題はSRCの考え方がないと、解釈をし関心を持つことがきわめて難しいことがわかります。
直接的には水鳥以外の鳥類に危害が及ぶ鳥インフルエンザですが、人類にとっては、どのような脅威なのでしょうか。鳥インフルエンザは人畜共通感染症ですから、感染しますが、問題は、むしろ鳥インフルエンザウイルスそのものではなく、鳥インフルエンザウイルスをもとにして、ヒトに対して高病原性を示すように変異した新型インフルエンザなのです。あなたがケージ卵を食べていたとします。あなたがケージ養鶏に何ら問題意識を持たず、そのようにし続けるかぎり、ケージ養鶏はなくならないでしょう。富山県小矢部市で発生した鳥インフルエンザについての記事に示したように、ケージ養鶏は鳥インフルエンザの問題が深刻化する原因となっており、鳥インフルエンザウイルスは、ヒトに対して高病原性を示す新型インフルエンザウイルスの発生リスクを高めます。すなわち、ヒトの新型インフルエンザ問題を現実のものにしないためには、ケージ養鶏をなくすことが重要なのであって、そのためには、私たちが日常生活でケージ卵を求めないことが重要となるわけです。
ケージ養鶏の問題以外にも、合成洗剤による水質汚濁問題や、コーヒーやチョコレートの消費で児童労働が根絶されない問題など、身近にはSRCが関わる社会的課題がたくさんありますが、欧米諸国ではすでにSRCが生活の一部になる価値観が定着しているのに対して、日本はいまだに安いものばかりを求めるように、世界から遅れをとっているのが現状です。これは、日本の持続可能な発展を阻む最大の要因であり、直ちに是正が求められることです。誰からということではありません。一人ひとりが、この地球上の現実にしっかりと目を向け、それをみて思ったことに正直に行動に反映することが、今すぐ、私たちに求められることなのではないでしょうか。
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