カラス類は身近なウイルス運び屋:鳥インフルエンザ防疫に関するリスクシナリオ考察

1月27日、京都市内の空き地で、ワシの一種ノスリの衰弱死体が発見され、1日にその死体から高病原性鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が確認されたことは、都市部のすぐ近くまで、鳥インフルエンザの脅威が迫っていることを示しています。以前からお伝えしているように、都市部で最も身近な野鳥であるカラス類は、野生鳥獣の死肉や生ごみの残飯を食べるなどの、ゴキブリやネズミともよく似た、衛生上のリスクが高い生態があることから、他の野鳥が希少性でその調査優先順位が決まるという、鳥獣の種保護の考え方とは別の、防疫上の特段の注意が必要と考えられます。

カラスは都市部も、養鶏場が集中するような近郊部や農村部も行動範囲に入ります。このことから、次のような、バタリーケージ養鶏場における高リスクシナリオが考えられます。

  1. 高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)に感染して死亡した鳥の死肉をカラス類が食べる。もしくは、直接死因になりえないくらいの低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)に感染した鳥が、老衰・物理的事故など他の死因で死んだ鳥の肉をカラス類が食べる。
  2. 低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)に感染したカラスが糞を落とし、その糞(を含むもの)を他のカラス類が食べて感染、そのカラスの体内でHPAIに変異する。
  3. HPAIに感染した無症状ないしは軽症のカラスが、サイロ貯蔵やおこぼれの餌を狙って、バタリーケージ養鶏場を徘徊する。そのカラスの糞の粉塵がバタリーケージ内に入り、鶏がHPAIに瞬く間に感染する。
  4. バタリーケージ養鶏場を徘徊するLPAIに感染したカラスが糞を落とし、その糞の粉塵がバタリーケージ内に入り、鶏に感染(無症状)を繰り返すうちに、鶏の体内でHPAIに変異、そのHPAIウイルスをもつ鶏から瞬く間に感染する。

問題は、カラス類が糞などのかたちで、HPAIウイルスをバタリーケージ養鶏場に直接持ち込むような3のようなケースだけではなく、バタリーケージに直接持ち込むのはLPAIであって、それがバタリーケージの鶏に感染しているうちに、鶏の体内でHPAIに変異し、そこからHPAIの急速な感染拡大として発覚するようなケースが考えられます。逆に、よく報道されるワシ類のような多くの野鳥の感染リスクは、生態から考えてカラス類よりも低く、偶然、運悪く感染死してしまったと捉えるのが自然です。カラスの場合は、上記のように、感染リスクの高い生態をもっており、ウイルスベクターとして、よく問題視されるネズミやゴキブリのように、ウイルスが存在しない場所に、ウイルスを運んでしまうという可能性が無視できません。さらに、カラス自体も鳥類で宿主になりうるため、そのカラス自体が、ウイルスを高病原性に変異させてしまうというリスクもあるわけです。また、カラスの時点ではLPAIであって、そのLPAIにバタリーケージの鶏に感染したような場合は、ノーチェックとなる可能性があり、カラスが持ち込んだLPAIへの感染を鶏間で繰り返すうちに、高病原性(HPAI)に変異するような4のようなケースも考えられます。その場合、気づいたときには、感染拡大がかなり進んでしまっていた、というようなことも考えられます。

現実的な対処法

カラス類がウイルスベクターになるからといって、ネズミやゴキブリのように駆除することは非現実的です。他の野鳥についても同様です。AIウイルスを野鳥が持ってくることを完全になくすことは、現実的に不可能ですから、AIウイルスのリスクとうまく付き合うということになります。とくに、バタリーケージ養鶏場は、衰弱した宿主が多く、ごくわずかのウイルスでも感染が起こり、トランジスタの如く、感染爆発(ウイルスの増幅)がきわめて起こりやすい状況にあります。このことから、まず第一に、バタリーケージの卵やブロイラーの肉は食べない、工業的畜産物の消費抑制が重要となります。さらに、鳥類の肉や卵を求める生活様式そのものを見直し、可能なかぎり、それらを食べないことも重要です。鳥類の肉や卵を食べないこと自体は決して難しいことではありません。人の新型インフルエンザが現実のものになってしまってからは、もう手遅れです。それが現実になるのは、もう目前に迫っています。人の新型インフルエンザが現実のものになっていない今のうちに、原因自体を拡大させない、一人ひとりの熟考に基づく社会的なリスクマネジメントの取り組みが求められます。

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