厚生労働省は27日、HHCHの違法化後すぐに、HHCHと分子構造が酷似したHHCPを売る脱法行為が社会問題化したことを受け、同様の脱法行為と法規制とのいたちごっこに終止符を打つことを目指して、一定の化学構造論的条件を満たすHHCHやHHCPの類縁物質群を医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく指定薬物として包括指定する省令を公布しました。今回包括指定された化合物群は、「6a,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-6,6,9-トリメチル-6H-ジベンゾ[b,d]ピラン-1-オールの3位に直鎖状アルキル基(炭素数が3から8までのものに限る)が結合する物であって、1位、3位及び6位以外にさらに置換基が結合していないもの及びこれらの塩類」の化学構造論的条件を満たすすべての化合物で、省令公布日から起算して10日後にあたる翌年1月6日付で、これらの化合物の所持や使用、販売、流通などが禁止されます。
兵庫県では、この包括指定に先立って、HHCPなど、国の現行法では規制の対象外の物質を規制対象に含む独自の条例を運用し、話題になっていますが、県条例ということもあり、「身体への使用は禁止しても、所持までは制限しない」といったように、国の法律ほどの拘束力はなく、その実効性を疑問視する見方もありました。翌年1月6日以降は、前記の化学構造論的条件を満たすすべての物質について、無条件で禁止されることになります。
「脇が甘い包括指定は生命に関わる事故のおそれも」FMGが緊急警告・政策提言
果たして、今回の指定薬物の化学構造論的包括指定で、ほんとうにいたちごっこに終止符を打つことはできるのでしょうか。
結論からいえば、今回の包括指定は脇が甘く、まだまだいたちごっこを繰り返す可能性があるのではないかと、FMGは指摘します。
最近まで問題となっていた規制逃れのパターンは、HHCHやHHCPといった、6a,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-6,6,9-トリメチル-6H-ジベンゾ[b,d]ピラン-1-オール骨格の構造はそのままに、側鎖アルキル基の炭素数だけを変えるといった、化学的には非常に単純なものでした。そのため、厚生労働省も、大麻グッズ販売者の化学力はたかが知れていると高をくくったのか、側鎖アルキル基ばかりにとらわれた、「とりあえず」急場しのぎの包括指定になったのではないかと、FMGでは分析しています。包括指定の分子構造条件をみればおわかりいただけるように、6a,7,8,9,10,10a-ヘキサヒドロ-6,6,9-トリメチル-6H-ジベンゾ[b,d]ピラン-1-オール骨格、側鎖アルキル基、メチル基の置換基や、フェノール性水酸基の化学修飾に関しては、「1位、3位及び6位以外に置換基がないもの」と、条件指定を避けています。言い換えれば、「1位、3位及び6位以外に置換基がある」ものを合成することができれば、指定薬物の包括指定を逃れる脱法行為が、化学構造論的には可能ということになってしまうわけです。いわば規制当局と大麻グッズ販売者側との「化学力合戦」ですから、実際にされるかどうかはわかりませんが、今後もそのような視点で脱法行為が行われる可能性は十分にあり得るということになるわけです。このようなFMGの指摘に対して、厚生労働省医薬局 監視指導・麻薬対策課(以下、厚生労働省)は、その可能性を認めざるを得ませんでした。さらにFMGでは、今回の包括指定を逃れるための脱法カンナビノイドを合成する過程においては、置換基の種類によっては、新たな毒性の問題が生じ、場合によっては、生命に関わる事故が起こる可能性も否定できないことも指摘しました。なぜ、今回のような、脇が甘い包括指定になったのでしょうか。FMGはその理由を、厚生労働省に質問しました。この質問に対して厚生労働省は、「現時点においては、包括指定の範囲の分子構造の化合物についてのデータしかないので、指定しきれない」と答えました。この回答に対してFMGは、「簡単にデータ、データというが、一化合物についてのデータ取りは非常に時間がかかるものであり、そんなことをしていては、到底規制は間に合わない。機動的かつ実効的な規制を行うためには、電算機的な半経験的なリスク予測手法も駆使しながら、化学構造論的に最大限の規制を敷くべきだ。それくらいしなければ、規制当局と大麻グッズ販売者側とのいたちごっこに終止符を打つことはできないだろう」と釘を刺しました。さらにいえば、脱法行為そのものを罰することができるようにする必要もあるといえます。現在の法制度では、明らかに悪意がある脱法行為そのものを規制することは難しくなっているといいます。厚生労働省によると、これまでにもカンナビノイドの包括指定は何度か行ってきたといいます。規制当局と大麻グッズ販売者側とのいたちごっこはいつまで続くのでしょうか。今後の動きには注視が必要です。
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