能勢・ぎんぶなのうえんだより(2022年9月22日)

大失敗?大成功?

まずは、この写真をご覧ください。

固定種の大玉トマト(ポンデローザ)を植えている畝なのですが、トマトを基準にしてみれば、無残な大失敗だという方が多いのではないでしょうか。

でも、そこは、農芸化学屋のヘンな鮒!

ヘンな鮒は、これを、大成功だとみています。

「え?トマトが瀕死の状態なのに、頭、おかしいんじゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、では、なぜ、ヘンな鮒が大成功だと思っているのか、説明したいと思います。

手前の、白い花が咲いている、ワサワサと元気に茂ったハーブにご注目ください。これは、キャットニップ(Nepeta cataria)です。地上部にネペタラクトンという特有のイリドイドを含んでいることがわかっている、化学的におもしろい特徴をもったシソ科のハーブで、他の植物が合成しないような特有のイリドイドが、IPMに役立つかもしれない、ということで、イリドイドIPMの実証実験を兼ねて混植しているものです。この写真をみてわかるように、トマトとは(コンパニオンプランツとしては)最悪の相性で、トマトとの混植は禁忌であることが立証できました。これも、ある意味では、大きな成果だといえます。

キャットニップの特有成分ネペタラクトンの構造式

そして、キャットニップ周辺の土の表面に注目してみてください。向こうの方は、長雨の影響もあり、草がものすごい勢いで生い茂っていますが、キャットニップの周辺(根が及ぶ範囲)だけは、草の密度が非常に低いことがおわかりいただけるかと思います。ちょっと視点を変えてみると、これは、農作業の大きな悩みのひとつである、夏草の除草作業の軽減に役立つ可能性が見えてきたということになります。トマトとは混植禁忌ですが、ナス科以外の、できるだけトマトとは縁遠い作物とは、相性が合う可能性もありますし、非農耕地に植栽すれば、景観維持目的での除草作業の大幅軽減に使える可能性もあります。よく、アップルミントなどの植栽事例がありますが、これは、アップルミント自体の繁殖力が強すぎて、そのことが、俗に「ミントテロ」ともいわれる雑草化問題で問題になってきたという教訓があります。ところが、このキャットニップは株立ち性で、種を落とさないように刈り取りをしたり、適宜間引くことで、容易にコントロールができる種になります。今後、試験予定ですが、抗菌性ハーブでおなじみのオレガノなども、アレロパシーによる雑草抑制効果が期待できれば、同様に使用できる可能性があります。

キャットニップやバレリアン(Valeriana officinalis)を利用したイリドイドIPMの実証実験は、現在、病虫害リスク軽減に重点をおいて進めていますが、それよりもむしろ、雑草抑制効果が目を見張るものである可能性があることから、これまでは、草刈り機や除草剤で行われていたような除草作業の軽減による作業負担や環境負荷の低減効果も確認していきたいと考えています。イリドイドIPMについては、学術的共同研究に関心をお持ちの大学農学部や農業関係の試験研究機関(農業試験場等)、農業生産団体等を対象に、共同研究先も募りたいと考えています。学会発表等も視野に入れています。とくに、化学関連の試験設備と、GC-MSやHPLC-MS、NMR等の化学分析機器が利用可能な機関等からのお申し出をお待ちしております。

以前の記事で、大玉トマトが青枯病の危機だということをお伝えしましたが、経過観察の結果、モグラの加害と、この記事の写真のように、キャットニップの強力なアレロパシー(異種植物間他感作用)の影響であったことがわかり、青枯病終息宣言を出すことができました。大部分の大玉トマトは非常に健全で、多くの実をつけています。一見して失敗だと思えることにこそ、セレンディピティが隠れている。そのような、農業の未来を明るく変えるかもしれない、ちょっとヘンな発想ができるのは、教育農園のぎんぶなのうえんならではです。あなたも、農芸化学のディープなリアルに触れてみませんか?

【能勢の農地利用希望者を探しています】
能勢・ぎんぶなのうえんとは別の農地ですが、能勢・ぎんぶなのうえんの近くにある水稲用の水田と、野菜等を作付けできる畑の利用希望者を探しています。農業生産等で有効に活用できるよう、実際に定期的にほ場に出向き、責任を持って適切に管理できること(放棄状態にさせないこと)、その他、除草等の地域の要請に応えられることが条件です。詳しくは、銀鮒の里アカウントでログインのうえ、お問い合わせください。

能勢・ぎんぶなのうえんでの農芸化学・農業研修生も随時募集中です。

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