ラウンドアップで悪名高いモンサントを買収した独総合化学・アグリビジネス大手バイエル(日本におけるアグリビジネス事業会社:バイエル クロップサイエンス(東京都千代田区))は、農業の省力化技術であるアグリテックを意識したポータルサイト「Sora Navi(R)(ソラナビ);(R)は登録商標)」を開設・運営している。
Sora Navi(R)では、次世代型の空中散布デバイスとして、近年実用化が始まっているドローンをはじめとして、陸上走行型の散布デバイスの農業用無人車、専用デバイスを用いたハウス栽培用の病虫害発生予測・環境モニタリングサービス「Plantect(R)」と、いずれもバイエルの農薬を効果的に使用させるように誘導している。このことから、化学基盤のアグリビジネス事業体として、農業機械メーカーとのシナジーを期待しようとしていることがわかる。
「農業は楽してカッコいい」の罠
従来型の農業は、「3K1T(きつい・汚い・危険・低収入)」ということで、若者が就きたがらない職業であった事実は否めない。このことが、21世紀になって、農業を主産業とする農村地域の過疎をよりいっそう深刻化させ、日本の食料自給率を4割を下回るという危機的な状況を招いてきた。そこに目をつけたのが、旧モンサントを呑み込んだバイエルをはじめとする多国籍アグリビジネス勢力と、それらと連携するアグリテック機器メーカーだ。
Sora Navi(R)で紹介されているアグリテック機器を開発・製造するXAGは、中国広東省広州市にグローバル本社を置く中国系企業である。今やアメリカをも凌ぐ勢いの世界の新興勢力として注目されている中国の企業とドイツの老舗化学会社バイエルとがタッグを組み、日本の農家と未来の日本の農家の心を揺さぶろうとしているわけだ。
正直言って、農業は決して甘くない、過酷で厳しい職業である。だから、大地にしっかりと向き合うことで、ほんとうの農業の厳しさを思い知る一所懸命な農家であればあるほど、農業のきついイメージを根底から変えるアグリテックに期待を寄せるのは当然のことである。しかも、日本の農林水産省は、農家におけるアグリテックの導入に関して、新たな経済的支援(補助金)制度を創設しつつあり、NTTドコモ(東京都千代田区)も次世代通信規格の5Gを、ドローン制御などのアグリテックに応用することも視野に入れた近未来像プロモーションを展開している。このように国や大企業が社会をあげてアグリテックを推進しようとしていることからも、今後、アグリテックの成長は確実とみられる。そのまま指を咥えて傍観しているようでは、多くの援軍を据えたバイエルをはじめとする多国籍アグリビジネス勢力の思う壺になることは必至の情勢だ。
農業に少しでも関心がある若者が、Sora Navi(R)のコンテンツを読んだ時の反応を、客観的視点で想像してほしい。催眠術にかかっているように自分の意見を出さず、何も考えず、振り返らず、素直に捉えるということだが、おそらく、ほとんどの人が「これからの農業はずっと楽になり、カッコいいものになる」という期待を抱くことになるだろう。そこで目を覚ましてほしい。その「楽でカッコいい」農業がいったい何者が仕掛けようとしているか、ということである。楽でカッコいい農業に期待する新時代の農家が、当たり前のようにドローンや無人ロボットをスマホで操作し、当たり前のようにバイエルなどの農薬を散布するようになるのだ。現在の草刈り機での草刈りが当たり前であるのと同じように。
さらに、バイエルは、アグリテックの利用によって、農薬の使用量を大幅に削減できるとも謳っており、強い毒性に関わる分子構造を回避した新規化学構造の農薬とあわせて、従来の農薬に抵抗感を持つ農家や社会の意識を変えようとしているのだ。市民運動では当然のこととして、敵方の動きを知ることは、戦略上重要なことであるが、実際には、臭いものには蓋をする人が多いのが実態だ。しかし、これではいけない。
あえて古い農業技術を見直す理由
昭和の頃の農業は、手作業が当たり前だったが、機械化が当たり前になっている現在では、手作業は非効率だという固定観念が持たれることが多い。その固定観念に、銀鮒の里学校は疑問を持ち、「それなら、機械が当たり前の作業を、あえて手作業でやってみよう」と思い立ち、今では、毎日のように、能勢の大地を覆い尽くす雑草と造林鎌と手鎌とで格闘している。「手作業が(効率が)よいはずがない」と疑問の目で見られることもあるが、その結果は一目瞭然だ。今では誰しも使う草刈り機と遜色ないか、条件によっては、草刈り機よりも作業がはかどり、きめ細かな作業もできる小回りのよさでは、鎌での手刈りに軍配が上がる。要は、鎌という道具と大地との向き合い方が結果に現れるというということである。
近年では、農家であっても、農業の本質を知らない場合が多い。有機栽培や自然栽培を手がける人のなかでは、肥料成分(個々の元素)の働きすら知らない人も少なくない。そこで、農村社会起業の文化の火付け役の銀鮒の里学校は訴えたい。今こそ、宮沢賢治のように、化学を学び、大地としっかり向き合い、自ら頭脳と身体とを連動させて、大地から答えを得るという、農業の本質に立ち返っていただきたいのだ。そして、あなたは今、何が主体的にできるのか、何を主体的になすべきなのかを、真剣に考えていただきたいのだ。私たちがほんとうに希望する農業の実現のために。
こうして今日も、市民的な希望がもてる農業の実現を夢見ながら、ヘンな鮒は能勢の大地で鎌を振るう。
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