いかなごなどの不漁の原因を突き止める、ある小学生の自由研究が、自治体や市民の水環境対策の意識変革の動機づけとなった。下水道の普及や排水の栄養塩規制、森林の放置などが原因となって、陸地からのリン酸塩などの栄養塩の海洋流入が激減したことで、神戸市などの瀬戸内海沿岸の自治体が、瀬戸内海の貧栄養化を認めざるを得なくなったというのだ。今後は、栄養塩を除去することなく処理水を排出するなど、下水処理のあり方も変える動きが起こるとみられている。
昔は川にうんちしてもバランスがとれていた
昭和以前の農村では、川の上に設けられた厠でうんちをして、川に誰かのうんちが流れているといった光景も一般的だったという。しかし、この半世紀の間、栄養分が豊富なし尿は、富栄養化の原因として、目の敵にされ、大量のし尿を浄化するための下水道や合併処理浄化槽の普及が叫ばれてきた。農村部は人口密度が低いからこそ、うんち垂れ流しでバランスがとれるということもあるが、都市部でも、それほどまで栄養塩に対して神経質になる必要があるのか、新しく変わった環境意識のクリーンインストールが求められることになるだろう。
化学肥料に対する意識変革も
慣行栽培の農業では、窒素成分やリン酸塩を含む化学肥料をほ場に投入することから、化学肥料が富栄養化による水質汚染の原因だとして、この半世紀の間、問題視するのが、環境化学界でも常識であった。しかし、これからは違う。以前は最も富栄養化のレベルが高い海域のひとつであった瀬戸内海でさえも貧栄養に転じているからだ。肥料成分についての最新の化学的認識は、化学肥料成分で問題となるのは、硝酸性窒素(NO3-N;亜硝酸態(NO2-N)を含む)くらいであって、他の成分は、昔から清浄で優秀な肥料として使われてきた人尿の主成分(尿素)や天然鉱物と共通の成分など、とくに問題になることはないとされている。それどころか、軟水の水質の日本で不足しやすいマグネシウム塩やカルシウム塩は意識的に施肥したほうが作物の栄養的価値も高まり、病虫害に対する抵抗性が発達するなどの多くのメリットもある。酸性化の原因となるとし問題視された硫酸加里などの硫酸塩肥料も、作物によっては積極施肥が望ましいことも、昨日の記事で述べたとおりである。一方で、肥料メーカーで情報公開なく配合される、配合肥料の肥料添加物の問題もあるため、単一成分(単肥)の組み合わせで、原則完全消化を意識して使用するなど、農業で使用する可能性がある肥料について、化学肥料も天然鉱物肥料も有機肥料も、化学的視点から成分について棚卸しをし、肥料に関しての認識を再構築することも、新しい環境対策や農業改善の方策として必須になるであろう。
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