市民運動におけるCSVとはなにか

昨日開催されたESD全国フォーラムでは、「CSRからCSVへ」という発言をされていたパネリストがあり、たいへん印象的でした。従来のCSRと同じように、CSVという語句も、ビジネスにおけるガバナンスで使われるようになってきていますが、では、市民運動の主体にとってのCSVとは何でしょうか。

CSVとは

結論としては、和訳の意味を素直に解釈するのが最もわかりやすいといえます。CSRが企業の(Corporate)社会的(Social)責任(Responsibility)であるのに対して、CSVは創造(Creating)共有(Shared)価値(Value)、すなわち、共有価値の創造という意味です。ここで、市民運動におけるCSVという前提条件を設定していますが、これは、おもな対象を営利企業とした場合と、非営利公益運動体とした場合とでは、価値(Value)の解釈に、価値軸の違いに起因する大きな相違を生じ、曖昧さをもたらす可能性があるためです。そのため、ここでは、営利を目的としない公益運動体(NPO/NPP(=Non Profit Projects)、以下、NPO/NPP)におけるCSVに特化した前提での解釈を図ります。

一般的にいうCSVとは、経済(金銭)的価値を主軸とすることがあるため、解釈がややこしくなりますがここでは忘れてください。NPO/NPPにおける価値(V)とは、経済(金銭)的指標で量れない、定量化できない非金銭的価値を主とした非認識(非定量)価値のことです。例えば、持続可能な農業の実践研修をするとします。とにかく大地と主体的にしっかり向き合い、さまざまな主体的気づきを得る繰り返しの過程を通じて、主体的な価値創造を行うものですが、その創造された価値そのものには換金性はありません。研修に参加した各主体の人間力(ヒューマンスキル)の向上や、それを起動力(モチベーション)としてもたらされる、地方創生や教育振興(再生)などといったさまざまな派生的価値が、創造される価値になります。それらをまず各主体間でつなぎ、社会的に共有しましょうという考え方がCSVです。

ステークホルダー(利害関係者)に関して、CSRでは定義が曖昧と思われたことがあるかもしれません。CSVでいうところのステークホルダーとは、同様の経験をした各主体間で結びつく属性のことをいいます。いいかえれば、(互いに少しずつ異なっても、多くの共通点を持つ)価値観や想いを共有する集団属性のことであり、潜在的に(将来)参画が見込まれる人を含むNPO/NPPのメンバー(活動参加者)のことを指します。これにより、その活動機会をほんとうに必要としている人に対して、その活動機会によって創造される価値を確実に、かつ、共有的に実現するとともに、その価値の総和を最大化することができます。

銀鮒の里学校はCSVの先駆け

聡明な方でしたらもうお気づきのことと存じますが、非金銭的価値を重視し、脱商業的依存を目指すESDを掲げる銀鮒の里学校は、NPO/NPPにおけるCSVの先駆けであるといえます。少なくとも銀鮒の里学校の活動が始まる当時(2015年)は、金銭的価値でなければ見向きもされず、金銭的に割が合わないことを真剣にやっていると、変人扱いされるような世知辛さがありました。しかし、CSVという考え方が一般化しつつあるこれからは、それが大逆転すると見込まれます。金銭的価値ばかりを追求していると、そのような主体は淘汰の対象となり、逆に、これまでは割が合わないとみなされてきたような、カネにはならなくても世のため人のためになるようなことが重視されるでしょう。実はこれは、都会の社会では斬新に思われるかもしれませんが、農村では昔から大切に継承されてきたことです。こどものころに聞かされた、教訓を含む日本昔ばなしのような価値世界そのものです。努力したものが相応の報いを得られるというごくあたりまえのことを取り戻す社会の変革は始まっています。あなたもぜひ、銀鮒の里学校の取り組みに参画して、CSVのほんとうの意味を、あなた自身で実感してください。

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