【動物用医薬品】複合次亜塩素酸系消毒剤のリスクコミュニケーション

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昨日の記事にあるように、秋田県横手市で今季初の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)禍が発生し、政府や九州などでも緊急対策会議が行われるなど、全国的に動揺が拡がっています。鳥インフルエンザなどの有事の際には、必ず、発生した農場の周辺の主要道路に、畜産関係車両の消毒ポイントが設置され、ジデシルジメチルアンモニウム塩化物などの陽イオン界面活性剤(通称:逆性石けん)製剤などの動物用医薬品の消毒剤が散布されますが、今回の場合は、複合次亜塩素酸系消毒剤(商品名:アンテック ビルコンS)が使用されていたであろうことが、映像解析(下の写真参照)により確認されました。そこで今回は、家畜伝染病予防用途で広範に使われる可能性がある複合次亜塩素酸系消毒剤である「アンテック ビルコンS」についてのリスクコミュニケーション情報の共有を図っていきたいと思います。

HPAI発生養鶏場の近くの道路に設置された車両消毒ポイント(秋田県横手市)
「アンテック ビルコンS」(複合次亜塩素酸消毒剤;赤枠)が使用されていることがわかる。(映像出典:日本テレビ放送網(NNN)/秋田放送)

成分について

「アンテック ビルコンS」は、現在はエランコジャパン株式会社が製造販売を行っている、動物用医薬品登録がある複合次亜塩素酸系消毒剤です。(下記URLは、動物医薬品検査所(農林水産省所管)が運営する動物用医薬品等データベースの「アンテック ビルコンS」についてのデータです。以前はバイエル薬品株式会社が製造販売業者でしたが、製薬・化学業界の大規模再編に伴い、現在はエランコジャパン株式会社が製造販売業者となっています。)

動物用医薬品等データベース

動物用医薬品等データベースおよび医薬品添付文書によりますと、「アンテック ビルコンS」の有効成分は、ペルオキソ一硫酸水素カリウム(KHSO5)が50wt%、塩化ナトリウム(NaCl)が1.5wt%となっています。その他有効成分以外の成分について、ふなあん市民運動メディアは動物医薬品検査所に情報照会を行いましたが、製造販売業者との守秘義務を理由に、医薬品添加物等情報の提示は拒否されました。ペルオキソ一硫酸水素カリウムは無機過酸の構造(S-O-O結合)をもつ強い酸化剤であり、プロトンをもつ酸性塩であることから、水溶液は弱酸性と考えられます。希釈して水溶液として使用する製剤であり、実際に使用する水溶液の色は赤紫色であることから、調剤ミス防止のため、何らかの合成色素を含むものと考えられます。(有効成分そのものはいずれも無色です。)さらに、実際の製剤には、濡れ性向上による消毒効果の発現促進のための合成界面活性剤が含まれていると考えられます。(合成界面活性剤は、水で希釈して散布したり踏み込み消毒槽に入れて使用するタイプの製剤にはぼぼすべてについて含まれていると考えられます。石けん(脂肪酸塩)は酸性では加水分解するため、この場合は配合の可能性はありません。)

推定作用機構

ペルオキソ一硫酸水素イオンが酸性条件下で塩化ナトリウムの塩化物イオンを酸化することで、次亜塩素酸を生成し、この次亜塩素酸がおもにウイルスや細菌等に対する消毒効果に関与することを期待していると考えられます。次亜塩素酸には、多くのウイルスや細菌に対する失活・殺菌効果が認められています。医薬品添付文書において、アルカリ性物質混入禁忌とされていることからも、下式のように、消毒剤有効成分の次亜塩素酸としての効力の発現には、酸性条件の維持は必須と考えられます。

HSO5 + Cl + H+ → HSO4 + HClO

また、次亜塩素酸は消毒対象の有機物との接触によって消費され、塩化物イオンに還元され、もとの塩化ナトリウムの状態に戻りますが、ペルオキソ一硫酸イオンの存在と十分な酸性の状態が維持されるかぎり、その酸化によって、次亜塩素酸が再生されることを繰り返すことで、殺菌・消毒効果を維持すると考えられます。

環境リスクの考察

相対的にいえば、同様の用途に使用される陽イオン界面活性剤主剤の製剤と比べれば、主成分による環境影響は小さいと考えられます。但し、一般的に酸化剤が酸化活性を持った状態で環境中に多量に放出されることは、好ましいことではありませんので、クエンチ(還元剤による酸化剤の分解)処理が望ましいといえます。この場合は、主成分よりは、むしろ医薬品添加物(合成色素・合成界面活性剤等か)のほうが問題になる可能性があるかもしれませんが、医薬品添加物に関する情報の開示がないため、正確なリスク推定はできません。いずれにしても、スプレイヤーによる車両等への噴霧処理の場合、廃液は(ほとんどの場合)そのまま環境中に流出することになりますので、消毒剤成分による何らかの環境影響は不可避です。

酸化剤(過酸塩および次亜塩素酸)のクエンチについて

酸化剤のクエンチは還元剤による分解が通例です。具体的には、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)は観賞魚用カルキ抜きとしての使用実績があることや安価であることから、現実的といえます。その他、亜硫酸ナトリウムやL-アスコルビン酸なども使用可能です。とくに、チオ硫酸塩や亜硫酸塩の場合は、酸性条件で混触すると、有毒な二酸化硫黄ガスを発生する可能性がありますので、重曹または炭酸ナトリウムでpH調整(上昇)をしたうえで、クエンチ処理をすることになります。

医薬品添加物情報開示の法制化と農水省版PRTRの実施を政策提言

以上のことからわかるように、医薬品添加物等の情報が開示されないかぎり、製剤全体としての正確なリスク推定(アセスメント)はできませんので、動物医薬品検査所(農林水産省)に、人用の医療用医薬品の添付文書のように、配合全成分の開示を法制化することを政策提言しました。あわせて、以前の記事でも問題提起をしたように、陽イオン界面活性剤等の動物用医薬品成分について、PRTRの対象外(成分の多くが対象物質外であり、かつ、畜産業そのものがPRTR法の非対象業種)であることから、使用実態の把握がなされていない現状があるのは化学物質管理上、重大な問題があるとして、農林水産省で独自のPRTRに類する化学物質管理制度を実施することを政策提言しました。

コメント

  1. […] その他、同時に納入された消毒剤で、映像解析で見て取れるものとしては、アンテック ビルコン®S(デノボ生成型次亜塩素酸系消毒剤;エランコジャパン)、ラビショット(酸性エタノール主剤(手指消毒用);健栄製薬)があります。アンテック ビルコン®Sは、塩化ナトリウムの塩化物イオンを、モノ過硫酸水素カリウムの酸化作用で次亜塩素酸まで酸化することで、次亜塩素酸としての消毒効果を得る消毒剤で、おもに、鶏舎や車両などの対物消毒用として使用される消毒剤です。パコマよりは環境毒性リスクは低いものの、多用されれば、それなりの環境影響が懸念される製剤です。(アンテック ビルコン®Sのリスクコミュニケーション情報の詳細は、2021年11月12日配信の記事をご参照ください。)ラビショットは、主成分のリン酸酸性エタノールには問題がないものの、添加物にエチルパラベンや合成界面活性剤などが添加されており、手指消毒用として広範に使用する製剤としては安全性に疑問があります。 […]

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